035 夢
35話です。
「あー、分からん」
俺は書庫から持ってきた魔導書を閉じ、ベッドに倒れこんだ。
魔法は必ずしも自分の属性しか使えないという訳ではない。聖水に映し出された属性は自分と最も相性が良い属性であり、使い易い属性なのだ。
だが自分の属性だけが全てではない。自分の属性だけに縛られてはいけないのだ。
その為に魔導書がある。
俺がさっきまで見ていたのは『今年こそ貴方もあの子のハートをライトニング・シュート♡〜初心者編〜』である。ちなみにライトニング・シュートというのは光属性の上級魔法だ。
ネーミングセンスの欠片もない。
俺はどうやら光属性と火属性の魔法が上手く使えないらしい。火属性は威力は弱いもののなんとか使える状態にあるが、問題は光属性だった。
上手く使えない、なんてもんじゃない。
全く、これっぽっちも使えない。
初級の光魔法ですら出せない。
俺の属性に闇があるとはいえ、光魔法が全然使えないとは思ってもいなかった。
……他で補うしかない。
単純明快で、それが1番良いと考えた。
属性が分かってからの5日間、ひたすら魔法の訓練をロミオにしてもらっていたのだが光属性の魔法に関してはさっぱりだった。それとは反対に闇属性は威力が半端なく、初級クラスの魔法でも俺が使うと村一つ落とせるんじゃないか、って言うくらい恐ろしい力を発揮した。闇だけは3日で上級魔法が使えるようになり、今は最上級を習得中だ。氷魔法も今の所順調に上級までこぎ着けている。
ロミオには闇の適性が強すぎて光魔法が殆ど使えないと言われた。きっと火も光と同じような事が原因だろう。
「はぁー、もう少し頑張ってみるか」
俺は『今年こそ貴方も(以下略』を開き、魔導書に書いてある通りに頭の中でイメージする。
ー全身から溢れ出す光を中心に集めるイメージ。集めた光が熱くなりすぎないように今度は全身に熱を広げるイメージで、身体全体を暖かくする。
目を閉じ、イメージに集中する。
しかし、イメージ通りに熱を広げようとするとどうしても自分の身体の中に黒い靄の様なものが入ってきてしまうのだ。多分闇だろう。
「……チッ」
思い通りに魔法が使えず、つい舌打ちをしてしまった。一つの属性に特化していても面倒だ。
……このまま寝てしまおうか。
まだ夕方だがこの後は特に用事もない。気が立っている時は寝てしまった方が良い。
夕食の時間になっても起きなかったら誰かが起こしに来てくれるだろう。
そう思い、俺は瞼を下ろした。
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愛してる
愛してる
愛してる
世界中の誰よりも
愛してる
君が望むのなら
俺は何度だって言おう
例え君が世界の全てを敵に回したとしても
俺だけは君の味方でいると約束する
『ーー本当に?』
『あぁ、約束だ』
だからどうか
泣かないでくれ
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「……っ⁈」
またか。
俺は目を覚まし、ベッドの上で浅く呼吸する。
空は青と赤が混ざり合い、日が暮れようとしている。俺が寝てから大体30分位経過しているだろうか?
「……はぁ、またあの夢か」
夢。
たかが夢、だ。
それなのに、何で今俺はこんなにも胸が苦しいんだろう。何でこんなに切ないんだろう。
ベッドから起き上がって机に向かう。
机の上にはあの不思議な黒い本が置いてあった。
「ーーーあいにいきたふたりのおはなしなのです」
呟くようにして読み終わった俺は本を閉じる。
一体俺はこの本を何十回読み返したんだろう。たったの2ページしかないこの本に俺は何を求めているんだろう。
この本を初めて読んだ日の夜から不思議な夢を見る。愛おしくてたまらない、誰かと約束する夢だ。
俺はこの本の"かれ"に感情移入でもしてしまったのかかもしれない。
「……ハハッ、笑える」
俺は結構ドライな性格をしていた筈なんだけどな。
その誰かのことを考えるとどうにも感情が制限出来なくなるらしい。
俺の目から涙が溢れ出す。
どんなに拭っても止まらない。
俺はとうとうおかしくなってしまったらしい。
会いたい
会いたい
誰に、なんて分かるはずもない癖に。
35話を読んでいただき、ありがとうございます。今回も人物紹介します。
ロミオ=ミッドス
主人公の左隣の部屋の住人。緑がかった銀髪のショートヘアーで目は翡翠。14歳の美少年です。身長は平均的。スラムの癒し要素で主人公を兄のように思っている節がある。兎に角良い子なイメージ。貪欲に知識を追い求める為、博識。詳しい事は本編になります。
コラード=ルークエンシード
主人公の右隣の部屋の住人。茶髪のウルフカットで目は黒。18歳で身長は180位ある。ガタイが良いがツッコミ気質なところがある。
こいつも本編で。




