031 ③
31話です
「『 むかしむかしのおはなしです
とあるちいさなむらにおとこのことおんなのこがうまれました
ふたりはとってもなかよし
いつもいっょにあそんでいました
しかしおとこのこがしょうねんになるころ
おとこのこはむらをでることになってしまいます
そこでおとこのこはおんなのこにやくそくをしました
"いつかつよくなってきみをむかえにくる"と
おんなのことおとこのこはなくなくわかれます
そしておんなのこはおとこのこととのやくそくをまもるため
むらをいちにちもはなれることはありませんでした
つきひはながれ、かれにせいちょうしたおとこのこはむらにかえってきたました
そしてかのじょとなったおんなのこをむかえにいきます
かれとかのじょはしあわせでした
しかしあるひむらにわるいひとがやってきます
そこでかのじょはかれをかばいかえらぬひととなってしまいます
かれはながいあいだかのじょをだきしめてないていました
ふと、かれはおもいつきます
かのじょがさみしくないように
かのじょのたましいをむかえにいこうと
かのじょのたましいがきえないうちに
かれはかのじょのたましいをさがすことをきめました』……あれ?」
ページを捲る音がひたすら響く。
「……どうした?」
「いや…ここから先のページがなくて」
川田さんから本を貸してもらいページを捲ってみると、確かに4ページ以降から何もかかれていなかった。
「なんだこれ?未完のまま終わってるのか?」
けど、そう考えると続いている真っ白なページの説明が出来ない。ハードカバーだからちゃんとした本の筈だ。
「俺にも見せて見せて!」
考えても何も出てこないのでとりあえず広瀬の言う通りに本を渡す。
…この本はこの部屋の主が書いたオリジナルの本なのか?だとしたら他の本と一緒にせず、机の引き出しの中にしまっておくのもわかる。
けど、罠を仕掛けるほどのものかと言われたらそうでもないような気がする。
……というか何故鍵をつけなかったんだ?
最大の疑問はそこだった。俺だったら絶対に鍵をつける。見られたくないものなら尚更だ。
この部屋の主はもしかしたら誰かに見つけられるのを分かっていたのかもしれないな。そうじゃなきゃ罠を仕掛ける意味がない。
「……な、なぁ。川田さんもう一回読んでくれねぇか?」
渡された本読んでいた広瀬が何故か川田さんにそう言った。
「?いいけど…むかしむかしのおはなーー」
「ストォーップストップっ‼︎」
「どうしたの?」
読み始めた川田さんを、広瀬は冒頭部分でいきなり中断する。
広瀬は川田さんから本をとり、堀に渡すした。
「委員長、読んでみて」
いつになく真剣な表情で言う。
「分かった?……っ‼︎むかしむかしあるところにそれはそれはうつくしいおひめさまがいましたーー。どうなってるんだこれ?」
「宮脇も一応確認して」
俺の手に本が回ってくる。
確かに冒頭部分は堀が読んだ通りだった。
「……読む人によっては内容が変わる本なのかもしれない」
「でも変わったのは川田さんだけだよね?どっちが本当の内容か分からなくない?」
確かに堀が言った通りどっちが本当の内容か分からない。どっちも本当かもしれない。
「……川田さんと俺達が一緒に見れば良いんじゃない?そうすれば内容が変わっても分かっし」
広瀬にしてはいい事を言ったと思う。
俺達は川田さんが開いた本を読むことになった。
早速川田さんが本を開く。
「……あれ?変わってなくね?」
やはり川田さんが開いても本の内容は変わっていないように俺達には見える。
「川田さん、川田さんが見えている本の内容はやっぱり俺らが読んだものと違うか?」
「…うん。何度見てもむかしむかしのおなしです、から始まってる」
なんなんだこれは。
もしかしたら読み方が違うのかもしれない。
…縦読みとか横読みとか。
「川田さん、これって横読みだよな?」
「うん、横に読んでる…」
「だよなぁ…。じゃぁさ、読んでる所を指で追ってってくれるか?」
「うん分かった。やってみる…
むかしむかしのおはなしです
とあるちいさなむらにー」
「ごめん川田さん、またストップ」
「⁇」
これで謎が解けた。
「川田さんさ、おはなしです、のところを一気に3字として読んだの気付てる?」
「え?違うの?」
「そこをよく見て一文字ずつよんでみて」
「むかしむかしあるところにそれはそれはうつくしいーーぇえ⁈何これ⁉︎」
「俺達にはどうしても3文字でおはなしです、とは読めない」
「でも私には3文字でも読めるし、一文字ずつでも読めるんだけど…」
「っというか、なんで俺らの中で川田さんだけなんだろう」
そこが問題だった。
何故川田さんだけなんだ?
「…もしかしたら古代の人は川田さんの方の内容で読んでたんじゃないのか?」
堀が考えながら言う。
「でもそしたら川田さんが古代から来た人になっちゃうよー」
それもそうだ。
「…えっとその。ねぇ、流石に戻った方が良いんじゃないかな?大分時間が経ったと思うんだけど…」
「「「あ」」」
川田さんの言葉に俺達は凍りついた。
「とりあえずこの隠し部屋の事は王宮の人に言って調べてもらおうよ。」
苦笑しながら川田さんが部屋の扉を開ける。
俺は後ろにいる2人をみると、何故か広瀬が辺りをキョロキョロと視線で忙しなく何かを探していた。
「…なぁなぁ、シルヴィオさんどこ行った?」
今度は川田さんも凍りついた。
「いや、俺達があんまり長いから先に部屋の外へ出たかもしれないし!仕事しにいっただけかもしれないし!」
「……でも足音も扉の音もしなかったよな」
大分年季がいっている扉だ。
開けたらすぐに音がして気がつく。
「俺達が集中してたから気づかなかっただけかもしれないしぃぃい!とにかくここ出よーぜ、夕飯までの時間に間にあわなきゃ騒ぎになっちまうし!」
広瀬は部屋から早く出ることを俺達に促し、俺達は王宮に戻ることとなった。




