028 とある本の話
28話です
「これはここで…、これはどこだ?」
今俺は書庫の整理を頼まれている。
スラムの地下街で書庫整理…
まずスラムっていうのに何で書庫規模で本があるのかが不思議で仕方ない。
この書庫はカルロさんの庇護下にいる者なら誰でも使えるよう解放されているから俺もよく使わせて貰っている。
…まぁだから俺が書庫整理を頼まれたんだけどな。
本のジャンルはバラバラ、辞典や魔道書もあれば絵本もある。どうやら何か本を見つけ次第この書庫に放り込んでいるようで、整理なんてとてもじゃないが出来ない。
「……これはどこだ?」
さっきと同じ台詞を言う。
本当にこの本をどこにおけば良いのか分からない。題名や著者名は一切書かれていない、黒一色の薄いハードカバーの本だ。
…魔道書でも題名位は書かれている筈なのに
しかしジャンル位分からなければ置き場所に困る。何だか呪われていそうな本を、俺は意を決して読んでみる事にした。中身を確認しないと分からない事もある。
本を開くと、最初の3ページは何故か空白で、4ページ目から話は始まっている。それは子供向けの本にしては少し違和感がある内容だった。
『 しかしあるとき、かれはきづくのです
かのじょはけっしていなくならない
きえない
かれはかんきしました
こんなにしあわせなことがあるでしょうか
かれはかのじょといっしょにせかいをわたりあるきました
かのじょといっしょならなにもこわくありません
けわしいやまみちでも
こおりのあめがふっても
ごうごうとおとをたててもえるだいちでも
せまりくるこうずいにいきをうばわれても
あれくるうあらしのなかでも
まぶしすぎるひかりにめをやかれても
かれはかのじょといっしょならどんなこだってのりこえられたのです
なにもかもつつみこんでくれるかのじょを かれはあいしました
かのじょはいつもそばによりそっていてくれるかれをあいしました
そう
これはあいにいきたふたりのおはなしなのです 』
……"かれ"は愛しすぎだろう、と思える内容であったが、これはこれで良い話だと思った。子供が夢に見そうな話である。
何故話が途中から始まっているのかは些か疑問に思ったが、きっとこの2人の馴れ初めの話が入るのであろう。
これで話は終わると思っていたが、幾ら本が薄いとはいえこれで終わるはずかない。まだまだページが余っている。
次のページをめくろうと、手を掛けた。
しかし、次のページはまた空白である。
次のページも、その次のページも何も書かれてはいない。
……もしかしなくてもこの本は何冊かに別れて保存されているのに違いない。作者は遊び心豊かな人だな。
しかしそうすると、何冊かに別れている本を全部購入しなければ買った意味がない。
紙が黄ばんでいてボロボロになっている事からかなり古い本だという事は分かる。逆に文字がちゃんと読めた事が奇跡に思える位だ。しかし、年代とこの本がスラムに流れてきた事から持ち主はもうこの世には居ないだろう。
「……もしかしたら、整理したら続きが見つかるかも」
俺は何故かその本が異様に気になったので書庫の整理をしながら続きを探すことにした。
結果から言うと
本の続きは見つからなかった。
3日間ぶっ続けで書庫の整理をし終わったが、あの本は俺が読んだ一冊しかなかった。
今日はもう切り上げて良い、とレオナルドさんに言われて俺にあてがわれた部屋に行く。
俺が住んでいるのは寮みたいなところで、カルロさんの庇護下にいる人達が風呂なり調理場なり共同で使っている。寮に住んでいる人達は快く俺を迎い入れてくれて親切にしてもらっていた。
「おぅ、アオイお帰り」
「アオイ君、お疲れ様です」
部屋に行く途中話しかけてきたのはコラードとロミオだ。
コラードは俺の右隣、ロミオは俺の左隣の部屋の住民である。
「書庫の整理は大変だったでしょう?前は僕が係をやってたんで気持ちは分かります」
「係って…、じゃぁロミオがずっと書庫の整理をやっていたのか⁈」
あり得ない、と溢す俺にロミオは苦笑する。
「僕がいつも一人で頑張っているのに次にやる時は必ずグチャグチャで…もう全員殺したいと思いましたよ」
殺伐とした言葉とは裏腹に良い笑顔でロミオは言った。
言動と表情が全く合っていない。
「そうなんだ…あ、じゃぁこの本は知ってるか?」
そう言って俺はロミオに例の本を渡した。
「……?題名も何も書いていないようですが、この本はどこで?」
「片付けてた書庫でだ。ロミオなら何か知ってるんじゃないかと思ってな」
「なんだなんだ?いかがわしい本か?」
ロミオが本をめくって読んでいるのをコラードが後ろから覗き込む。
「……話は、…どうやら普通の絵本みたいな話ですね。続きはなかったんですか?」
「あぁ、結構探しまくったんだけど見つからなくて」
「そうですか…すみません。この本は見た事ないと思います、僕が忘れてるだけかもしれませんが…」
ロミオが申し訳なさそうに俺に言った。
「いやいや、あんなに本がある中で覚えていたら逆に凄いよ。ごめん、ありがと」
「力になれなくてすみません…。アオイ君も部屋に行って片付けたら夕食の時間なんで食堂に来てください」
「分かった、すぐに行くよ」
そう言ってロミオは俺に本を返し、コラードと一緒に食堂へと向かっ行ってしまった。
俺はこの時気づかなかった。
ロミオとコラードが読んだ本の内容が、俺が読んだものと全く別物だったなんて。




