027 ③
27話です
結果から言おう、俺はぐれた。
「……おい、んな落ち込むなって。害は無いんだしさ」
俺は今何故かレオナルドさんに慰められている。
俺そんなにあからさまに落ち込んでたか?
「いや、レオナルドさんには俺の気持ちなんて分かんないっすよ。ずっと信じてきたものが覆されるんですから。…あ、ヤベ」
「気にするだけ無駄だと思うけどな…。うし、また俺の勝ちな。お前はスピードはあるから後は判断力と筋力だな」
レオナルドさんはとても強い。
頼りがいもある、ハイスペックイケメンだ。
だが、俺は年下だとは認めない。こんなイケメンが年下なわけがない。
「おら、すぐ立て。呑気にしてる間に殺されることも少なくないんだから」
「はい!」
レオナルドさんの言う通りにすぐ立ち、短刀を構え直して対峙した。
この数日間、スラムで生きていく術をひたすら叩き込まれている。闘い方に接客の仕方。
襲われた時は誰の名前を使うのが一番有効かなどもだ。
何気にスラムは楽しい。
生きているという実感が出来る。
俺は、今自分がこうしている原因となったカルロさんとの会話を思い出した。
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鏡を見て呆然している俺に構わずカルロは話しを進めた。
「オメェよぉ、俺達がこの後に及んで神をまだ信じていると思ってんのか?」
「……」
「スラムは行き場を無くした奴が最終的に行き着く場所だ。だが、スラムで産まれた奴らは?人は生まれる場所を選べねぇ。神に祈った奴なんて腐る程居る。お前も神に祈った事ぐらいはあるだろう?どうだ?助けてくれたか?」
そうだった。どんな時だって、結局誰も助けてはくれなかった。
「神なんていねぇ、信じねぇ。実態がないものを誰が信じる?人を助けるのは人で、裁くのも人。スラムに居る連中のほとんどはは無神論者だ。いや、現実主義者と言った方が良いか?」
「……」
俺は何も言えなかった。
だってどれも正論だ。
この世界での神の存在の認識がどうなっているのかはわからない。
が、神は人間が作った妄想の産物であり、弱者が縋るものであるというのが俺の認識だった。人はどうしようもない状況に陥った際、絶対的強者に助けを求める。
例えそれが存在しないものだと分かっていても、だ。
「スラムに落ちた奴は誰かの庇護下に入らなければ生きていけない。お前はどういうわけかいつの間にか俺の領域に入っていた。まぁ、俺の庇護下に入ることには変わりねぇ。俺が不満だと言うのなら違う領域に行け、お前が決めろ」
知らない間にカルロの領域に入っていたんだ。
どこからどこまでが誰の領域なんて分かる筈もない俺に、選択肢は一つしかない。
「カルロさんの配下にくだります」
「……よく覚悟した、潔い奴は嫌いじゃない。おいレオナルド」
「はい、カルロさん」
「こいつに色々と教えてやれ」
「了解です」
……あれ?これで終わり?
てっきり色々と根掘り葉掘り聞かれると思っていたけど、以外とアッサリ終わった。
レオナルドさんに縄を解かれ、ついてくるように言われる。
「……そういや、自己紹介がまだだったな。俺はレオナルド=アダーニだ。これからお前の数ヶ月の世話を任されることになった、よろしく頼む」
「…よろしくお願いします」
その後、俺は地下街と地上を説明の為に連れ回された。レオナルドはスラムについての事を大体把握しているのか、覚えるべき事が沢山ありすぎて混乱してくる。
「少し休憩するか、何か飲み物を取ってくるからここで待ってろ」
レオナルドは世話好きのようだ。
最初は刃物を突きつけてきたのに、今ではすっかりフレンドリーだ。あれか、懐に入れた奴には甘いってやつか。
レオナルドが二つ分の木製のコップを持って戻ってきた。中は暖かいスープだ。
「……」
「……」
飲んでいる時は、会話はない。
「……あの、俺の事何も聞かないんですか?」
俺はずっと気になっていた事を聞いた。俺が空から来た、と言った時はあんなに不審がっていたのに今は何も聞かないでいてくれる。カルロでさえも名前を聞いただけで、他は何も聞かなかった。俺にとってはそっちの方が助かるが、逆に謎だ。
「…スラムの奴らには色々言い難い事情の奴らも居んだよ。追われているのやつもいれば家出のやつもいる。スラムにいる奴らは来る者拒まず、去る者追わずが基本だ。お前も、ここを去る時はカルロさんに一声かけて行けば概ねどうにでもなる」
確かに、そう考えればスラムとは案外生きやすい空間なのかもしれない。
「ちなみに言っとくが、領域のリーダーの庇護下に置かれるのは"落ちてきた"奴だけだ。そこにスラム出身者は含まれてねぇ。よく路上で見かけるボロを着た奴らがそうだ。スラムで生まれた奴は大抵のやつが下衆で屑で、生きる為なら何でもする。ガキでも侮れねぇ。なるべく奴らには近づくな」
レオナルドの服装を改めて見れば確かにスラムに居るとは思えない程、一般人と同じ様な服装をしている。そういえば、地下街に居た人達は皆そうだった気がする。見分けがつきやすくて良い。
「……何か、優しいのか厳しいのか分からない世界ですね、スラムって。」
一口スープを飲む。
どうやら食べ物や飲み物は奪われる可能性があるから地下街でしか食べてはいけないらしい。
「……だろ?」
「レオナルドさんと呼んでも良いですか?」
「当然だ」
なんだかこの人とは仲良くなれそうだ。
それからひたすらレオナルドさんと談笑しあった。
スラムは以外と優しい世界だった。




