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すみませんが、誰か助けてくれませんか?え?そんな余裕はない?ではさようなら  作者: 南瓜
序章 始まりは計画的に、終わりは唐突に
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016 王宮生活〜勇者陣営〜

 メイド表記を使用人に変更しました。

 同じ名前の登場人物が出てきているというミスをしてしまいましたので、勝手ながらローラ専属使用人のパールをリベルという名前に変更します。誠に申し訳ありません。



 「おら、もっと踏み込み強く!!」


 「はぁ、はぁ」


 「返事はどうしたぁあ!!罰として素振り500本!!」


 「は、はぃぃい」


 「つぎぃい!!」


 「は、はい!!」



 キン、と金属のぶつかり合う音が響く。見ている生徒達はみな表情が固く、全員男子だ。



 (……どうしてこうなった)



 俺は打ち合いを列に並んで待ちながらよく晴れた空を見上げた。


 それは1週間前のこと



 ◆◆◆◆◆◆



 「ーー宮脇君、大丈夫?」



 近くから聞き慣れた声が聞こえて、眩しい光に目を瞑っていた俺は恐る恐る目を開ける。

 目の前には一人の女子生徒がいた。学校で隣の席に座っていた女子だ。



 「まだ目がチカチカするけど大丈夫、態々ごめんね七瀬さん」


 「いいよ、偶々近くにいただけだから」



 俺が少し申し訳なさそうに言うと、七瀬んさんは笑顔で答えてくれた。



 「ここは……」


 「うん、ここって……」



 首を回して辺りを見る。生徒達のざわめきだけが聞こえていた。

 頭上には大きなシャンデリア、床は大理石のような石でできている。さながらダンスパーティー会場のような広い講堂の中心に俺達はいた。そしてそれを取り囲むかのように全身を白いローブで包んだ集団がただ黙って俺達の様子を伺っている。

 他の生徒達はというと、誰もが顔を困惑に染めて友人達と話したり怯えている者もいる。騒ぎ出す人がいなかっただけ良かったのかもしれない。



 「……せ、成功しましたわ」



 俺達とは少し離れた所から声が聞こえた。他の生徒もその声に気付いたのか、急に静まり帰る。



 「つ、ついに、遂にっ!成功しましたわっ!!」


 ーーーワァァアアア



 その声を皮切りにして白いローブの集団が湧き上がって喜ぶ。皆被っていたフードを脱いで喜びを分かち合い、中には抱きしめあって子供のように泣いているの者もいた。

 当然ながら、生徒達の殆ど(一部を除く)が状況を理解できずに唖然としながらその光景を見ている。



 「…すみません、三日三晩この場所に籠り切ってやっと願いが叶ったのです。どうか今だけは彼らをお許しください」



 未だ騒ぎが収まらない中、生徒達の方へと歩いてきたのは一番最初に声を上げた女性だった。



 「申し遅れました。異世界の皆様方、ようこそお越しくださいました。(わたくし)はホルストフ帝国第ニ王女、ローラ=サリスト=ディ=ホルフトフ と申します。早速ですがこれから別室へと案内させてもらいます。此方で準備が出来次第、王の間にてお父様に謁見してもらいますので、くれぐれも失礼のないようお願い致します。リベル、後はよろしくね」


 「はい、ローラ様」



 生徒達に自己紹介したローラはピシャリ、とさっきの喜びの声とは逆に淡々とした声で言い放ち、側に控えていたメイドに生徒達の案内を任せて出て行ってしまった。



 「皆様方の案内をさせて頂きますローラ様専属使用人、リベルと申します。それでは別室へと御案内致しますので私について来て下さいませ」



 何なんだ?このよく似た主従は?

 その場に残ったメイドも主人と同じ無表情で言い、生徒達も大人しく後ろをついていくことにした。



 ◆◆◆◆◆



 「私のお役目は此処までとなります。中には使用人がおりますのでお食事などをご希望される方はお申しつけ下さいませ。では」



 生徒達が全員中に入ったのを確認するとリベルはまたもや無表情でそう言い、部屋を出て行く。

 中には数人の使用人が既に待機しており、お茶を入れる準備をしていた。



 「あ、あの‼︎ありがとうございました!!」



 出て行こうとするベリルの後ろ姿に翔は叫ぶ。



 「いえ、私は姫様に申し付けられた事をしたまで。失礼します」



 抑揚のない淡々とした声で言われ、今度こそ彼女は部屋を出て行った。

 広い部屋に案内された生徒達は椅子に腰掛け、出されたお茶を飲む。


 

 「なんかさ〜、やけに手際よくねぇ?異世界人が来たらこうもっと、キャーとか勇者様ーとかなるんじゃねぇ?」



 生徒の一人である小川が言う。



 「今の時点で誰が勇者とか分かる訳ないだろ」


 「いや宮下が勇者じゃなくて?」


 「その可能性が一番高いけど、脇役パターンもあるぞ。肝心の女神様は誰が勇者とかは言ってなかったしな」


 「さすが広瀬、馬鹿なのにこうゆう局面にだけは強い」


 「うっせ!!」



 小川の疑問に広瀬が答え、軽口を交わす。



 「このお茶おいしいね」


 「お腹空いた〜」


 「どうする?メイドさんになんか頼む?」


 「うぉぉお、明日ゲームの発売日だったのにぃい!!」


 「俺達これからどうなんのかな…」


 「よっしゃー、遂に俺の時代が来たぜ!無双してやんよっ!!」


 「……」



 小川と広瀬のやりとりに他の生徒達もいつもの調子を取り戻し始めた。多分あの二人は空気を読んでくれたのだろう。唯の馬鹿ではない。

 部屋全体が教室のような賑やかな雰囲気になり始めた時、問題が起きた。



 「か、かけるぅ…怖いですわ」


 「翔……私、凄く、不安」


 「……私は生徒会長失格だ。生徒の危機に何も出来ないなんて」


 「べべ別にっ!別に、別にっ!……別にぃ」



 部屋の中心で茶番が始まった。ツンデレはもはや何が言いたいのかサッパリ分からない。



 「大丈夫!僕が絶対みんな守るからっ!!」


 「「「「翔……」」」」



 こればかりかは部屋の中にいた使用人も目を丸くして見ている。

 寸劇が始まった途端、生徒達は話しを止めて、翔達を睨む者や不快そうに目さえ向けない者もいた。



 「宮下、この状況で"大丈夫"なんて言葉根拠もなく使うな」



 生徒達の様子を見て、みんなの心の声を代弁して俺が宮下に言う。



 「大丈夫なものは大丈夫だよ。俺がみんなを守ってあげるしなんとかなるって」



 至極当たり前の事を言った筈だったが翔には効かなかった。

 頭が良くてもこいつは正真正銘の馬鹿だ。



 「ちょっとあんた、翔を非難するつもり?」


 「翔には守れる力……ある。お前には、ない」


 「どうせ翔が勇者に決まってますわ!!翔は特別なんですのよ!!」


 「翔は私が選んだ男だ。一介の生徒が否定するなら容赦しない」



 ハーレム達が次々に言葉を投げつけるが俺は慣れている。それくらいは聞き流すことが出来る。



 「みんなっ!!和秋の言う事を分かってあげて!!僕が考えもなしに大丈夫なんて言ったのが悪いんだ!!和秋は僕の事を心配してくれてるんだよ!!」


 (お前の心配なんてしてねぇよ)



 聞き捨てならない台詞が聞こえたが、なんとか堪える。



 「翔がそう言うのなら……宮脇!!翔に感謝しなさいよねっ!!」


 「今回は見逃してあげますわ」


 「……分かった」


 「流石翔だな。こんな奴にまで優しいとは」



 ハーレム達はそう言って身を引いた。

 ちょうどその時扉を叩く音が聞こえ、ローラが入ってくる。



 「失礼します。準備が整いましたので王の間へとご案内します」



 そう言って生徒達をよく見もせずに歩き始めた。

 慌てて生徒達はその後をついていく。



 「この世界の事は王の間にて謁見が終わりました際、此方で説明させて頂きます。皆様方にはこの王宮で暮らして頂くことになりますが魔導師や騎士としての訓練などをもらいます故、ご了承下さい」



 長い廊下を進み、ある豪奢な扉の前でローラは止まった。



 「ローラです。異世界の皆様方をお連れ致しました」


 「うむ、入れ」


 「失礼します」



 扉の向こう側から男の声が掛けられ重そうな扉が両サイドに開く。

 まず生徒達に見えたのは少し奥に位置している玉座、そこに座っている黒い髭を生やした男が王であろう。少し傲慢な印象を与える男だ。その傍には和秋達と同じ年頃位の少年と少女。

 玉座へと続いているレッドカーペットの両脇には貴族であろう者達や甲冑で身を包んでいる者達が立っている。

 ローラに続くように生徒達はレッドカーペットを歩き、王の前で立ち止まった。



 「ローラ、ご苦労であった。さ、私の側に来なさい」


 「はい、お父様」



 ローラはそう言い、少女の隣に立つ。

 その途端、音を立てて貴族や騎士達がその場で片膝をつき胸に手をあてて頭を垂れたので、慌てて生徒達もそれに習った。



 「面をあげよ。異世界の客人たちよ、急に呼び出してすまない。私の名はヴァイヌス=サリスト=ディ=ホルストフという、このホルストフ帝国の第56代目の王である。来て早々に悪いのだが、其方らの力を貸して欲しいのだ」



 王の言葉を引き継ぎ、ローラが言う。



 「今この世界は破滅へと向かっています。原因は魔王の復活。7年前に魔族率いる魔王は一つの国を滅ぼし、その大陸を乗っ取りました。それからというものの、魔族の侵略は激化し抑えきれないところまできています。そこで我がホルストフ帝国は禁忌の勇者召喚を行う事にしたのです」


 「其方らの力を貸してほしい。魔王を倒した暁には地位と名誉を約束しよう。どうだ、我らと共に闘ってはくれまいか?」

 


 笑顔で王は告げる。



 「勿論です!!困っている人を見過ごす訳にはいかないっ!!必ず僕が魔王を倒してみせます」



 王の話を聞き、宮下は急に立ち上がって叫んだ。



 「その者!!王の御前であるぞ、控えよ!!」


 「構わん、其方の勇気、しかと受け取った。他の者らはどうする?」


 「翔が闘うと言うのなら私だって闘いますわ!!」


 「……私も」


 「この国の為だから!べ、別に翔の為じゃないんだからね!!」


 「……生徒が闘うのなら私が闘わない訳にはいかないな」



 王の言葉に取り巻き達は我先にと発言する。

 しかし他の生徒は一言も喋らないままだ。



 「……すみませんが、発言をよろしいでしょうか」



 手を挙げたのは眼鏡が恋人のクラス委員長、堀だった。



 「許す」


 「ありがとうございます。自分達は唯の一般市民、闘いとは無縁の世界で育ちました。闘いとは危険が付き物、離脱者は元の世界へと返して頂けるのでしょうか?」



 堀の発言に王の眉がピクリと微かに動くのを俺は確かに見た。目が良い者でなければ決して気付かないであろうその動きに、一体何人気付いただろうか。



 「ちゃんと元の世界へと戻す魔法はある。しかしあの魔法は一回発動するのにかなりの労力がかかり負担も大きい。帰る時は魔王を倒した後其方ら全員で送り帰す事になる。他の質問はこの後受け付けよう。今は闘う意志を問いたい、闘う意志がある者は立つが良い」



 暫くは動かないままでいた生徒達も一人、また一人とゆっくり立ち上がっていく。流石日本人、周りの雰囲気に逆らえないのが常である。

 最終的には全員が立っていた。



 「して、一体誰が勇者なのだ?一人の筈なんだが……」


 「……何か勇者の印や証みたいなのはないのでしょうか?」



 黙っている生徒達を代表して堀が王に聞く。



 「おぉ、そうだったな。アルマ、聖剣をここに」


 「はい、父上」



 今度は傍に控えていた少年が一本の剣を王に渡す。



 「これは聖剣スラリンという。鞘に収まっている状態だが…勇者の者にしか抜けないらしい」


 (……スラリンwww)



 こう思ったのは絶対に俺だけじゃないだろう。やけに可愛い名前だな、ゆるキャラにいそうだ。



 「……はぁ、この通りだ。抜けた者が勇者となる」



 王は聖剣スラリンを鞘から抜こうとするが抜けなかった。ローラに聖剣を渡し、堀の所まで持っていく。



 「……っ!」



 しかし堀には抜けず、他の生徒も抜こうと全員に渡して行くが石のように固く、抜くことができなかった。



 (次は俺の番か)



 遂に俺の番が回ってきた。後ろには宮下しか残っていない。



 (……ダメ、か)

 


 やはり俺にも抜けず、それを見ていた生徒達からは明らかに落胆した雰囲気が伝わってきた。聖剣か宮下の手に渡る。

 宮下が聖剣を抜こうとグリップを握った瞬間、聖剣の鍔に埋め込まれている青い宝石が強く輝いた。



 「…わっ?!」



 翔はその輝きに驚き、反射的に手を動かす。

 シャッと軽い音が響き、翔の手には白銀に輝く剣が握られていた。



 「……抜けた」



 宮下は唖然として呟く。周りの取り巻き達はキャアキャアと騒ぎ完全に空気を読んでいない。



 「其方が勇者なようだな、名を何という?」


 「カケル=ミヤシタです」



 王の問いに宮下は静かに答えた。



 「ローラ」


 「はい、お父様」


 「この者達に世界情勢の事と知識をーー」


 「お父様っ!!お待ちくださいっ!!」



 王の言葉は翔の前に躍り出てきた少女に遮られた。



 「お父様、この者達への教育はこの(わたくし)にお任せ下さい!!お姉様は召喚の儀でお疲れでしょうし、私が適任です!!」


 「……分かった。シャルロット、お前に任せよう」


 「ありがとうございます、お父様!!」



 ローラの代わりにシャルロットと呼ばれた少女が生徒達の前に立つ。



 「お初にお目にかかります、ホルストフ帝国第三王女、シャルロット=サリスト=ディ=ホルストフ と申します。これからよろしくお願いしますね」



 そう言って、ローラとは反対に蔓延の笑みでニッコリと笑いかけた。

 翔に。



 ◆◆◆◆◆



 それが一週間前の出来事だ。

 今やシャルロットは宮下にベッタリで中々離れようとしない。取り巻き達は勇者の宮下とは別行動にさせられたので静かにしているが、不満は溜まってはいるだろう。好きな男子が他の女子と一緒にいる所なんて見たくない筈だ。勇者と普通の生徒は訓練のメニューは違うのか、食事の時以外はあまり宮下を見かけなかった。


 生徒達の剣や魔法の教えは騎士達が全てこなしている。ちゃんとした異世界人用の座学の授業もあった。



 (……蒼、今何処にいるんだ?)



 俺は仲の良い友人の事を思い出す。

 蒼がいないことは他の生徒も直ぐに気がついた。王宮の方で頼み込んで秘密裏に捜索を進めてもらっている。



 「宮脇君っ!!」


 「ぅおっ?!……なんだ、七瀬さんか。どうして此処に?」



 女子は今の時間は座学だった筈だ。



 「お昼の時間。今日は偶々男子呼びに来る係になったんだよ、ほら、行こう?」



 思考に耽っていた為、傍に七瀬さんが来たことも気がつかなかった。周りを見れば殆どの男子生徒が外での片付けを終え、王宮に向かっている。



 「ごめん、ありがとう七瀬さん」


 「……」


 「……?どしたの七瀬さん?」


 「…でいい」


 「……?」


 「(ゆかり)でいい、あたしの名前。七瀬さん、ってなんか他人行儀だし」


 「え、ええと…」


 「兎に角!!紫で良いからっ!!さん、はいっ」


 「………………紫……さん」


 「何故にさんを付ける」


 「だってなんか慣れねぇし…」


 「……これから慣れてけばいいよ」


 「…だったら俺のことも和秋って呼んでよ」


 「へっ?」


 「いや、だってそうしなきゃ不公平だろ。君付けもなしな、和秋って呼べ」


 「……分かった。行くよ、和秋」



 紫は俺から顔を逸らし、さっさと歩く。顔が赤いのはきっと見間違えじゃない筈だ。



 「おぅよ、紫」



 そうして俺達二人は王宮に向かって歩き始めた。




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