015 現実
「お二人は冒険者なんですか?」
「あぁそうだ。私達はパーティーを組んでいてな、実はもう一人居るんだが…今はギルドで待たせてある」
「あいつぜってー遅い、って文句つけてくるぜ」
「誰のせいだと思っている‼︎」
俺達は話しながらギルドへと向かっていた。
ふと、前の二人が足を止める。
「……?」
「着いたぞ」
「……て、えっ?ちかっ!!」
「この町のギルドは大通りを抜けたすぐ先にあるんだ」
歩き始めて数分、他の建物よりも二周りほど大きくて頑丈そうな建物の前に俺達は立っている。確かに、建物の扉の横にある銅板なには"ギルド"と掘ってあった。
(これじゃあ案内してもらった意味が……)
「ムラカミ、そう落ち込むな」
「今度はちゃんと探索してから人に聞くんだな、うん、良い勉強になったと思えば…」
分かりやすく落ち込んでいる俺に二人の励ましの言葉がかかり、余計に虚しくなった。
「そういえば……ムラカミはどうしてギルドに来たんだ?」
ラムが思い着いたように口にする。確かに、とマイクも不思議そうな顔で俺に視線を向けた。
「それはですね、登録しに来たんです」
俺がそう言った瞬間二人は硬直したが、すぐに真剣な表情になってラム詰め寄られる。
「ムラカミ、残念だがそれは諦めた方が良い。お前はまだ子供だ、危険すぎる」
必死な顔でラムさんがそう言ったが俺も自分の生活がかかっているのだ。ここで引くわけにはいかない。しかも子供じゃないです。歴とした17歳です。
「ラムさん、危険が伴う分かっていますがーー」
「わかってないっ!!」
(……人の発言を遮るなよ)
俺の言葉はラムさんーもうラムでいいやーの叫びによって遮られ、流石の俺も段々と苛々が募っていく。
「お前は何も分かっていない…っ!兎に角駄目だ、そもそも何故冒険者になろうと思ったんだ?誰かに勧められたのか?!」
ラムは興奮し過ぎて自分の瞳孔が開いていることに気がついていないだろう。俺は若干引きつつも、何も言わないマイクを救援の意味を込めて一瞥する。
「……」
俺が視線を投げかけても黙っているあたり、助け舟を期待しても意味がなさそうだ。
「はぁ…」と溜息をつき、ラムの説得を試みる。
「ラムさん、聞いて下さい」
「いや、どんな理由があったとしても私は認めない!」
(…これじゃあどっちが子供か分からないな)
ラムはもはや駄々を捏ねている子供にしか思えない。ひたすら「嫌だ嫌だ」と言っている姿はオモチャ売り場で欲しい物を買ってもらえない子供のようだ。結局、どんなに頑張ってみてもラムは俺の話を聞こうともしなかった。何かラムが必死過ぎて逆にこっちが冷めてきた。
「ラムさん、あなた自分勝手過ぎますよ?」
「お前には到底理解出来ない事だ!!お前なんか、ギルドに案内しなければ良かった…っ!!」
ラムは最後に一言そう叫んでギルドの中に入って行ってしまった。
俺は唖然としてその場に立ち尽くすことしか出来ない。
(何?ひたすら喚いた挙げ句、逃走しやがったあの女…)
大人気ないと思う。
「……ムラカミ、ラムを悪く思わないでくれ。あいつは昔色々あってな…複雑なんだ。それとーー」
マイクは一旦言葉を区切り、俺を見る。
その目は完全に敵意を表していた。
「ーー俺もお前みたいな子供が冒険者になるのは反対だ。俺達冒険者側にもプライドってもんがあんだよ、そうホイホイ入られてたまるかってんだ」
「……っ!!」
マイクなら冒険者になるのを許してくれると思っていたが、どうやら甘かったようだ。
「あと数年経ったら歓迎してやるよ、じゃあまたな」
俺の返事をする余裕も与えずにマイクもギルドの中へと消えていく。
(…最悪だ)
俺はどんな集団の中でも溶けこめることを得意としていた。ただひたすらコミュニケーション能力を磨いていた時期もある。自然体として、人の中に自分を残す事に専念していた。
(……なんだ?冒険者ってそんな身勝手なのか?パーティーとかどうやって成り立ってんだよ…)
いつまでもその場に立っていると通行人の邪魔になる、と思いギルドの扉へと手を掛ける。
(大丈夫だ俺、やれば出来る)
そう自分を鼓舞して、俺は扉を開いた。