014 悩み、解決
ここら辺から少し内容を付け足しております。14話です、どうぞ。
突如真後ろから男の叫び声が聞こえ、俺の身体は吹っ飛んだ。
ーーズザァァア
訳も分からないまま吹っ飛ばされた身体は地面に叩きつけられ、そのまま滑る。
一瞬の静寂
どこからともなく短い悲鳴が聞こえ、その場に居合わせた人達は何だ何だ、と次第に集まり始める。
いつまでも地面とこんにちはをしている訳にもいかず、覚束ない足取りで俺は立ち上がった。背中から襲われたので、上半身を中心に痛みが走る。俺が吹っ飛ばされる前までいた場所には一人の男がいた。立ち上がった俺を見て、顔を怒りに染め大股で近づいてくる。
「おい、テメェ‼︎ラムに何してやがった?!」
男の声が吹っ飛ばされる前に聞いた声と同じ声であることに気付き、自分を吹っ飛ばした張本人だと理解する。
「何したかって聞いてんだよ!!」
「……」
ただ無表情で目の前の男を見つめた。何かしようとした前に吹っ飛ばされたんだが…黙っている俺に痺れを切らしたのか、襟首を掴んで捻り上げる。
(手が早い男だな…。勘違いもこれほどまでになると唯の公害だ)
流石にこれは頂けない。暴力反対だ。
「…早く答えろやぁ!!」
男は青筋をたてながら俺に向かって拳を振り上げた。
「そこまでだ」
凛とした声が辺りに響き渡る。
気がつけば話しかけようとした女性がいつの間にか男の背後に回っており、その首に剣を突きつけている。当然男は固まっていた。
「ラム、何してんだ」
「それはこっちの台詞だ。お前こそ何をしている」
「何って…お前、こいつに絡まれてたんだろ?よりによってラムに絡むなんてこいつも運がねぇな」
「待て待て待て、勝手に話しを進めるな。そもそも私はその少年を知らないぞ?」
「え?」
「え?」
「えっ」
男の顔から段々と血の気が引いていく。どうやら自分の非に気が付いたようだ。
「わ、悪りぃ!!」
男は慌てて俺から手を離した。それを見たギャラリーは素早く人々の雑踏に帰って行き、数秒でいつもの賑やかな町に戻っていた。あまりの早さに驚く。
(心変わり早すぎだろ…)
「あー、町のやつらはこういう事慣れてんだよ」
俺の心情を察したのか、男が気まずそうに言う。
「慣れてんだよ、ではない!」
「いっ〜〜」
すると女性が鋭い突っ込みと脛蹴りを男に放った。結構な早さで放たれたそれは男に多大なダメージを与えたであろう、痛がり方が半端じゃない。
「私の仲間がすまない事をした。何か詫びをさせてはくれないか?」
「いえ、お気になさらずに…」
習慣とは恐ろしいもので、俺は反射的にそう答えてしまった。
「いや、そういう訳にはいかない。何でも…とは行かないが、出来る限りの事をするというのを約束しよう」
凄い勢いで詰め寄ってきた女性は俺の返事を待つ。
「そうだぜ少年。飯を奢ってもらいたいとか、何か買って欲しいとか、治療費寄越せとか…何かないか?」
いつの間にか復活した男はさっきとは打って変わって、気安く話しかけてくる。
その言葉にしばし悩み、俺は口を開いた。
「実は俺…昨日の夜この町に来たばかりなんです。今日はギルドに行こうと思ってたんですが道が分からなくて…そこで貴女に聞こうと思い、話しかけようと思ったんです」
「それは……本当にすまない」
「なので、ギルドまでの道案内とお二人のお名前を教えて下さい」
「「へ?」」
二人が驚いたように俺の顔を見る。そんな不思議なことではないと思うが…
「駄目ですか?」
「いや、別にそれは構わないが…本当にそれだけで良いのか?」
「はい」
「……そうか」
実際、俺にとっては結構有益な事だったりする。男は確かに"よりによってラムに"と言った。ラムというのはこの女性の名前で間違いないだろう。きっとこの二人は名が知れ渡っているほど有名か、この町でも上級層に与している人間であることを予想する。
(コネは持っておくだけ、損はしないだろう)
裏でそう考えていた。
女性が俺に向き直り、真っ直ぐな瞳で言う。
「私の名前はラム=ヒューストンという。それでこっちがーー」
「マイク=ワグロイズだ!!」
「ラムさんにマイクさんですね。自己紹介が遅れてすみません、俺はアオイ=ムラカミと言います」
俺が名前を名乗った途端、二人は顔を顰めた。何か変なことをいったか?
「……アオイ?」
「はい、アオイです」
ラムさんが再度確認して、何か考えるような仕草をしている。
「?」
「あ、いや。"アオイ"とは宗教用語なんだ。名乗る時は使わない方が良い」
「……そうなんですか、教えてくれてありがとうございます」
「このくらい、どうってことないさ」
ここで漸く俺はシャリーヌ村の人達が"ムラカミさん"としか呼ばないのかが分かった。
(なるほど…宗教用語だったのか)
「では早速ギルドに向かうとするか、ちょうど私達もギルドに用があるしな」
「よろしくお願いします」
そう言って、俺はラムとマイクの後ろをついていった。