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すみませんが、誰か助けてくれませんか?え?そんな余裕はない?ではさようなら  作者: 南瓜
序章 始まりは計画的に、終わりは唐突に
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010 遭遇


 みんなのお兄さん的な存在で、子供達の中では憧れの的になっているヴィルナ家の長男ーーシュライン ヴィルナは激しく疲弊していた。それもこれも、弟のウォルガの所為だ、と半ば責任転嫁をする。



 (……俺、寝てもいいかな?)



 隣で黒髪の青年ーームラカミと何やら談笑していたウォルガを見て溜息をつくのだった。


 ことの始まりは2時間前まで遡る。


 ◆◆◆◆◆



 俺ととウォルガは夜の森の中、月明かりと星の輝きを頼りに隕石のような何かが落ちた所へと向かっていた。森、といっても何かが落ちた影響で生い茂っていた木々は殆ど薙ぎ倒され、地面に生えていた筈の草花が吹き飛ばされて地面が丸裸にされており、唯の荒野になっていた。夜の森は魔物達が活発化しているから危険だと言われてきた兄弟だが、魔物達も流石に逃げだしたのか、歩いているものは俺らしかいなかった。よって、障害物があれば遠くにいても丸見えだったのである。暗闇の中でもウォルガが"それ"を見つけることが出来たのは、何ら不思議ではなかった。



 「兄ちゃん!!あれって…!!」

 

 「………?……ッ!!」



 森の中を歩いて十数分、何かを見つけたのであろうウォルガが前方を指差し、声を上げた。不思議に思いながらもウォルガが指を指した方向に目を向けた。そう、目を向けただけで分かってしまった。暗闇の中で見つけた"それ"を見て息を呑む。


 ウォルガが指を指した方向ーーちょうど山の天辺にあたったであろう位置に1人の青年が横たわっていた。

 青年はニルアーナの黄金に輝く光を一身に浴び、その影響で青や紫にも見えるこの世界では比較的珍しい黒髪がサラサラと風に揺れる。そして何より、その青年を守るかのように渦巻いている風。ズォッと刃物を振り回すかのような音を立て、時折銀色に光っては青年に近づくもの排除しようとしている。青年は俺達の方向に顔を向けて横たわっていたので意識がないことはすぐに分かった。

 その光景はあまりにも異質で、とても幻想的。荒れ狂う風の中心、まるでそこだけ時間が切り取られたかのようにその青年はただ懇々と眠っていた。



 「……………………誰だ?」


 俺はその光景に呆然としながらも、ポツリと一言呟く。

 隣にいたウォルガも、兄の聞こえてきた声にハッと正気を取り戻したのか、矢つぎ早に疑問を声に出す。



 「兄ちゃん、何あれ?あの人誰?あの風なに?!近くに行ったら死ぬかな?!あとーー」



 興奮したウォルガは益々ヒートアップしていく。最初は普通の声の大きさだったのが段々叫び声になっていった。


 ウォルガが疑問を叫び出してから数十秒、青年を取り巻いていた風が段々と小さくなり、風が止んだ。流石のウォルガもそれに気付き、青年のいる方向に目を向ける。俺はジッと青年を見つめた。


 ーーモゾ、と黒髪の青年は身じろぐ。と今度はゴロゴロと身体を右、左へと転がった。そして一際目をギュッとつむったかと思うとカッと見開き



 「硬い!!」



 と叫んだ。



 ◆◆◆◆◆



 それから何故か青年は蹲りながらシクシクと泣きだした。その場に居合わせた俺らは青年をそのまま放っておくわけにも行かず、取り敢えず互いに自己紹介をし、アオイ=ムラカミと名乗った青年を家に連れて帰ることに成功。家に帰る途中、ウォルガに手を引かれながら「ぎみだぢは、なんでいぃごだちなんだあぁ〜」と泣きながら感謝の言葉を言われたのは言うまでもない。

 ヴィルナ兄弟の家は大きくもなく、かつ小さくもなく、至って普通の木造建築の家だ。玄関で兄弟を出迎えた心優しい母ーーサラは子供のように泣きくじゃるムラカミを哀れに思ったのか、すんなりとムラカミをヴィルナ家に滞在することを許可した。それが1時間前である。今はリビングでウォルガがムラカミに質問攻めをしていた。



 「ウォルガ、ムラカミさんはまだ体調が良くないんだからその辺にしとけ」


 「え〜、別にいいじゃん」


 「シュライン君、俺はもう大丈夫だよ」



 俺の言葉にウォルガは不満の声をあげる。ムラカミは困った風に笑いながら返事をした。



 「1時間前まで泣いてた人が何言ってるんですか。ちゃんと部屋で休んで下さい」


 「…色々迷惑をかけちゃってごめんね、本当にありがとう。お言葉に甘えて今日はもう休むとするよ」



 そう言ってムラカミはヴィルナ家で用意させてもらった部屋へと向かい、リビングのドアを閉めた。



 「ウォルガ、あんまりムラカミさんを困らせるなよ」


 「…分かってるよ。それにしても、ムラカミさん気の毒だよね。偶々森の中にいたとはいえ、隕石が落ちてきた衝撃で記憶なくしちゃうなんてさ」


 「……そうだな」



 家に着いた時、泣きながら自分自身のことを話してくれたムラカミを俺は思い出した。どうやらムラカミは自分の名前は覚えているが、此処が何処か、どうして自分があそこにいたのか、またこの世界がどうゆうものなのか全く分からないと言った。恐らく星か何かが落ちてきて偶々森に居たムラカミはその衝撃で頭をぶつけて記憶を無くしたのであろう。そうなるとムラカミは旅をしていた可能性が高い。なんとも同情を誘う話しである。

 それを聞いたサラも顔を歪めており、「私達家族が……いえ、私が!ムラカミさんを元気づけてあげなくちゃっ!!」と鼻息を荒くしていたことを思い出し、苦笑を漏らす。



 「…ウォルガ、お前も早く寝るんだぞ」


 「…うん」



 俺は一言ウォルガに声をかけ、リビングを出る。



 ◆◆◆◆◆



 扉越しに兄ちゃんの廊下を歩く音が段々と遠ざかっていくのを(ウォルガ)は聞いていた。

 


 「…人の信用を得るのって難しいなぁ」



 リビングに一人残った俺がそう呟いたのを、誰も知らない。



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