09 約束の端で 〜勇者陣営〜
(……どうしよ)
俺は悩んでいた。このまま起きていいものか。顔を少し上げ周りを見てみると、あたり一面の真っ白い空間が広がっており、その中に自分達が倒れている。生徒達はみんな仲良く夢の中に旅立っており、動いのは俺だけ。そう、この宮脇和秋こそが一番最初に目が覚めた者だ。
(…動きたくねぇ、めんどくさ)
俺は起きることはせずにじっと周りを観察してみるが、特に白い空間以外何もなく眉を寄せる。俺は自分達の状況を分かっていた。
(異世界召喚…しかも巻き込まれ)
自分にそっちの知識があって良かったと溜息をつく。全員が勇者という可能性もあるが、最初に宮下の足元だけ魔法陣が現れたことを考えるときっと勇者は宮下だけではないかと考えるのが妥当だ。
「……う?…此処は何処だ?!」
(うるさい)
少し離れた距離から宮下と思われる声が聞こえた。叫ぶ必要性が見あたらず、宮下はこんな時でも宮下なんだ、と変に感心する。既に宮下叫び声で目を覚ました者も数人いたが、本人は全くそれに気付いていない。
宮下の叫び声にビクッと俺のすぐ隣にいる男子生徒が反応したので、宮下の近くにいた生徒は確実に起こされたであろう。
(…俺もいい加減起きるか)
半分くらいの生徒が起きたのを確認し、俺だるそうに身体を起こした。周りにはまだ起きていない生徒が数人いたので他の生徒と一緒に起こすのを手伝う。2人目の生徒を起こした時、前方で虹色に輝く光玉が現れ金髪美女になり、勝手に話しを始めた。
「私の名は女神フォーリス。異世界のーーーーー」
しかし、状況を理解している俺は女神の言うことなど全く聞かず、キョロキョロと生徒達の顔を一人一人確認していく。中には数人目を輝かせている者や、やけに達観している者もいたが気にしないでおこう、そして目的の人物がいない事に肩を落とす。
俺は魔法陣に引きずり込まれる前、確かに自分を助けにきた村上を見た。取り巻き達がこの空間に居ることもあり、あの2-3の教室に居た生徒全員が居ることに違いない。
しかし一番後ろの方にいる俺は当然、前の方の生徒の顔は見えない。きっと蒼は居るだろう、と思い込もうとするが、嫌な予感がぬぐえなかった。
ーーーー全員ーー38名ーーーーーー」
(……38名?)
たまたま女神からその言葉が聞こえ、違和感を覚える。
(確かひとクラス36人の筈、そこに取り巻き達4人がいるから39人じゃないのか?休みの人なんていなかったと思うし…?)
俺は蒼に早く席につけ、と言われた時のクラスの光景を思い出した。あの教室には殆ど全員が席について古典の授業を待っていた。数人出歩いていたが、それも教室の中だけで先生が来た時に備えてすぐ自分の席に座れるようにしていた筈だ。俺達のクラスは授業をサボるような生徒は居ない、比較的大人しめのクラスである。
(…1人、いない?)
近くにいる他の生徒の顔を伺ってみる。女神と宮下の間だけでどんどん話が進んでいくが、他の生徒達は呆然とそのやり取りを見ているだけだ。共通の思考は(この女神、落ちたな…)である。生徒の何人かが考え込んでいる顔をしていたので、もしかしたら俺と同じことを考えているかもしれない。
決して異世界で無双しようとか考えてるんじゃないと信じたい。
例外は取り巻き達で、怒りで顔を真っ赤に染めていた。
思考を凝らしていた俺は突然自分達生徒の身体が光だすのを見て慌てて声を上げる。
「お、おい!」
異世界にとばされる前にどうしてもこの疑問を女神に聞きたかった。自分達以外にもう一人いなかったのか、と。俺の声に女神がチラリとこちらを一瞥したが分かった、が、女神はすぐに視線をそらし生徒達に声をかける。まさか聞かなかったことにされるとは思わず、目を見開いた。そして目の前が光でいっぱいになった時、女神の言葉が聞こえてきた。
「では、良い旅を」