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移動力をつけるよ!

 鳥系のが三羽に狼系一匹、そして猪系が五匹。まずまずの結果だ。問題はどうやってこれを持っていくかだけど。


「……流石に入らないね。鳥は良いとして、猪…、吊るしていくか!」


 鳥だけ熊呑鼠の袋に入れるとカリアがそれをオレに手渡す。


「駿馬つれてくるから、ネコが食べないようにここで見張ってるよ。ちゃんと見てないと食べるからね!その子!!ほら!!!」


 だんだん強くなってくる言葉に頷きながら、視界の端に消えかけていた猫を捕まえる。行き先は捕まえた獲物を纏めてあるところ、危ない。


 持っていたロープでひとまずハーネスもどきを作ると猫に付けて(しっか)りと(つな)を握った。

 それを確認してからカリアは居なくなった。いつも思うけど森の中なのに歩くの早い。


 近くの根っこに腰を下ろして森の中を見渡す。甘い空気の匂いに、しっとりとした気持ちの良い風が頬を撫でる。さわさわと風が葉を揺らして音を立て、寝不足も合間って心地よい微睡みが襲ってくる。



『  きたよ  』

『  ──のいうとおりだね  』



 聞こえた声に目を開ける。


「!」


 目の前に広がる光景に思わず目を擦った。

 辺り一面に広がるキラキラとした粒が朝陽に照されながら舞っていた。蛍とはまた違う光るもの。それが風に吹かれ踊っている。


「これ、前に見たアレか」


 旅始めに見た森の奥に見えた光の粒、その正体はこれだったのか。


 猫も獲物を狙うのをやめて大人しくその光景に見入っていた。てっきりその光の粒に襲い掛かるものかと思っていたのたが、意外だ。


 しばらく幻想的な光景を眺めていると突然強い風が吹き、ピチュピチュと小鳥が鳴くような音を出しながら光の粒達は空へと消えていった。


 茂みが揺れ、そこに目を移すと馬に乗ってオレの灰馬を引いてきたカリアが現れた。カリアのいうことは本当に聞くんだよな、この灰馬。


「獲物は無事?」


「……あ」


 光に夢中で忘れてた。


 慌てて確認すると無事でホッと胸を撫で下ろす。そんなオレの様子をカリアが『おいおいマジかよ』みたいな目で見ているのを知らなかった。





 門番とカリアが何かを話している。そういえばオレせっかく作って貰った所属証明を無くしちゃったんだよな。あのデザインなかなか気に入ってたんだけどな。


 灰馬に乗ってリラックスしている猫とは逆に落ち着かない様子の灰馬の馬面を撫でながら待っているとようやくカリアがコッチを向いて手招きした。


「お前らいくぞー」


 二頭の馬を引き連れていく。オレも馬の扱いに慣れてきたもんだ。


 そのままリベルターの元へ向かうのかと思ったら何故かギルド本部へ直行した。荷物をぶら下げた馬を連れて。


(何故ギルドに?)


 街中を猪と狼ぶら下げ大型猫が乗る馬が二頭闊歩(にとうかっぽ)する。しかも早朝から、町行く人々の不思議そうな視線が突き刺さって気まずい。もっともカリアはそんなことつゆにも思ってなさそうだが。


 ギルドに着いて馬を出入り口の所に待機させると、既に開いている扉をカリアは潜り受付へ。そこで一つ二つ会話をすると眼鏡を掛けた男性がやって来た。髭を蓄えたいかにも鑑定士って感じの人だ。


「狩りたてホヤホヤだからそれなりに売れると思うよ」


「ふむふむ、確かに。急所を一突きとは、毛並みもなかなか…」


 なんだ、売りに来たのか。

 でもいつもはこっちが解体して個別に素材屋に売りに行くのに。

 熊呑鼠の中の袋から鳥も取り出し、そちらも鑑定。そして、何かの機械を弄りカリアの狩人登録板を持っていき、受付で何か作業すると戻ってきた。


「確かに確認いたしました。交渉達成日は本日より二月後になります」


「わかりました、ありがとうございます。あとショーンによろしくと言っておいてくれますか?」


 わかりましたと鑑定士が頷く。そしてカリアに証明板と所属証明板を二つ手渡した。


「はい、これあんたの」


「ありがとうございます」


 再び手にした証明板をワクワクしながら首へと掛ける。よかった、戻ってきた。


「戻ったらアウソにも渡さなきゃねー」


 そう言いながらアウソの証明板を鞄へと仕舞う。







 流石に馬を引き連れて歩き回るのは無理があるので、前回お世話になった宿屋で少しの間預かってもらえないかと頼みに行くと、そこの女将さんが物凄い喜びようで何故か盛大なハグをされた。


 吹っ飛ばされるかと思った。

 ここの人達は何故勢いを付けてハグをしてくるのか、毎回怖い。


 でもカリアに見付かったのね、良かったわね、と話しているところを見るにどうやら事情を知っていて喜んでいる事が分かった。


「じゃあ女将さん、よろしくお願いします」


「お願いします」


「いってらっしゃーい!」


 ニコニコと手を振る女将さんに頭を下げた。

 預かってくれる代金を払おうとしたら吉報を教えてくれて喜ばしいからチャラにしてあげると無料で預かってくれる事になった。ありがとうございます。




「……さてと、うーん」


「どうしたんですか?」


 カリアが取り出したメモを見ながら唸っている。覗いてみるとリベルターのお店へ行くための地図だった。


「前、リベルターの所に行ったんだけどね。その時すっごく急いでいたから屋根走って行ったのよ」


「へぇー、屋根を」


「ということで、修行よ」


「?」


 はてなマークをくっ付けたままカリアを見るとすぐ隣の家を指差していた。いや、正確には家の屋根を。


「今回拉致されたのは二人の逃げる力というか、移動力が皆無だったからよ。だから、これからこの修行でどんな道も進めるようにする」


「どんな道も」


「と言うことで、コッチを見失わないように着いてくるよ。はい出発!」


「ふぇ!?」


 ダンッと音を立ててカリアが大きく跳び、指差した屋根の上に着地。そしてそのまま歩き始めた。おいマジか!!


 急いで猫を担いで上に放り投げようと思って探すも猫が見付からない。何処行った。


「マーォ」


「…いた」


 屋根の上に。

 いつ登ったんだよお前。ていうかカリアの姿が消えている。やばい見失う。


 早く登らねばと屋根近くに積み上げられている木箱や塀、木を使ってよじ登り、視線の遥か先にいるカリアを見付けると猛ダッシュで追い掛けた。







 屋根を駆け回る、それは漫画の世界の話とか、または忍者の方々がやる事であって一般人がやることではない。


 あ、パルクールやフリーランの方は別ね、あの方達は身体能力おかしい。


「ぜぇー、ぜぇー…」


 つまりオレなんかがやることではないという事だ。


 屋根が繋がっていたり、少しの隙間ならビビりながらも跳んで移動することは可能である。しかし、道を挟んで向こう側の屋根は無理だ。どう頑張っても跳躍力が足りない。

 なのでいちいち屋根をビビりながら飛び降りては反対側に走り再びよじ登るを繰り返している。


 通行人に何してんだコイツみたいな視線を向けられているのは分かっているが、今ちょっと自分の事に精一杯で気にしていられない。


 腕がガクガクと震え体が悲鳴を上げている。正直、まだ化け物と戦っていた方がマシだったかもと思い始めているので頭も限界に近いのだろう。なのにカリアは涼しい顔してオレが降りなければならない屋根の間を『よっ!』と言いながら余裕で跳び越えるし、猫も何でもない顔をして一旦降りてもまたひとっ跳びで屋根に上がる。


 (うらや)(くや)しい!!!


 魔力で身体能力向上すれば良いじゃないかと思うのだけど、あれ短時間しか使えないの!もうかれこれ30分登って降りてしているけど身体能力向上はどんなに頑張っても5分が限界です!!


「くっそおおお!!猫に負けられるかあああああ!!!」


 訳の解らない悔しさを叫びながら歯を喰い縛ってまた屋根をよじ登り始めた。

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