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青鬼と赤鬼・後編

「不味いことになった、ていうか、なってる」


 化粧を落としたキリコが机の上に肘をつき頭を抱えていた。髪がまだ青なのが違和感あるがキリコが落ち込みと焦りを()()んだ様子に周りの人たちは困惑した。


「何があったの?」


 仲間がざわざわとした中、カリアが恐る恐る訊ねるとキリコはゆっくりと顔を上げた。


「ライハがよりにもよって剣闘士にされていた。しかもヒト相手の」


 それを聞いたカリアもキリコと同じく頭を抱えた。


「それ本当の話?」


「本当の話」


「こんなことならちゃんと人相手の戦い方を教え込んでおくんだったよ。で、今回は勝ったのよね?どんなだった?」


「結構危ない戦い方していたわ」


 色替えの魔具であるネックレスを外しながらキリコは束ねていた髪をほどいた。


「そういえば、ライハの回復能力が異様に高いのは師匠知ってた?」


「? 傷の治りが通常よりも早いってこと?」


「んー、というより、大怪我でも1日寝れば治る…みたいな」


「……いや、知らんよ」


「そうよねぇ」


 そんなことただの人間には不可能である。龍の血が混ざったキリコや巨人の血が混ざったカリアでさえ普通の人よりも怪我をしにくいとはいえ、怪我が異様な速度で治ったりはしなかった。

 ただし医療、もしくは回復魔法を持っている者であれば何かしらの魔法を使って治すことは可能である。しかしそれはあくまでも魔法を使ってのことで、魔法なしでそんなことが可能な種族は限られていた。


(獣人でもそんなことは出来ない。出来るとするなら、それこそ──)



「あー、良いお湯だった。やっぱりたまにはお湯に浸かるのも良いねー!キリコさん次どうですか?」


 がちゃりと扉が開いて体から湯気を立ち上らせているデアがやって来た。この国では珍しい浸かり湯に入ってきたようだ。


「ありがとう、アタシはもう少ししてから入るわ」


「そう?まぁ()めたら追焚(おいた)きさんに温めて貰えば良いもんね」


 よいしょとデアがキリコの隣に座り辺りを見渡した。


「あれ?シェルムはまだ帰ってないの?」


「もう少し掛かるんじゃない?」


「そっかー」


 そろそろだと思ったんだけどなとデアは立ち上がり水を取りに台所へと行ってしまった。

 そこでキリコは小さく『あ』と声を上げた。


「そういえば合成獣(キマイラ)を見てきたんだった」


 当初の目的を忘れる所だった。

 その一言で一人の仲間が立ち上がり紙とペンを持ってキリコの前へ。元々合成獣と館の構造を見るために行ったのに忘れていたなんて、とキリコは反省しつつ館の構造や見た合成獣を事細かに記録して貰った。


 今回見せて貰った合成獣は十体程だが、その中の岩亀の合成獣がキリコにとってのお気に入りだった。気性が荒く肉に興味を示す。檻の様子を見る限り力もある。鉄の柵は変形し、中の煉瓦がガリガリと削れ所によっては凹んでいた。


 アレを解放すれば間違いなく大混乱に陥るだろう。その隙に突撃し、拐われた人達を解放、そして自警隊による取り締まりで決着を着けるつもりだ。アレくらいの合成獣ならばキリコもカリアも単独で倒せる程だ。


 ただ問題は囚われている人達はどういう所で囚われているのか、だが。


「今戻った」


「!」


 扉が開いてシェルムが入ってきた。服装はそのままだから何処かに寄ること無く帰ってきたのだろうが、思ったよりも遅れてきたのが気になった。


「…靴が汚れているわね」


 カリアの言葉でキリコもシェルムの靴を見ると確かに少し土で汚れていた。


「帰る途中何かの気配が追って来ているようだったので巻いてきた、とりあえずお世話になっている屋敷に帰った振りをして戻ってきたんだが…、一応見張りを強化した方が良いかもしれん」


「分かったよ」


 カリアが指示すると周辺を確認してくると言って仲間の数名が外へと出ていった。シェルムの匂いに変わりはない、こういう時獣人がいると助かる。彼等は縄張(なわば)り設定した区域に侵入した気配に敏感に察知してくれる。


「拐われた人達を確認した。事前に教えられていた人の特徴に合致する人物に印を付けたから確認してくれ」


 懐から出した紙の束を出すとシェルムはそれを机に置いた。各パーティごとに分けられている紙を皆で確認する。確認が取れたのは全体の五分の四程だった。


「残りのやつらは?」


「見当たらなかった。奴によると女性や子供は市場に流され、男は合成獣の餌か剣闘士にされるらしい」


「餌!?」


 ざわつく皆をキリコが慌てて訂正をする。


「大丈夫、(じか)に食べるわけじゃなく、その負の感情や魔力を餌にしているらしい」


「な、なんだ。ビックリさせんなよ」


「すまん」


 しかしその時点で合成獣がマヌムンとは違うモノという事実が判明したわけだが。


 カリアがその話を聞いてしばし考えている素振りを見せたが、何かを言う前に部屋に入ってきたデアがシェルムの姿を見付けて大喜びして騒ぎ出したので一旦食事を摂る時間として休憩した。


 シェルムの見てきた牢屋の地形をキリコの話を元に作った地図に上書きしていく。そしてあらゆるコネで入手した屋敷の図面と比較しながら計画を練っていった。


「だいぶ改造されているけど、なんとかなりそうね。問題は剣闘士達が何処にいるのかによるけど」


「アタシはここら辺だと目星をつけるわ。ここならすぐに連れ出せるし、何より暴れてもすぐに大勢で取り抑えやすい」


「なるほど、確かにここだとやり易いな」


「そういえばあの紙はちゃんと渡せたのか?」


「ああ、隙を見てちゃんと牢の中に落としておいた。今頃 獣人(ガラージャ)達がこの計画に気付いている頃だろう」


 あの紙はデアがメモ書きとして使用しただけの紙ではない。表向きはデアがメモ書きをした風に見えるが、獣人にしかわからない同族の匂いを付け、更に暗い中夜目を使ってでしか読むことが出来ない特殊なインクを使って今回の計画を簡潔に記してあった。


「で、どうする。襲撃は早い方が良い」


「自警団には連絡は着いたのか?」


「ああ、明日には監査官が到着するそうだ」


「なら、やるなら明後日だね」


「各自襲撃準備に取り掛かろう、解散!」










 軽く風呂に入り部屋に戻るとカリアは寝ているネコの隣で自分の武器を磨いていた。ネコの体は体長1メロ(1メートル)程になり、牙も爪も太く逞しくなっている。ただ相変わらず毛並みは良くなく、毛を掻き分けると新たな傷が出来ていた。


 まだ湿り気のある髪を纏め上げながら、ふと、そのネコに意識を集中してみた。ただ何となくだったのだが、キリコはそのネコから大量の魔力の流れを感じた。魔力の匂いは外へと続いている。


 不思議に思いながら更に追うと、魔力の匂いは屋敷の方向へと流れている。


「キリコ、気付いたよ?」


「気付いたって…、!」


 キリコの頭の中で目の前のネコとライハの回復能力の情報が合わさった。まさか。


「今日の話を聞くまで、このネコの状態に不安しかなかったけど、ライハの異常な回復能力の事で納得した」


 ギリスの国は使い魔の話が多く残されている。その中に使い魔が契約者を守るために自らの魔力を全て引き渡し死の淵にあった契約者を助けた話があった。通称『身代り・引き受け』と言われる禁忌の技で助かった契約者は致命傷が跡形もなく消えていたと言う。


「本当にあった話だったのね、初めて見たわ」


「私もよ、でもその話では使い魔は死んでしまっている。あの時リベルターから貸して貰った魔具でこれで済んでいるように思えるから、できるだけ早く助けてやらないと。あと、アウソ。本当にあいつ悪運だけは強いと言ってもこんなに隙だらけなら今回は本気で鍛え直しよ!」


「あ、それは同感するわ」


 助け出した暁にはどういう訓練をしてやろうかと二人は深夜まで話し合ったのだった。







 ◇◇◇


 襲撃当日。



「皆さん、(ワタクシ)監査官(かんさかん)のハワードです。今回の『報復許可』を確認し、今回の『報復』に関して本部に渡る情報を正確にするために同行させていただきます。それにともない『報復』についていくつかの禁止事項、あるいは許可されているものを改めて共有させていただきます。まず──」


 武器を持ち、大人しく監査官の話を聞きながらカリアとキリコは足元でソワソワしているネコを必死に宥めていた。

 珍しく朝から起きていたネコは朝御飯をたらふく食べ、念入りに毛繕いをしてやる気に満ちていた。恐らく今日の作戦を寝ながら聴いていたのだろう。今でもちゃんと体に布を巻いて綱替わりにしていなかったら単独ですっ飛んでいきそうだ。


「──以上。ティランとコルナの掟に背かないよう、気を引き締めて行いましょう!」


 おおお!!と武器を掲げ声を上げた。

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