キメラ戦
──カラン。
上から投げられた短剣が広場の真ん中へと落ちた。短剣を挟んで向こう側にはキメラがいる。低く唸りながらキメラがこちらに向かって突進してきた。
キメラの体当りを横に飛ぶことで回避。キメラが方向を変えている隙を見て短剣を取るために広場の真ん中へと急いで走る。
キメラがこちらを見付け、向かってきている。
止まったら時間をロスしてしまう。走りながら綺麗な前回りで短剣を見事回収し、キメラを確認すると、こちらに向かってまたしても突進してきていた。
キリコに前言われた事を思い出して対処しようとする。迫り来る牙と爪とでかい体躯。
(相手の動きに合わせ──)
勇気がわかない。
「いや無理いいいいい!!!!」
横に飛んで回避した。いや無理だアレ。勇気がいるやつはまだ無理だ。
『ガッ』
「げっ!?」
キメラの尻尾が飛んだ先から迫ってきていた。
受け身もとれずにもろに尻尾で凪ぎ払われる。
「グフウッ!!」
受け身を綺麗に取れたが凄く痛い。尻尾が当たったところも地面に打った背中も痛い。
「げっほ、くそ。やっぱりいてぇ」
カリアやキリコの扱きで受け流しを叩き込まれたとはいえ、比べ物になら無い破壊力。
キメラはこちらの様子を見ている。
短剣を構え、オレもキメラの様子を見るが、正直こっからどうすれば良いのか分からない。
「といっても、こんなサイズ…普段ならキリコさんとかカリアさんがやるからな。どうやって倒せば──うわっと!」
キメラが咬みついてくるのをバックステップで避けると会場からの野次が飛んできた。
「何逃げ回ってんだ!!戦えー!!!」
「さっさとくっちまえ!!」
声が上から聞こえる。気が付かなかったが、観客がいるらしい。全くキメラから視線そらせないからどんな感じで居るのかわからないけど。
キメラの咬み付きを避け、鋭い爪の生えた腕の狙いが逸れたところを、短剣を外向きに持ち思い切り刃を突き立てて引いた。
『グルォウ!!』
追撃が来るかと急いで離れたが、キメラは追い掛けてこない。
『グウウウ』
キメラは刃を立てた腕をペロペロ舐めている。
いまいち効いているのか分からない。体毛のせいで血が出ているのかどうかも見られない。
だが、それでも苛つかせたようで、キメラにめっちゃ吼えられた。
(やっぱりでかいから何回かやらないと効かないのか)
傷付けた左前足をメインに攻撃しよう。そうしよう。
攻撃方針を決定すると、動きが鈍っているキメラの様子をうかがいながら、回り込んで左腕の斜め後ろから更に攻撃を仕掛けた。
一発目は入ったのだが、オレの意図に気が付いたのか、それとも咬み付こうとしているのか。体制を変えてしまい短剣が空振りをした。それでもめげずに左前足を追い掛けて短剣を突き刺し続ける。
更に二発入ったところでキメラが一つ吼え、スピードを上げて咬み付いてきた。
それを後ろへ跳んで避けたが、怒っているキメラの牙がオレを執拗に追い掛けてくる。
「ふっ、くっ!」
修行内容が回避メインで本当に良かった。
じゃなければあっという間に食い付かれて死んでいるところだ。
『ガウッ』
体当りを避けたところで尻尾が迫ってきたが、初めに集中攻撃していた左前足に力が入っていないらしく、尻尾はオレの近くを薙いだだけ。
その尻尾を追い掛けて短剣を突き刺す。
ダメージが少なくても、塵も積もれば山となるを信じて攻撃する。
勿論キメラもただ刺されてやるわけではない。尻尾を攻撃しているオレを咬もうとしてきたので尻尾をキメラの顔目掛けて蹴り飛ばす。
その尻尾を顔を反らして避けたキメラ。
動きが鈍ったキメラの目を狙って短剣を突き立てた。
『ギャアアアルァアア!!!』
「!!」
悲鳴を上げながら、残った目がオレを捉え、凪ぎ払おうとしてきた。
それを避け、更に残った目にも攻撃しようとしたが、キメラが頭を振り、刃は目の近くを掠めただけ。
『グアアアアアア!!!!』
「しまっ──ぐっ!!」
一瞬あまりの痛みと視界のブレで何が起こったのか分からなかったが、腹にキメラが咬み付いているのだけは理解できた。
腹に食い付かれ、頭を振られて地面に叩き付けられた。
「…っ!!」
口から血が溢れ出す。腹の方もどくどくと血が流れ出し、あまりの痛みに死んだのかと思ったが、逃げなければと動かした四肢は痛みこそあるが問題なく動いた。
「う……げほ。良かったまだ死んでない。いや、でも何か死にそうだけど。──!!」
またしてもキメラが咬み付いてくる。
横に転がりつつ、跳びつつも回避するが、怪我のせいで牙があちこちを掠めて切れる。
(駄目だこれマジで死ぬかもしれない)
手も足も掠めた箇所から血が流れ出し、脚がガクガクと震えている。だが、突如キメラがスッ転んだ。
「え」
見てみると、キメラに集中攻撃していた左前足が赤く染まっており、がくりと崩れたらしい。
「隙あり!!!」
キメラの顔目掛けて刃を力の限り連続して突き立てる。
『ギャアアアアア!!!!』
暴れるキメラの頭を爪が届かない位置で押さえ込んで攻撃する。キメラはまだオレを振り落として咬み付こうとしているがそうはいかない。
今ここで手を抜いたら死ぬのはオレだ。
『ガフッ…ガフッ…』
「……さっさと!くたばれっ!!」
無我夢中で短剣を刺し続け、気付いた時にはキメラは既に息絶えていた。
全身血みどろで、手も手の中の短剣も真っ赤で、ホッと安心した瞬間目の前が真っ黒に染まった。