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戦場のハッピーハロウィン

即位後、1000年の何処かしらであった話。

「ハロウィン??」と怪訝そうな顔してガスが聞き返した。


「突然なんですか?シンプソン先輩」

「あれ?もしかして知らない?ハロウィン」

「ハロウィンっていうと、あれですよね。カミナの月(10月の名称)の最終日に行われる行事。カボチャに面白い顔を彫るやつ。さすがに知ってますよ。サウィンと同じく有名ですから」

「それだけじゃないですよ」


 ひょい、と、二人の会話にビノが加わった。


「頭に角とか付けたり、布を被ってお化けの振りをして「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」って言いに行くんですよね」

「それそれ。結構面白そうだよな」


 シシシとビノと笑い合う。

 すると周りのみんなもこちらの会話に気が付いて視線を向けてきた。


「それで、そのハロウィンが今日なのは分かりましたが、それがどうしたんですか?」


 察しの悪いガスに言ってやった。


「たまには気晴らししようと思ってさ。ずっと張り詰めてるし、今日はたまたま平和だけど、これからは更に過激になっていくだろ?」

「まぁそうですね。戦争中ですし。でも気晴らし……」

「良いですねぇ、気晴らし」


 ほわわんとビノが賛同する。

 そんなビノにガスが言う。


「いやいや、戦時中緊張解くのは不味いんじゃないですか?」


 しかし言われたビノは頭上にハテナを浮かべていた。


「何を言いますか。隊長だってよくネコさん吸って気晴らししているじゃないですか。それに、ラビ副隊長にも今を全力で楽しく生きるのも大事って言われましたし。なら、今日は平和で、しかもせっかくのイベント日。今日を楽しく生きる為にやるって言うのは僕は賛成ですよ」


 ねぇ、そう思いません?と、ビノが集まってきているみんなに問い掛けると、確かにそうだという声が上がる。


「な?やろうぜ!」

「……うーん、それもそうか……? ……はいはい。分かりましたよ。でも角は無しですよ。自分ら悪魔と戦ってるんですから」

「もちろん。そこはバッチシだ」


 既に用意しておいた衣装を箱から取り出した。人数分。

 それを見た数人が吹き出した。または呆れ顔しながらもいそいそと手に取る者や、ランタンも用意しようぜと言い出す者もいた。


「決定事項かよッッ」

「じゃなきゃこんな時にこんな話題振るかよ」


 衣装は置き去りにされた家から拝借してきたシーツで作ったお化けだ。といってもさすがに人数が多いからせいぜいお腹まで隠れるくらいなのだが。


「せっかくだし模様付けませんか?その方が更にお化けっぽいのでは?」

「お!じゃあそうしますか。四班にデザイン得意な人お願い出来ますか?」

「お任せください」










 完成した報告書を机に投げ置いてライハは大きく背伸びした。


「ふぁあ……ぁ。……あー……珍しく平和だぁー」


 襲撃も無く、上からの謎の命令もない。しかも今は放置された街に拠点を置いているので、何なら布ではないちゃんとした屋根まで付いていると来た。


「……それにしても静かだな。ネコもどっか行ってるみたいだし」


 一応念のために位置を探れば、少し離れたところを移動していた。散歩だろうか。

 ラビは倉庫。探し物?


 リオンスシャーレから海を渡って、そろそろホールデンが見えてきた辺りなのにこんなに平和なのは珍しい。

 さすがに敵方も補給タイムを始めたのだろうか。

 そんなわけ無いだろうが、ついついそう思ってしまう。


 もう一度アクビをして懐中時計を見てみれば、もうお昼ご飯の時間が過ぎていた。


 普段ならばネコなりラビなりが呼びに来るはずだけど。


「……もしかしたらオレが集中してたからそっとしてくれたんだろうか」


 それならそれでコーヒーの1つは置くだろうが、ラビも多忙だ。もしかしたらラビもオレと同じく時間を忘れて没頭しているのかもしれない。


「たまにはオレが呼ぶのもありだな」


 そうと決まれば書類を封筒に仕舞い、部屋を出た。

 とりあえず配給場所に行ってからコーヒーを持って呼びに行こう。

 それにしても何か忘れている気がする。何だろう。


「……そのうち思い出すか」


 ゆっくり歩きながらネコへと脳内で話し掛けた。


「(報告書終わったからご飯食べるけど、ネコはもう食べた?)」


 やや間が空き、ネコから返信が来る。


『(まだだよ。ちょっと今やってることがあるから先に行っててー!)』

「(わかった!)」


 何やってるんだろう。もしかしてまた新技でも開発しているのかな。

 どんどん強くなるネコが頼もしい。


「!」


 配給場所にみんなの気配が集まっている。

 珍しい。この時間だと食べ終わって各自武器の手入れに行ったり、特訓や魔法陣補給を始める頃なのに。

 まぁそんな時もあるか。


「?」


 何でか気配探知の魔法が使われた。

 なんだ?


 首を傾げながらも扉を開けた。



「「「  トリック・オア・トリート!!!!  」」」



「おわっ!!」


 扉を開けると、そこにいたのは白の群衆だった。

 視界いっぱいのシーツの群れで、そのシーツにはジャックオランタンによく使われる顔が魔法で添付されていた。それぞれ表情や模様が違う。

 何だこれは。…………あ。


 目の前にいるお化けがゆらゆら揺れているので、捲った。

 フィランダーだった。


「ちょーーーーっと!隊長ダメですよぉ!仮装剥いじゃあ!せっかくのハロウィンなんですからルールを守ってください!」


 そんなフィランダーの言葉が面白くて思わず笑ってしまう。


「なーに言ってんだお前ら。ここでのハロウィンはオレが──」


 はたと気が付いた。


 ──ハロウィンは、オレがこの世界で即位してから広めたものだ。


 当然目の前の部下たちが知っているはずがない。何故ならば、彼らはオレが即位する前にみんな死んでしまっているのだから。

 そう気が付けば、芋づる式に違和感のピースか嵌まっていく。

 そもそも10月頃は未だにリオンスシャーレ南部を制圧出来ておらず、前線を駆け巡っていた頃だ。

 それなのに此処はホールデンの近くの拠点だった。

 さらに言えばオレ達以外の部隊の姿も気配も感じられない。


「隊長?」


 突然言葉を切ったオレを不思議そうにしているフィランダー。

 気が付けばみんなシーツを捲りあげてフードみたいにしていた。みんなの五体満足の姿に、オレは思わず目頭が熱くなる。


 そうか。これは夢か。

 こうやってみんなと過ごしたかった願望が、夢となって現れたんだ。


「いや、なんでもない。そうだなぁー、トリック・オア・トリートと言われちゃった事だしルールは守らないとな」


 夢ならやりたいことが実現する。

 そう思えば左手に袋が握られていた。


 そんな事は知らないフィランダーとガスがイタズラ小僧のような顔で近付いてくる。


「お?ということはぁー?」

「あれですかー??」


 お菓子がない事を前提しているためか、みんなワキワキとくすぐりの構えを取っていた。

 はっはっはっ!オレを誰だと思ってるんだ!君らの隊長だぞ!


「お前らのイタズラはただじゃ済まなさそうだからな」


 言いながら袋をまさぐると、お目当てのものが入っていた。


「トリートだ!」


 ぱんぱんに袋に包まれたクッキーと飴に部下達がどよめく。


「なっ!えっ!?どうやって手に入れたんですか!?」

「こんな物資不足なのに!さすが隊長…っ」

「凄い……、しかも形がこんなにも綺麗に……っ!」


 想像したのが日本での飴やクッキーだったものだから、あまりにも形が整いすぎてしまったらしい。宝物を目にしたようになってしまってた。

 しまった…。思い返せばここでのお菓子をあまり知らない。

 チョコレートが貴重なのと、クッキーはだいたい保存食のように固く焼き固めたものが多いくらいしか分からなかった。


 ま、いいか。

 どうせ夢なんだ。

 夢なら良いものをたくさん与えたい。

 それこそ、オレの気が済むまで。


「そんじゃあ配っていくぞ。みんなに当たるから順番にな」


 いそいそと並び始める部下達。

 さすがはオレの育てた部下だ。どうすれば効率よく物が行き渡るかを理解している。


「はい、フィランダー」

「いただきます!!!」


 両手で受けとるフィランダーが勢いよく頭を下げた。


「ちゃんと今日で食べ切れよ」

「はい!!」


 スキップで去っていくフィランダーを見送る。

 彼は確か21歳だったっけ。

 この時代は甘味があまり無かったしなぁ。


「じゃあ次、ガス」

「はいっ!!」


 噛み締めるように一人一人名前を呼びながら手渡していく。じっくりと顔を見て懐かしみながらも、何でもないように装いながら渡していく。


「どうぞ、サルバドール」

「ありがとうございます!!!!」


 最後の一人にも行き渡った。


「ふう」


 みんな幸せそうに黙々とお菓子を頬張っているのを見ると、オレも幸せな気分になる。

 実際年齢がだいぶ上になってしまったからかも知れないけど。


 袋にはまだお菓子が残っていた。

 数は3つ。


「お!来たな」


 馴染みの気配がやってくる。きっと向こうもオレが此処にいる事を確信してやってきたんだろう。


「おいライハ。この備品の数なんだが──」


 ラビが扉を開いて入って来るなり、こちらを見てぎょっとした顔をして固まった。


「何してんだお前ら」


 そういえばお化けの格好のままだった。といっても、今はみんな肩掛けにしているからどう見てもお化けには見えてないだろうが。


「ラビ、“トリック・オア・トリート”って言ってみ」

「はぁ?なんで?」

「いいから」

「……トリック・オア・トリート」


 袋からお菓子を取り出した。


「はい、どうぞ」

「!」


 驚いた顔をして受け取ったラビは、お菓子をみて理解したらしい。


「今日はハロウィンか」

「そう。だから今日は特別報酬」

「はっ!最高の特別報酬だ」


 早速ラビは袋を開けてクッキーを頬張った。

 普段はしっかりものだけど、こういうところが年相応で微笑ましい。

 現実でこんなこと言ったら「は?」と言われるだろうが。


「美味い?」

「モゴモゴ(うめぇ)」

「そりゃあ良かった」


 あとはネコだけど。


『なんか甘い匂いするーーーーーっ!!!!』

「はっや」


 嗅ぎ付けが早い。でも手間が省けた。


「ネコ。トリック・オア・ト『お菓子持ってるでしょ!!??ネコも食べたいからちょっとちょうだい!!!』──お菓子一択かよ」


 あまりにもネコらしくて笑ってしまった。でも手間が省けていいか。


「ほい。これ全部ネコが食べていいよ」

『全部いいの!?』

「もちろん」

『やったあ!!』


 尻尾で受け取り、ネコがお菓子を頬張った。

 すると、目の前に手が差し出される。ピノだった。

 隊の中でも27才の年長者。よく気が回る人だった。


「次は隊長の番ですよ」

「! それじゃあお願いしますかね」


 ピノに袋を渡した。


「さ、隊長」


 隊員達がこちらに視線を向け、オレの言葉を待っている。みんな口の周りがお菓子の欠片が付いていて、まるで子供のようだ。


「トリック・オア・トリート」

「良いハロウィンを、隊長」


 最後のお菓子が手に乗せられた。


「うん。みんなも良いハロウィンを」











 そよそよと心地よい風が窓のカーテンを揺らした。

 心地よい寝覚めだ。


『ライハー!』


 器用に尻尾で扉を開けたネコが入ってきた。


『朝だよー、って、もう起きてるの!?』

「おはよう」


 ぴょんとベッドにネコが飛び乗り、撫でてと頭を差し出してくる。

 それを撫でていると、ネコが不思議そうにこちらを見上げてきた。


『ライハ、なんだか嬉しそう。良い夢見たの?』

「うん。遊撃隊のみんなとハロウィンをした夢を見たよ。たくさんお菓子食べた」

『えええー!良いなぁー!ネコもお菓子食べてた??』

「食べてたよ」

『そっか。よかったー!ネコ、みんなと食べるご飯が好きだったからさぁー。一緒に食べられて良かった』

「夢だけどな」

『夢でもいいの!』


 よいしょとベッドから起き上がる。

 さて、いつまでも夢の余韻に浸かっているわけにもいかない。



「それじゃ、今度は夢じゃない方のハロウィンを楽しみますか」

『うん!』








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