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古主の帰還 26

 魔力回復まで30分掛かった。

 思ったよりも時間が掛かって少し落ち込んだ。


「いや、そもそも“ジャンプ(瞬間移動)”だけで壁越え決行ようとするのが頭おかしいからな」

「そりゃそうか」


 普通、上昇気流のある夏に登るものなのだ。

 そうすれば風を使って最低限の魔力でフワフワと上がれるはずなのだ。

 …………そういえば、グレイダン達が登ったのは冬だっけか。よく上がってこれたな。

 1000年越しにグレイダンの評価がオレの中で漠上がりした。


「にしても、空が変な感じだな」


 ラビが空を見上げてそう言う。

 オレも見上げた。珍しく晴れた空は暗い。

 まだ昼過ぎなのにだ。


『ていうか、なんかおかしくない?斑模様って言うか、……なんでか懐かしい景色?』

「……ほんとだ。なんでかホッとする」


 こんな迷彩柄みたいな空なのに。


「世界の天殻に近いからね。樹の透過が弱いの」


「!」


 ラクーを見ると、保存食であるお菓子を勝手に食べてた。

 取り上げた。


「こらこらこらこら」

「ああー」

「あーじゃない。まだお預けです」


 ぷっくりと頬を膨らますラクー。

 なんでこんなに食いしん坊になった?オレのせいか。

 にしても、樹の透過か。確かに世界樹は不思議な特性を持っている。


 近い時は見え、遠い時は見えなくなるという現象だ。

 しかしそれが空にも作用するとは不思議なもんだ。


『思ってたよりもローデアって晴れてるんだね。てっきりずっと猛吹雪なのかと思ってたよ』

「何言ってるんだよネコ」


 オレは後ろを親指で示した。


「ローデアはだいたい猛吹雪に決まってるだろ?」


 その後ろには、白い津波、いや、猛吹雪の壁がすごいスピードで迫ってきていた。







 ごうごうと凄まじい轟音をたてて、雪と氷が結界にぶつかって砕けて飛んでいく。数センチ先は真っ白で、何も見えない。

 たしか、ホワイトアウトとか言うんだったか。


「マーリン様に頂いた魔法陣と魔法具がなければ、大変な事になってたな」

「ついでに寄ってて正解だったよ」


 じゃなければ、魔力消費がすごかったかもしれない。

 現在の気温-100℃。即死の気温だ。晴れて-70℃なのだが、魔法がなければこちらも普通に凍死案件。

 オレはともかくネコとラビはアウト。

 ラクーはどうなんだろうな。

 衣服には保温(ワアム)の魔法陣付けているけど。


「ラクー、寒くないか?」

「全然寒くない」

「そうか」


 それは良かった。風邪とか引かれたら大変だ。


『ねぇ、ライハー。本当にまっすぐで良いの?』

「ああ、このままずっとまっすぐだ」

『こう真っ白だと不安になるよ』

「わかる。でも北に向かえば良いんだ」


 手の中にあるコンパスは北を指し示す。

 ネコはオレ達を背中に乗せて氷の大地を進んでいく。

 結界と、内側に暖房の魔法を施しているから寒くはないが、凄まじい吹雪に一瞬でも気が抜けない。


「行ったことあるんだろ?いつもはどうやって行くんだ?」

「そりゃ、あれだよ。ニックで」

「……なるほど」


 ゴガンと、車サイズの氷がぶつかってきた。

 結界は無事だけど、念のために更に結界を重ね張りした。

 全く恐ろしい環境だ。


「で、どのくらい歩くんだ?」

「さあ」

「さぁ、て。お前…」


 ラビが一つ勘違いをしているのに気が付いた。慌てて訂正する。


「違う違う。一応結界越えたから、そのうち誰か来るとは思うけど、どのタイミングで来るかわからないからなんともいえない。彼らはオレらと時間感覚が違うからな」

「……まぁ、巨人だしな…」


 そう言うこともあるのだろうと、ラビは納得してくれた。


「とはいえ、一週間後はやめて貰いたいな」


 さすがに色々と持たない。


「完全に同意だ」

『ネコもー!』

「ラクーも!」




 三日後、ようやく吹雪が止んだ。

 霧は出ているが、雪がピタリと止まった。

 久しぶりに重ね掛した結界を解いた。勿論、暖房系の魔法は使っているが、解放感が凄い。


「雪上歩行もかけ直しておくか」

「だな。ネコからやろう」


 三日間歩き通しで横になっているネコのもとに向かうと、大きく欠伸をした。


『ふあああ……。ネコ眠い…』

「少し寝てろ」

『んー…』


 雪上歩行を施したあと、ネコが小型化した。

 しばらくは自分達の足で歩くしかない。

 ネコをフードの中へ入れて、自分にも雪上歩行の魔法を施した。

 ラビも自身とラクーに施している。


 さて、しばらくは歩きだなと方向を確認していると、突然影が落ちた。

 霧も晴れ、辺りは静寂に包まれる。


「お、おい、ライハ」

「うん」


 目の前には大きな靴。そこから上へと視線を上げていくと、女の巨人がこちらを覗き込んでいた。


「 あら! もしかしてあなた、ライハさん? 」

「お久しぶりです。アオーゾアさん」


 その人は、かつて人魔大戦で手を貸してくれた巨人族の少女、アオーゾアであった。


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