古主の帰還 25
正直、あの時刺客に襲われなければもう少し用意周到に出来ていた。だが、出来なかったものは仕方がない。
仕方がないけどやるしかなかろう。
ラビとネコに協力して貰いたいことを一通り伝えた。
ネコはオレに矢を射つ毎に魔力補給と空中でのバランスをお願いし、ラビには上空で飛び交っている氷の対処をお願いした。
ここはそうでもないが、上にいくと雹のようなものが四方八方から飛んでくる。
壁の上に積もった雪が凍り、風によって吹き飛ばされてきたものだ。しかも結構な早さで飛んでくるそれは、並大抵の魔術師が反応できない程の速度で、しかも魔力を含んでいるから一般用の基本結界では容易に砕かれる。
だから魔法発動が一番早く、かつ、精密で頑丈な結界を張れるラビが適任だった。
オレの条件自動発動の結界と、ラビの手動発動結界が同スピードって、今考えても意味が分からないくらいに早い。
条件反射レベルってなんだよ。
何で感知してるんだよって感じ。
弓に次々に魔法を付与していく。
それを見たラビが訊ねた。
「それにしてもなんで弓。単体で跳べるだろ」
もちろんオレは単体で瞬間移動できる。
大人数でも一瞬だ。
だけど、それはオリジナルでの話。残念ながら人形のオレでは色々とスペックが劣っているのだ。
「人形のオレだと弓の方がインターバルほぼないし、色んな属性が付けられるからね」
人形のオレ単体でだとインターバルが10秒はいるが、弓だと2秒に短縮される。しかも跳んだ先で浮遊と風魔法を発動する。
あとは、タイミングと運だ。
「ラクー、しっかり掴まってろよ!」
「うん!」
「いくぞ!」
弓を引く。腕は衰えていない。
引かれた弓に雷の矢が現れて、狙いを定める。
目は粒子モードに切り替えて、風を読みながらタイミングを図る。
なるべく風が弱まり、遥か遠くまで見えた時、いわゆる道が見えた瞬間、オレは雷の矢を
射ち放った。
次の瞬間には空中へと放り出される。
風魔法によって上からの叩き付ける風をいなしながら次の矢を射つ。
射つ度に風がひどくなるが、2人のサポートのお陰でなんとかなっている。
それにしても予想以上の荒れようで、気を付けないと上下すら分からなくなるのは目に見えていた。
拳サイズの雹が乱れ射ちになっている場所でもなんとか無事なのは、ラビとネコが死ぬ気で頑張ってくれているからだ。
「頑張れ!あと半分だ!!」
そうやってどんどん上へと転移していくと、突然風向きが変わった。
下へ叩き付けるような風が横向きに変わり、上向きに変わり、突然空が晴れ渡った。
「おお!」
「わあー!」
眼前に広がるのは地平線の彼方まで続く白。雪と氷の砂漠。
これが、ロッソ・ローデア。
真の巨人の国だ。
『降りるよ!』
ネコが大きく翼を広げ、ゆっくりと下降していく。
雪の上で大の字で激しく息切れている男が三人。いや、二人と一匹。
「ゼェー、ハァー、ゼェー、ハァー、ゼェー、ハッ…ぅえっ、ゲホッゲホッ!」
「ぁ"ぁ"ぁぁー…、…………もう二度と…やらねぇ……」
『…………、………………』
そんなのとは裏腹に、ラクーは氷の大地にはしゃぎ回っていた。
「すごい!すごい!すごいすごいよ!!楽しかった!!」
「……それは……よかった…………」
ラクーは、ジェットコースター狂らしかった。いや、怖いもの知らず?それとも行き過ぎた好奇心旺盛少女??
薄々オレは思っていたことがある。
この気質のせいじゃないのか?空から落ちてきたのは。
とはいえ、本人もまだ記憶が戻りきっているわけではないらしいから答えは分からないけれど。
にしても、計18回連続跳びは負荷がやばい。
「あー…、キツかった。起きれるか?」
「………………もうちょっと待って、さすがに魔力回復が追い付かない」
『ネコもまだしんどいー……』
こういうところでオリジナルとの性能の差を感じてしまう。
「はー、仕方ない」
「おわっ!」
ラビに担がれた。
なんだか変な感じだ。担ぐことは多いけど、担がれるのは早々ない。
ラビはへたっているネコも持ち上げようとして、ラクーの手によって持ち上げられた。
「ライハとネコ疲れたの?じゃあラクーが今度は助けてあげるよ」
『おおー、初期スタイルに戻った…』
そういえば、そうだな。
それにしてもあの時と比べてラクーは随分と子供らしくなった。
なのに道筋はもう終盤。
世界の果てへの階段は後半に差し掛かっている。
旅の終わりも、もうすぐだ。
「じゃあ、よろしくお願いしまーす…」