古主の帰還 24
「すごいね!ネコってなんでもできるんだね!」
『ラクーもすごいよ!かわいいし!』
「ほんと!ありがとう!」
微笑ましい光景が目の前で展開されている。
先程の魔物はラクーから離れたところでラビと共に解体し、魔法陣を大量に用いて加工、調理をしてから鞄に放り込んだ。
残った骨も。
内臓は雪に埋めた。
あれはどうにもならない。
ネコにもう一度雪上歩行の魔法を施しながら北へ北へと進んでいく。
ここらはもう人の住める地ではなくなっている。
場所的にはもう氷の湖の上に来ている頃だ。
ここらでネコが尻尾で氷の下で泳いでいる魚を捕まえ、加工して補充。そういう感じで4日掛けてようやく北の壁へと到着した。
「北の壁、始めてみたが結構綺麗なものだな」
ラビがそう言う。
目の前に広がるのは神秘的なまでに青い氷の壁だった。
まるで海を色そのままに凍らせたような壁は遥か上まで続き、横は途切れることがない。
これが遥かなる氷の壁、
またの名をウォール・テ・リク・ハー。
意味は偉大なる母の水の手。
ここまでが普通の人間が暮らせる境界線だ。それを知らせるように聳えているからこう呼ばれていると聞いた。
ウォルタリカの語源の由来だとも言われているここは、神聖な場所であるがゆえに人の手が一切つけられていない。
そもそもこの壁自体が傷が付かない程に頑丈だから、諦めたというのもある、と聞いたことがある。
なにせ、この氷はただの氷ではない。
氷雹石も混ざって一緒に潰されているんだ。金属を突き立てたら、瞬く間に人なんて凍るだろう。
しかも濃い魔力を閉じ込めているから魔法でも溶けない。
だから、氷結属性は結界属性とひとくくりにされていたのだ。
今では別の属性となっているけれど、きっと昔の人はこの壁に歯が立たなかった経験から、凍結は北の壁、つまり結界と同じものと考えたのだろうな。
「オレも始めてみた時は感動した。さて、上るためのの準備をしないと」
すぐ隣で「かき氷食べたくなってきた」『止めた方が良いと思う』という、なかなかに危険な会話を聞き流しつつ、オレは鞄をまさぐる。
「どうやって上がるんだ?足場はないし、上は大荒れだ。浮遊系魔法もネコも結構無理があるぞ」
ラビの言う通り、壁はずっと絶壁で、更に壁の上空は猛吹雪になっていた。
季節によって変わる風向きは、今は北から南へと吹き下ろしてくる。つまりは、下手に飛べば地面へと叩き付けられるということだ。
だけど、そんなことは百も承知だ。
手が目的のものを掴む。
「どうやってって、そりゃあ──」
鞄の中から弓を取り出し、ラビに見せた。
「とぶに決まってるじゃん」
「は?」とラビが言い、すぐに青ざめた。
「お前…まさか……っ」
「ネコー!ラクー!こっちおいでー!」
ラクーをお腹にベルトで固定。ネコは背中にしがみついて貰い、尻尾でラビを固定した。
「準備完了!!」
「いやいやいやいや!!!!!待て待てちょっと待てええええ!!!!」
「なんだよ」
「なんだよじゃないだろ!?お前のその突発な大雑把はなんなんだよ!!!?作戦名はなんだ!!??ごり押し登頂か!!??」
「いいねそれ!採用!」
「採用じゃねええええええよ!!!」
ラビが珍しく荒ぶってる。
おもしろ。
「ていうか、落ちたらどうすんだ!!!」
「そこはほら、ネコがいるし」
『えっ!?』
「初耳らしいぞ」
どっちにしてもネコとラビに協力して貰わなきゃ成功しない。
「今さらだけど、手伝ってくれない?じゃないとここで詰む」
「なんでお前追い込まれたら力業でいこうとするの。誰の癖移ったの。手伝うけどさぁ」
『多分、トルゴ一族かなぁ…』
「ああ…なるほど…」
納得された。
脳裏に浮かぶトルゴ一族。カリアとザラキの子孫とは今でも付き合いがある。もちろんキリコさんの子孫もだ。
ラクーがこっちを見上げる。
「ねえ!早くいこう!ラクーまた飛びたい!!」
目がキラキラしていた。これからする事が、楽しいことだと信じて疑わない目だ。
「よし!行こう!今すぐ行こう!お前ら行くぞ!!」
「「お、おー!!」」