古主の帰還 22
スアアアア、という軽い音をさせて船が滑りながら走っていく。
揺れは殆ど無く、むしろ飛んでいるんのではないのかと思ってしまうが、大きな起伏があるときはきちんと船も上下していた。
「わああ!」
「ネコ、ちゃんと押さえてて」
『押さえてます~』
身を乗り出すラクーの胴体にネコが尻尾を巻き付けていた。
これなら万が一落ちたとしても、飛んで来られるだろう。
こんな感じで、雪行船を乗り継いで北上していき、最終地点のサーパティ町を目指す。
一週間は掛かるけど、これが一番早いのだ。
重く広がる曇天からは雪が降ってきていた。
本格的な冬の到来が始まった。これからどんどんと雪の量が増し、ウォルタリカは雪に沈んでいく。
船内の椅子でラクーとネコが毛布にくるまって寝ている。
外はすっかり白の世界に置き換わり、建造物も丘も何もかもが平らに均されている。
唯一分かるのが北の壁と、町を知らせる高い高い煙突のみ。
その煙突が前方に現れて、大きくなっていた。
あれが最後の町、サーパティ町だ。
「暖かくして寝られる最後の町だな」
「明日からはずっと外だもんな。にしても少し間に合わなかったか」
もう少し雪が低い時に行く予定だったけど、完全に町が沈んでしまった。
これでは気軽に町の結界の外へと出られない。
ここ千年でウォルタリカの結界技術が進歩し、頑丈で分厚い要塞みたいな結界を張れるようになっていた。
前も張れてはいたけれど、春先にはヒビがたくさん入っていたりしていたらしいから良いことではあるのだが、お陰さまで人も容易に出られなくなった。
この雪行船だって町へと続くトンネルを通過していくしか入る方法がない。
ちなみにこのトンネル。
雪がないと空中に設置された謎建築みたいになっている。
「それじゃ、マーキングしてくるよ」
「ついでに地盤安定もしててくれ」
「……頑張ってみる」
甲板に出て、光彩属性を付与した雷弓を発動させた。
端からは見えなくなっているこの弓に、サイレントと地盤安定、そして転移印の魔法を付与。
これで射つときは静かに、町から転移で出るときの印と着地した瞬間全身埋まるということは回避することができる。
狙いを定めて結界脇へと矢を射った。
うまく定着したらしい。
「よし、これでオーケー」
サーパティ町へと着いた。
雪行船が着く最後の町ということで、人が疎らだ。
眠そうなラクーの手を引いて歩く。
町を出る前にもう少しだけ食べ物を補充しないといけない。
「先に干し肉屋行くか?」
『ドライフルーツも!』
「ナマコモドキは追加するか??」
『雪避けどうする?』
旅慣れしている二人が次々に提案する。
「まてまて、そんないっぺんに、──!!!」
気配探知に引っ掛かった。
まだ追ってくる奴らが残ってたのか。
だが、今回のは少し様子が違う。
気配探知妨害の魔法を使用しているのか、位置が正確に把握できない。しかもこれは──
『囮使ってるねこれ』
「ああ、厄介だな」
オレとネコの会話でラビが即座に応戦準備をした。
次の瞬間、屋根の上と通路の反対側からプロの暗殺屋者が姿を表した。
妨害の魔法を解いたらしい。囮が邪魔だが、人数を断定した。反応は4つ。
ラビにすり替えの魔法を使用してもらおうと目配せしたその時、まるでグラスハープのような音色が響き渡った。
「!」
「うわ!」
『へぁ!?』
暗殺者達の動きが止まった。それどころか、ネコやラビ含め、町のみんなの動きが止まってしまった。
「この人達をキズつけないで!!かえってー!!」
ラクーが言葉を発すると、またしてもあのグラスハープが鳴り響く。
まさか、ラクーが?
暗殺者達はふらりとすると、次々に武器を納めて去っていく。町のみんなもボンヤリとしながらも、何があったのかよく分からないように首を傾げながら再び動き始めた。
「おい!大丈夫か?」
『んん………頭がクラクラする…』
「……なんだ今のは?」
二人も頭を押さえてキョトンとしていた。
何がなんだが分からないが、町を出るなら今しかない。
ラクーを抱え、ネコをフードへと放り込み、ラビの腕を掴むと転移の魔法陣を発動させた。
「わ!」
「おわっ!」
『んん!?』
突然の転移に動揺する三人だったが、オレは地盤安定の魔法が切れる前に雪上歩行の魔法陣を自分と三人に施した。
「とりあえず今は逃げるぞ!!ネコ、頼む!!」
『うんんんー?わかった!!ほいさ!!』
ぼふんとネコが大型化し、そこへラクーを乗せ、ラビも乗ったのを確認するとオレは氷精と風精に頼んで霧を発生させてもらった。
今はここを離れるのが先決だ。