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古主の帰還 21

 旅館が空いていたのでそこに泊まる事になった。

 なんとなく既視感があると思ったら、どうやら煌和の職人が手掛けたものらしい。とはいえ、きちんと雪に耐えられられるように屋根がエグい角度だけど。


 運の良いことに、ここは天然の温泉があるらしい。

 普通の旅館はお湯を温めているだけなのが多い中、天然ものを引き当てたのは思わず小躍りしそうになった。


 せっかくなので部屋に温泉が付いているものにした。


 高額だけど、仕方無かろう。

 ラクー一人だけで行かせるわけにもいかないし、そもそも男しかいないからどうしようもない。

 ちなみに使い魔作戦ならどうかとも思ったが、そこも事前の注意事項でNGになっていた。

 まぁ、浮くしな。毛が。



 ラクーがキャッキャッと楽しげにお風呂に入っている。

 一応安全のためと、お手伝いのために限定的に使い魔を召喚した。

 水場お馴染みウンディーネである。

 エルトゥフのウンディーネとは別人だけど性質は同じ

 彼女なら間違いは絶対に起きないだろう。


「ネコ、ラビ、ちょっと来て」


 早速寛ごうとしていた二人を集めた。

 さて、ラクーが楽しんでいるうちに作戦会議だ。








「楽しかった!」


 ラクーがお風呂から上がってきた。

 結構な時間お風呂で遊んでいたからか顔が真っ赤になっていた。


「アイスクリームでも食べるか?」

「たべる」


 ストンと隣に座り、まだかまだかと待っている。

 その隣にはウンディーネも座った。こちらも報酬をあげないと。


「ラクーはこれ」


 コトンと、イリオナ産のジェラート・マテラレモン入りを置いた。買っておいて良かった。

 そしてウンディーネにはアトスラル産の海洋深層水。これをあげると水精(スーイ)が喜ぶから、きっとウンディーネも喜ぶだろう。

 瓶の蓋を開けると、ウンディーネが凄く喜んだ。

 瓶に手を翳して水を浮き上がらせると、その水をウンディーネがつついた瞬間に消えた。

 吸収されたらしい。

 その証拠にウンディーネが頬を押さえて微笑んでいた。


「喜んでいただけたようで何より」


 瓶に残ったのはミネラルたっぷりの塩。

 それは食べないので回収した。

 じゃあねとラクーに手を振りウンディーネは空気に解けるようにして消えた。


「おお」


 そんな様子をラクーがアイス片手に見ていた。


「溶けるぞ」

「!」


 ラビに言われてラクーは慌ててアイスクリームを頬張った。ハムスターみたいだ。







 夕飯は選べるらしい。

 餅鍋は無いかと、メニュー表を見てみたが、あったのはポンポン鍋。

 やはり地域性なのだろうか。


 メニューを聞きに来た女中さんに訊ねてみた。

 ある方を頼むってなってたけど、やっぱり聞いておきたかった。


「あの、餅鍋は無いんですか?」


 すると女中さんは「あら!」という感じに顔を明るくした。


「お客様、だいぶ昔の郷土料理をご存知なのですね。餅鍋は此処よりも南方の地域で食べられていたものですよ。今はあまり作られなくなってしまったけど」


 やはり地域性だったのか。


「なんで作られなくなったのですか?」

「大きな戦争があったじゃない?それで産地がやられてしまってお米が高騰した時がありまして、代わりに手に入った麦が広がって今のポンポン鍋になったのですよ」

「そうなのですか」


 確かに、お米の産地であるルキオ、マテラ、華宝南部、ビャッカ諸国(現、狗歌王国ヒャカ)が初撃で大変なことになっていた。いくら煌和国が無事でも賄いきれるものじゃない。


「もし良ければ、お椀で盛り付け出来ますが」

「お願いします!」

「ふふ。それでは」


 思わず頼んでしまった。

 振り替えるとラビがニヤニヤしていた。


「良かったなぁ」


 実に悪い笑みだ。

 だが、ラクーとネコは二つ同時に味わえると喜んでいた。


 その後、ポンポン鍋と餅鍋をたらふく食し、お腹を膨らませて転がっているラクーとネコが見られた。

 オレも懐かしい味を堪能できて幸せだった。







 翌朝、船乗り場へとやってきた。

 人は結構いるけれど、北へと向かう人達は全体の一割もいない。


 お金を払って並んでいるとラクーが訊ねてきた。


「陸なのに舟なんだ」

「これは雪上専用の舟で、船底に“浮遊”“凍結”“旋風”の魔法陣が施されている」

「ほぉー」

「底の形も平らで雪車ソリになってるから、上の帆で風を発生させて滑るように進むんだ」


 実際にはアイスホッケーみたいに滑っていく。

 こんなにでかいのに。

 サイズは大型バス程だが、そこに3~4メートル程の帆が付いていた。そこには“旋風”“氷結”“火炎”の魔法陣

 なるほど、温度差で周りの空気を巻き込みながら前方へ進むように調整しているのか。

 反対側にも同じものがあったから、それはブレーキの役というわけだ。


「マホウジンって凄いんだね。精霊みたい」

「確かにそうだな」


 とはいえ精霊の起こす魔法は、基本災害レベルだが。

 昔を思い出したネコが苦い顔をする。


『……竜巻、怖かったね。死ぬかと思った』

「どっちの竜巻の事いってる?」

『二つとも』

「お前、あの壁以外も発生させてたのかよ。死ぬかと思ったぞあれ」


 そういえばラビの方に超巨大竜巻突入させてたことあったな。懐かしい。


「ラクーも見たい」

「『やめて』」


 二人に制止され、しょぼんとしたラクーを宥めながら、オレ達は船へと乗り込んだのだった。


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