古主の帰還 19
剣を引き抜く。
「ふう…。とりあえずこれで終わりかな?」
気配察知を展開しても、敵はもういないらしい。
陽動をして、敵が集まってきていたラビやネコの方も片付いたようだ。
「やっぱり様子見もほど程にしておいた方が良いんだな。今回みたいな事が起こらないように、一回ちゃんと潰しておかないといけなくなるし」
そうなったら本体の方から隠者、そういうこと専門のモノを送らないといけなくなる。
世間の騒ぎにならないようにするけれど、個人的にはやらなくて良いのならそれに越したことはない。
今回はさすがに別だけど。
でもオレに娘がいた場合、どういう事が起こるのか把握できて良かった。
それだけは感謝しておこう。
みんなの元に戻ると、ラクーが真っ先に走ってきた。
そしてお腹にアタック。ラクーの体重が軽いから全然痛くない。
「ふ…ぅ、ら、ライハぁぁ…」
「!」
珍しい。
ラクーがオレの名前を呼ぶなんて。
いつもは「ねぇ」だから感動してしまった。
「うで、痛くない??うで痛くない??」
「あ」
そういえば左腕無くなったままだった。
ラクーには自分が人形だという事は教えていないし、普通に痛そうと思ってしまうよな。
迂闊だった。
「驚かせてごめんな。見た目ほど痛くないし、すぐに直るから大丈夫」
「ほんとお"ぉ??」
まずい。
泣かせてしまった。
三人からの視線が痛い
「な、泣くな泣くな。本当だって。な!ニック!」
「さぁ?どうだかなぁ?」
泣き止ませようとニックに助け船をお願いしたのに蹴り飛ばされた。
しかもオレに悪い笑顔を向けている。
最近使いすぎてるの怒っているのですか?
そんなニックをドン引きのラビとネコが見る。
「と、そんな冗談はさておき」
「良くない冗談だよ」
「向こうの店の中にスペアを置いてあるからとっとと変えてこい」
前からだったけど、ニックがオレに対して超絶ドSなのが辛いわ。いや、こき使ってるオレもオレか。
泣きじゃくってるラクーをラビとネコに預けて、示された店へと向かう。
「置き方」
スペアの腕が分かりやすくライトアップされて立てられていた。
嫌がらせなんだろうか。
それとも秒で見付けられるよう配慮した結果なのか。
とりあえずその腕を机に置き、破損した腕を取り外し、スペアの腕と取り替えた。
今回の事で反省した。
痛くはないけど、周りの反応が良くない。
スペアたくさん作っておけば良いと思っていたけど、味方のメンタル削るのは良くないな。
多少体が重くなっても強度を増やすべきだ。
関節の歪みが無いかを確認してから戻ると、景色が一変していた。
一面のお花畑、しかも遠くの方には湖が見える。
「なにごと?」
『お帰り。ニックがラクー泣き止ませるために綺麗な景色を写してるんだよ』
「へぇ」
確かに綺麗な景色だ。一体何処なんだろう。
「なんだ帰ってきたのか。ラクーは泣き止んだぞ」
「ニック?」
「やり過ぎました」
ついにニックまでラビに尻に敷かれるようになったか。
『ラビつえーよな』
「ホントだな」
「おなかすいた」
「よし戻ろう!」
そのまま戻ると騒ぎになるので、人目の無いところまで移動することになった。といってもニックの鏡移動で一瞬なのだが。
「路地裏か」
移動したのは何処かの路地裏だった。
リコレッタといっても、路地裏まではキラキラではない。
ニックが路地裏先の曲がり角を指す。
「彼処を曲がれば駅はすぐそこだ。此処にいる奴らは処理しておく」
「ありがとう」
フンと鼻で笑ったニックがラクーへと視線を向けた。
「さっきはすまなかったな」
ニックがラクーへと謝罪した。
ラクーはニックを見上げ、笑顔を向ける。
「もういいよ。ライハなおったし」
ふわりと優しくニックが微笑み返した。
怖い。明日当たり槍でもる降りそうだ。
「良い旅を」
ニックが言い切ると同時に景色がまた逆さになった。いや、戻った。
『びっくりしたぁー!あんな顔もできるんだな!』
「ああ。オレも恐怖で心臓が止まるかと思った」
「お前らニックをなんだと思ってんだよ」
鬼かな。
「いこう」
「そうだな」
ラクーに手を引かれ、次の国へ行くために歩きだした。