古主の帰還 18
「おおおおおおお!!!!!」
剣が振り下げられる。
しかしその剣はラビの双剣によって遮られた。
「なに!?うおお!?」
ラビは一気に押し返し、男に猛攻を加える。
攻撃の最中、一瞬の隙を付いてラビが同時に認識阻害の魔法を発動。
突然の街中の襲撃に騒然とした人達が、これは襲撃ではなく上空から硬いモノが落ちてきて、何が起きたのか分からずにパニックになったと認識をすり替えたのだ。
すり替えている最中は色々なものを見落としやすい。
「くそ!なんだこいつ全然当たらねぇ!!ぐわっ!」
「ふざけた戦いかたしやがって!!」
反対側ではテレンシオ(ネコ)が二人相手に大立回りをしている。
ネコ型は物凄く強いが、人型とて負けていない。
何せこいつはオレの前の勇者、二代目勇者その者だ。
『遅いよー!ほらほら!』
二人がネコに攻撃を加えようとしても、攻撃はいとも簡単に回避され、それと同時にカウンター攻撃がやってくる。
これは二代目勇者テレンシオの最も得意とした戦いかただ。
敵の攻撃に合わせて鋭いカウンターを放つ、“反射の技”と呼ばれる、この世界ではもう無くなってしまった流派だ。
その使い手であるテレンシオは、二人を相手にしながらも、周辺にまだ敵が隠れていないかを確認している。
ヒュ、と小さな風切り音を耳が拾う。
再びの狙撃。
手を音の方向へ向ける。
今度は自動ではなく、意図的に二十枚を間隔を開けて魔法の盾を展開した。
飛んできた弾は一枚目の盾をすり抜けたが、二枚目でぶつかり、三枚目を貫通、四枚目で相殺した。
スキップと貫通の魔法が付属されてたか。
スキップの魔法は始めに当たった“盾や結界、壁”などの障害物に当たった際、その裏側へと自動に転移するという厄介な魔法だ。
なるほど、これなら運が良ければ相手に大ダメージを与えられる。
だけど、また同じ弾だなんて。
「……腕は良いのに考えが足りない」
次でいけるとでも思ったか?
「特定完了」
残念だったな、一発目で仕留めなかったのが運の尽きだ。
狙撃してきた敵の位置も特定し、オレはニック召喚の為の魔法陣を展開。
足元にはトランプのジョーカーが合わせ鏡になったような魔法陣が展開された。
「鏡写しを頼む」
地面に巨大な鏡が出現した。
街を飲み込むような巨大な鏡が下から街を写し出す。
ひとつ瞬きすると町並みが真逆になった。
これはニックの作り出した仮想空間だ。
此処ならどんなに暴れても問題ない。
「ニック」
「なんだ?」
オレの後ろに男が立っている。
髪はまるで新緑のような明るい緑色。ピッシリとスーツを着こなしているその男は、めんどくさそうにオレを見下ろしていた。
ニコラス・ローウェル。ニック。
この鏡世界を支配する主だ。
当の昔に肉体はなく、今は魂のみがこの鏡世界に存在している。
その鏡世界にオレ達と敵判定した奴らを強制的に連れてきた。
此処は作り物の世界だから、現実世界には反映されない。
それにしても遠くの方に結構いたものだ。
ずいぶんと舐められたものだな。
「悪いけど、ラクー保護してて貰える?」
「いいが、そろそろ追加報酬貰うからな」
「りょーかいですー」
ぎゅ、とラクーが服を握る。
その視線は無くなってしまった左腕
オレはラクーの頭をぐしゃりと撫でた。
「ちょっと行ってくるね」
右手から電気が迸り、一瞬のうちに剣になった。
斎主ではないが、見るものが見れば業物だと分かるものだ。
さて、やりますか。