古主の帰還 17 ※欠損表現注意
マーリンが地面に膝を付いてラクー拝んでいた。
「あの…、マーリンさん??」
部下に応接間に案内されて、マーリンがラクーを一目見た瞬間から部下を下がらせ、すぐにこの体勢になった。
流石はギリス・グランドニアの長。
察しが鋭い。
「えーと、その様子だともう正体がバレている感じですか?」
マーリンが顔を上げ、真剣顔で返す。
「むしろ隠す気だったのか?それで??」
「いいえ、すみませんでした」
現マーリンは初老の男性だ。
緑髪は白髪交じりだが、膨大な魔力量のお陰で老化が遅れている。
現在の年齢は135歳だ。
マーリンになった者としてはまだ働き盛りである。
「マーリン様、どうぞ立ってください」
ラビに促されてマーリンは立ち上がった。
『ビックリしました?』
「心臓が止まるかと思いました」
大変申し訳ないことをした。せめて一報を入れておくべきだった。
「改めて紹介します。こちらが、ラクー。
ラクー・ズーショア」
「ラクーです。よろしくお願いします」
ラクーが手を差し出すと、マーリンは孫の小さな手を見たようなお爺ちゃんの顔で、ラクーの手を優しく握った。
「私はギリスの長、マーリン。マーリン・セバス・ローウェルでございます。好きに呼んでください」
「マーリンって呼びますね」
マーリンは世襲ではない。その時代で一番の魔法の使い手がマーリンになる。
ニックにも推薦があったけど、自由が無くなると言って蹴っていた。
マーリンはぼそりと小さく「もう手を洗えない」と言っていた。気持ちは分かるけど洗ってください。
ラクーにお菓子をたくさんあげるマーリンは心底楽しそうだった。
マカロンとか、ラクーに「はいどうぞ」と差し出されるとメロメロになっていた。
『孫でも思い出したのかな』
「たしかマーリンさんには曾孫がいた気がするけど」
「いつの時代もお爺ちゃんは“小さな子”には甘いものさ。さて、話があるんだろ?ちょっと替わってくるよ」
ラビと入れ替えでマーリンがやって来た。
顔が幸せそうだ。
「嬉しそうですね」
「ええ。畏れ多くも、素晴らしい体験です。さて」
表情が変わる。
「説明はしていただけるんですよね?」
ルキオ王の正体はさておき、ルキオが始祖の体を保持しており、遥かな昔から膨大な魔力を注ぎ込んだ末に復活したと言うことを説明した。
このくらいなら大丈夫だろう。
それにマーリンは信頼できる人だ。
この情報を漏らしたりはしないだろう。
紅茶を飲み、マーリンが一息ついた。
「なるほど。ルキオがそんなことを。どうりでずっと東側が怖かったわけですね。それにしてもずいぶんと小さくてあらせられる」
「これは擬態です。果てに行けば、本来の姿に戻るそうです」
『子供の姿なのは、初めて見た人が小さかったからです』
ネコの言葉でマーリンが目を輝かせた。
「ほぉ。ということは、アレですか。もしやルキオ王は」
「思っている通りですが、勘違いされているのもありますね。彼女は見た目よりも長生きですよ」
「なるほど。確かに貴方みたいのも居るのですものね。なに、私はこれでも柔軟な方ですよ」
それから色々話をして、これから更に北の方に行くと言えば、それはさぞ大変でしょう、と、色々くれた。特に防寒具系魔法陣が嬉しかった。
「気を付けてお帰りください」
「うん!ありがとう!」
ラクーがマーリンに手を振るとデレデレ顔で手を振り返していた。
こんなにも子供に弱いとは知らなかったな。
覚えておこう。
ゲートでリコレッタ国。昔のパルジューナ国へと転移した。
ここでお土産とかを購入して再び汽車に乗る予定だ。
ちなみに何故国名が変わったかというと、ずいぶん前に国内革命が起きまして、革命が行きすぎて内戦になり、いくつかの小国に分かれた後に再統合したから。
纏まったのが150年くらい前だから、真新しい国といっても良いかもしれない。
「キラキラ凄いね」
キラキラ好きなラクーが興味津々で街を見渡している。
相変わらずこの国は綺麗なもの好きで、あちこちが輝いている。
統合したから新しいものもあるけれど。
パンクファッションが大流行中のリコレッタだが、最終的にどこに行き着くんだろうな。
お土産やさんに寄って、色々見て回る。
手に取り迷う。
個人的にはどれもデザインが良いから絞れない。
「ラクーも一つ欲しい」
「え、欲しいの?」
「うん」
果てに着けばどうなるのか分からないのに良いのだろうか。
まぁ、木製なら大丈夫か。
「此処からなら選んで良いぞ」
「ほんとう?ありがとう。……わぁー、どれにしようかな」
真剣に選んでいるラクー。
こうしていると普通の女の子だ。
隣でネコ(テレンシオ)も一緒に見てくれているから、オレはオレで真剣に選ぼう。
「魔道具は貰っただろ。アクセサリーとかどうするんだよ?」
ラビが訊ねてくる。
「これは手土産だよ」
「手土産?」
「そう。このままじゃ渡せないけど、持っていった方がいいんだよ」
これで良いか。
いくつか選択し、ラクーに声をかけた。
「ラクー、決まったか?」
「決まったー!」
ラクーが手にしたのは、小さな花が散りばめられたような腕輪だった。
趣味が良い。
少し大きいけれど、問題ないだろう。
お会計をして、腕輪をラクーに渡してやると嬉しそうに左腕に装着した。
「似合うな」
『可愛い』
「にひひひ」
褒められたラクーは、腕輪を撫で回していた。
良かった良かった。
「それじゃあ、駅の方に行こう」
店を出る。
その瞬間、体が勝手に動いた。
ほとんど条件反射だ。
隣にいたラクーを体を張って庇う。
ドバン!!!!と凄まじい衝撃が襲い、オレはラクーを抱え込んだまま後ろへと転がった。
「ライハ!!」
『!?』
狙撃だ。しかもただの狙撃ではない。
自動で発動する反射の盾の魔法陣を通過してきた。
被弾した左腕が二の腕から砕け散ったが、そのお陰でラクーには被弾していない。
「大丈夫か!?」
片腕の中にいるラクーは驚き過ぎてポカンとしていた。
怪我はない。
「…チッ。油断したか」
魔法の気配が恐ろしく薄かった。武器は魔法や魔法陣の類いではなく、恐らく魔道具。
しかも撃った人物も、感知範囲の外、とても遠い。かなりの手練れなのはいうまでもない。
それはまぁいい。
一つ許せなかったのがある。ラクーを狙ったことだ。
もしやこの前の情報を流されていたか。
「……」
潰すしかないな。
「ライハ!!後ろだ!!」
脇道から現れたフードを深く被った人物が、神聖な力を纏った剣を振り上げた。