古主の帰還 13
巨大転移ゲートへと歩いて向かい、その隣にあるカウンターで行き先に合わせたお金を払うと、人数分のチケットが渡された。
これは不法転移者を防ぐためのシステム。
何だかんだと維持や運用にお金が掛かるゲートだ。
不法利用は許さない!!!!
ちなみにそれやったらニックの干渉で強制的に魔界行きになります。
「お願いします」
「はい、承りました。こちらでございます」
それを持って更に隣のカウンターに見せる。
すると一人のスタッフが先導してくれる。地域ごとの場所へと案内するためだ。
運用初期、潜るゲートを間違える転移事故が多発したせいでこうなってる。
「リオンスシャーレ南部行きはこちらのゲートです」
区画ごとに分けられた通路とシステム的には空港が近い。
目の前に聳えるこの小さなゲート一つ一つが設定された場所にあるゲートへと繋いでいる。
初代ゲートは行き来が出来たが、この最新型は魔力節約のために一方通行。
もうちょっとどうにかしたいけれど、今後、なにもしなければ魔力の減少するこの世界ではこれでも最盛期なんだ。
「ラクーはオレと。ネコ、ラビとお願い」
『はーい』
「おう」
ラクーと手を繋いでゲートをくぐる。たったそれだけで、まるで部屋を移動するかのように転移した。
転移酔いが無くなったのは、一番の進歩だと思う。
「…? 移動したの?」
何の違和感もなかったラクーが確認するように訊ねてきた。
「したよ。外見たら吃驚するよ」
外に出ると、ビッツ街とは一変してのどかな田舎風景が広がっていた。それを見たラクーの頭の上に「!!!?」の記号が浮かんでいそうな顔をしていた。
期待した反応で内心笑ってしまう。
ここはリオンスシャーレ国のやや南西部、ノーステアル・グイス町。昔のリオンスシャーレの村を再現している地域だ。
といっても、再現しているだけで中身は現代だけど。
「それじゃ、貸し馬店に行くか」
「いらっしゃいませ」
店に着くと女性スタッフがやってきた。しかもまさかのケンタウルスの店員だった。
いや、でもそうか。馬の言葉がわかる方が管理しやすい。
「ライハ・ログ・ハルフ様ですね。お待ちしておりました。既にご準備は済んでおります。こちらへどうぞ」
カポカポと先頭をケンタウルスが行く。
オレのところも農場管理にケンタウルス募集しようかな。
「いつ連絡したんだ」
ラビが訊ねたので答えた。
「2日前の夜。ニック使って」
「あいつ使いすぎじゃね?」
「大丈夫。ちゃんと対価は払ってるから」
じゃないとオレが大変なことになる。
いつまで経ってもニックには頭が上がらないの何でなんだろう。
『いつもそのくらい仕事が早いと良いのにね!』
「その言葉で心にダメージを負ったよ」
案内された建物には芦毛と栗毛の駿馬が二頭。
「それぞれ、オネ、ツオと名前がついております。二頭とも賢く、強いので多少の旅では問題がありません。その他の注意事項はこちらに記しておりますので、確認の上サインをお願いします」
渡された書類は基本的なものが掛かれていた。
要約すると、馬に無理をさせるな丁寧に扱え、盗めば地獄のそこまで追って行く、追跡できるようになっているからそのつもりで、返却時は移動魔術師が迎えに行く、その際に怪我していれば日数+で追加請求されるというもの。
同意して、そこにサインする。
「乗馬の練習をいたしますか?」
「大丈夫です。以前もよく乗っていましたから」
久しぶりに騎乗し、ラクーを前に乗せる。
子供と一緒だからとそれ用の鞍を用意して貰った。
「どう?」
「馬かわいい!!」
馬怖くないらしい。乗り心地の事を訊ねたんだけど、まぁ良いか。
まぁ、でもラクーってのはすべての生物の母だし、怖いわけないよな。馬もなれてるようで大人しい。
ラビも当たり前のように普通に騎乗し、試しに歩かせてからこっちに来た。
「二頭とも普通の駿馬だな」
「朱麗馬がいいの?」
「いや、これでいい。これがいい」
ラビにとっての馬はトラウマの一種であるらしい。
それでも利用するこいつは凄いと思う。
行ってらっしゃいませと、スタッフに見送られてオレ達は出発した。
懐かしい揺れに体が自然とリラックスする。
やっぱりオレは放浪が合っている。
町を歩きながらラビが言った。
「ここらはまだ馬が多いな」
車が発明されても馬で移動する人は多い。
「そりゃ、だって馬のが早いんだもん」
「確かになぁ」
現時点では、駿馬は普通に車に追い付くし、朱麗馬は汽車を追い抜く上に本気を出せば大きく引き離せる。
この世界の馬の性能がおかしいのだ。
多分馬離れが起きるためにはもっと年月が必要だろう。
「ちなみに行き先はどこだ?」
「メディオクレ山地だ」