古主の帰還 11
広い倉庫で組み立てられていたのはプロペラ機だ。
しかもこの飛行機はこの世界での動力源のひとつである魔方陣を組み込んでいない。
「すごいね!まるで鳥さんみたい!」
「確かに、言われてみればそう見えるね」
子供の感性は凄いなと思う。
いや、先入観が無いからか。
「そうでしょう!そうでしょう!モデルは鳥で、足は車輪。初めは羽ばたかせようと思ったが、思ったよりも難しくてな。そこでライハさんのプロペラの案ですよ。個人的にはジェットというものが気になるのですが、あいにく仕組みが今のところ魔法でしか再現出来なかったので、簡単な仕組みのプロペラからスタートです!」
タナカ社長が興奮気味に説明をしてくれた。
それにラクーは圧倒され、ラビは「へぇー」と返す。
魔法で空を飛ぶ事はできる。だが、この飛行機は魔法陣使わずに錬金術のみで飛行させる試みだ。
それには理由がある。
オレが即位して長いが、ここ最近、魔法を使える人が減ってきているのだ。
勿論魔法陣を使えばある程度は発動できるし、魔導具の発達も目覚ましい。だが、詠唱のみだと弱い魔法しか発動できなくなっている。
信じられない事だが、ギリスの人たちもだんだんと体内魔力量が減少しているのを感じているらしい。
つい先日、ギリスからマーリンの名を受け継いだ長が訪ねてきたのだ。
内容は勿論、世界の魔力量の減少についてだ。
減少はゆっくりで、普通の人には感じ取れないその異変だが、確実に世界に影響を及ぼしてきている。
わかりやすい影響は、精霊の数の減少だ。
精霊は魔力の塊だ。
魔力が減れば数が減るのは仕方がないが、そうなればエルトゥフ達が困るだろう。
「すげーな。魔法無しでこれが飛ぶのか」
ラビが飛行機を見ながらそう言った。
「ああ」
もしかすると、あと500年ほども経てば個人で魔法を使えるものはオレと本物の魔法使いである遣い達、そしてギリスの一部の人達しかいなくなってしまうだろう。
本当の意味で魔法が神秘になる時も近い。
『近くで見ても良い?』
「どうぞどうぞ!ご案内いたします!」
社長の後をついて階段を降りていく。
この世界の住人は魔力が体に浸透していて、かつては魔力が一定量より減れば魔力欠乏症という酷い貧血のような状態に陥っていた。
最初は魔力量が減って、それで魔界のように何か問題が起こるのではないかと心配していたのだが、幸いにも体内魔力も穏やかに減っているから問題は起きなかった。
そもそも、魔力がない時を遺伝子が知っているからだろう。
この世界において魔力は外付けでしかない。
魔界から漏れた異物なのだ。
だから、例え魔力が完全に無くなったとしても、魔力欠乏になること無く“魔力がなくても生きられる”世界に戻るだろうと予想している。
飛行機を見上げる。
この世界もだいぶ文明が進んだ。
錬金術という科学がノーブルを中心に浸透している。
そのうち来るであろう、魔法のない世界。
そうなったらそうなったで、多分前にいた世界とにた感じになるんだろうな。
そうなった世界でも不便さを感じないように、オレは積極的に錬金術のお手伝いをしなければならない。
まぁ、また魔力を戻すこともできない訳じゃない。
満ちていた魔力は二ヶ所に沈んで溜まっているだけで無くなったわけではない。
やろうと思えばできる、だけどそれをしないのは訳があるから。
(とりあえず、緊急時に備えて、もっとメークストレイスのリンゴをより広く浸透させないと…。ああ、あとアレも完成させないとな。頑張ろう)
「ライハ様!」
「!」
振り替えるとイヴァンとグルエルの息子であるブオースだった。
エルトゥフの耳があるが、やや短め。いわゆるハーフだ。
彼は森を出て、イヴァンの父に弟子入りし、そのままこの会社の研究員として働いている。
「ブオース。お久しぶり」
「お久しぶりです!来てたのですか!丁度よかった!紹介させてください!」
ブオースの後ろには二人の青年がいた。
知らない顔だった。
「こちらリンペラー兄弟です。完成した暁には、この二人が操縦して離陸して貰うのです」
「へぇ!期待していますよ」
この世界でのライト兄弟になれるのか、楽しみだ。
そのままブオースと話していると、ラクーが駆けてきた。
そしてそのまま抱き付いてきた。
「なんだなんだどうした?」
ラクーが顔をあげてこちらを見上げる。
「ねぇ!ライハは空が飛べるって本当?」
「本当だけど、ラビから聞いたの?」
「うん!」
ラビを見ると口パクで「すまん、話しの流れで」と言ってきた。
流れなら仕方ない。
「飛べる…けど、人形だから長くは飛べないよ?」
あ、でもネコ使えば飛べるか。
「飛びたいの?」
「飛びたい!」
「そっかぁ」
飛びたいかぁ。
「あのー、タナカ社長…「いいですよ!!」え」
まだ何も言ってない。
「私たちも参考に見たいですから!!」
「です!です!」
ブオースとリンペラーも同意するように頷いている。
まぁ、いいか。
「わかった。おいで、外に行こう。ネコー!」
『はーい!』
ネコが肩に乗り、ラクーと手を繋いで外へと行く。
社長の手にはカメラがあった。
撮る気か。
まぁ、でも社長だったらいいか。
「頼んだぞー!ネコ!」
『ライハも補佐よろしく!』
ラクーを抱き抱え、ネコの尻尾が巻き付いてオレとラクーをしっかり固定した。
ぐっと膝を曲げて空を見上げる。
「行くぞ」
足元に風の魔法を発生。
ぶわりと地面から強い風を発生させ、その風に合わせてネコが大きく翼を広げた。
羽ばたき一つで軽々と空へと舞い上がる。
久しぶりにネコと飛んだけど、これはこれでやっぱり良いな。
「ラクー、どう?怖くない?」
「たのしいーーーーー!!!!」
嬉しそうな悲鳴をあげるラクー。ならばもっと面白くしてやろうと、ネコと一緒にジェットコースターのような軌道をとってやった。
「閃いたァァァァァーー!!!!!!」
突然社長が叫んだ。
何事かとラビが社長を見れば、凄い勢いでメモ帳に何やら描いていた。
そこには三角形の物体に、人間がくっついているというよく分からないものだった。
ラビは空に視線を戻す。
こっちを見ている方が面白い。