古主の帰還 10
貸倉庫から自分の車を取り出した。
「久しぶりに運転するな。……動くかな」
不安になりながら乗車し、パネルに掌を付けて魔力を流した。
これはオレ専用の車で、オレの魔力でしか動かない。
時代は弾機車だが、こんな車も有りだろ。
スイッチをいれるとエンジンが掛かる。
よし、大丈夫そうだな。
「さーて、迎えに行くか」
ネコに魔力通信する。
──「もうそろそろ着くよ」
──『わかったよー!』
これで良いタイミングで迎えられるだろう。
「ん?」
ピピ、と勝手にスマホが起動した。
「おいライハ」
ニックだった。
さっきの刺客制圧の手伝いにニックを呼んだのだが、相変わらず無駄の無い手腕で感動した。
ニックの特殊能力の鏡移動は、反射物をトンネルにして世界中何処にでも一瞬で移動するという、転移魔術師からすると「ズルいぞ!!!」と叫びだしたくなる技術だった。
これを持っているのがニックで良かったとしみじみ思う。
「ニック、どうかしたのか?」
「お前の送ってきた奴ら、どうする?迷宮にするか?それとも魔界送りか?」
「あー…」
どうしようかな。
オレの監視がないままに魔界に送り込んで、そこの住人に危害を加えられても困る。
魔界の住人もオレの国民だ。
「とりあえず、しばらくは鏡迷宮に入れててくれない?後で対処するから」
「わかった。適当に遊んでるぞ」
「ほどほどにね」
通話が切れた。
これでしばらくは安心だろう。
カフェから二人とネコ出てきた。
道の傍らに止めて呼ぶ。
「おーい!こっちだ!」
声に気付いて三人がやってくる
「へぇー、これがお前の車か。趣味良いな」
「どーも。好きに乗って」
ネコが助手席に座る、後部座席にはラビとラクーが座る。
「シートベルトは閉めてね」
「なんだそれ」
「あ、そうか」
ラビを乗せたことがなかったから伝えてなかった。
この世界ではまだシートベルトが浸透していないのだ。
オレのこの車は特別製だからわざわざ付けて貰ったのだ。
「ネコ、今回は後ろで教えてくれる?」
『オーケー!』
しゅるんと姿を崩して後部座席にネコが移動すると、尻尾で教えた。
ラビとラクーがしっかりシートベルトを閉めたことを確認すると出発した。
「わあー!すごい!早いね!」
ラクーがテンション高く窓からの景色を見て興奮している。
そうかそんなに喜んでくれるか。
嬉しいな。
「この車、バネじゃないな。魔力か?」
早速ラビが当ててきた。
「正解。オレだけの特別製で、オレの魔力でしか動かないんだ。ちなみにネコとラビはオレの魔力が混ざってるから動かせるよ」
ネコは魔力を共有しているし、ラビは心臓の側にオレの魔力が入った魔宝石がある。
だからどちらも反応するから起動するだろう。
「使いたかったら言ってね。その前に運転のしかた教えなきゃだけど」
「わかったわかった。じゃあ必要になったら遠慮無く借りるからな」
何となくだけど、ラビは車にハマりそうな感じがする。
「ねぇねぇ!どこまで行くの?」
ネコと一緒に外を見ていたラクーが訊ねてきた。
きっと景色がだんだんと建物が少なくなってきたのを見たから不思議に思ったのだろう。
「前に大きい建物があるだろ?あそこだ」
「おおきい!」
緩やかな丘の上には大きな建物が建っている。
あそこは昔オレがお世話になった所だ。
標識には“タナカ工業”と表記されている。
「ここ、あの時武器を提供してくれていた会社か」
「そうそう。大きくなったよね」
門番さんに挨拶し、中へと進んだ。
「ようこそライハ様!お待ちしておりました!」
「ささ!どうぞこちらへ!」
「お連れ様もどうぞどうぞ!」
車を止めて中に入るなり社長達に大歓迎を受けた。
それにラビが驚いている。
「まだ関係続いてたんだな。あれから1000年経つのに」
「ね、オレもここまで続くとか思ってなかったよ。でもお互いWin-Winの関係だし、これからもよろしくって感じなんだ。ちなみに社長はまだタナカ姓だよ」
「長持ちしてるなぁ」
この会社ではオレは取引先のお偉いさんという立場だ。
魔王と知っているのは上層部のみだけど、多分他の人も気付いているとは思う。
ここでの関係はこうだ。
オレがネタの提供、会社が開発して実現、それをオレが自ら実験して安全性の確認をして買い取る、という感じだ。
先を歩いている社長が振り替える。
「今回は飛行機を見に来たとかで」
「ええ。折角だから見て貰いたくて」
「それはよろしい!こちらへどうぞ!」
社長が扉を開き中へと進むと、
目の前には世界初の飛行機が佇んでいたのだった。