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古主の帰還 7

 おやつのリンゴを食べてお腹一杯になったラクーがとうとう睡魔に負けて、今はオレの膝を枕にして寝ていた。


 夕日に染まる景色を見ながらオレは言った。


「ラビはご飯を食べてくれば?」


 オレは人形だから魔力さえあれば3日は食べなくても全然問題ない。だけど、ラビは少し違うだろう。

 だけどラビは「いいや」と首を横に振った。


「携帯食料がある。それに、お前に聞きたいことがあってな」


 言いながらラビが消音サイレントの魔法陣を起動。

 秘密裏にしたい内容か。


『ネコも耳塞いでおこうか?』

「いいや、お前も関係あるだろう」

『そうなの?』


 ネコがこちらを見上げるが、まだ話の内容すら不明なのに分かるわけがない。


「なんでコピーなんだ?」

「あー、やっぱりそれ聞くか。人形の性能の実験…、てのもあるけどさ」


 すっかり日の沈んだ外を見る。

 昔と比べて少なくなった星が見える。


「これは、リアッタにも言ってないんだけど」

「リアッタ?側近のか」

「そうそう。…ここ最近、何処からか視線を感じるんだよ」

「視線?」


 ラビが怪訝な顔をする。


「普通だったら、気配察知なり、ニックを使うなりですぐに特定できるはずだけど、何故か一向に特定できない。現にオリジナルの方は今でもずっと視線を感じているしな」


 オリジナルの方は、今は城の執務室で秘書兼側近のリアッタに目を反らしたくなる量のファイルを積まれ、泣きそうになりながら処理をしていた。


 早くパソコンを開発して貰いたい。


 そんな中でも途切れること無く視線がオリジナルに向けられているのを感じている。


 人形作りは、ラビやナナハチ、あとはカリアさんの義手の例もあって前々から作ってはいた。

 素材は様々、とりあえず最終的に人形の中にオレの魔力を大量に突っ込んだ魔宝石を、人形に組み込めば動かすことができることが判明した。

 魔力が繋がっているから動いているのかは分からないが、繋がっているからこそできることの幅が広がった。

 その中で、魔力の繋がりの影響で五感情報も絶えずリンクしているから分かったことが1つあった。

 人形として活動している時に、ふと視線から外れているのを感じたのだ。

 これは使えると思った。


「この視線はオリジナルの方にしか向けられない。コピーであるオレは視線を向けられていないから自由に動けるんだよ。だって気持ち悪いじゃん。何に視られているのかもまだ分からないのに、大事なものなんて晒せないよ。

 もちろん力は半減、いや、八割減だけど、もしこの視線の主にラクーの存在を知られない方が良いかもしれない。

 そう考えてコピーできたんだ」


 ラクーに最初に出会ったのもコピーだ。だから、視線にはまだラクーを見られてはいないはず。

 オレの言葉をラビは黙って聞いてくれている。


「相手が何者なのかも判明していない以上、一方的にこちらの情報を渡したくない。

 反魔族派ノウメークの連中ならばなんとかできる。オレの賞金首目当てもなんとかできる。だけど…」


 勘がそれではないと言っていた。


「ネコすらも感じられない視線なんて、おかしいだろ」

「は?流石にそれは無くないか?」

『ライハの言う通りだよ。全然ネコは分からないんだよね』

「まじかよ」


 それにはラビも驚いていた。

 普通なら、オレに敵意が向けられれば自動的にネコにもそれが伝わる。それがないと言うことは、完全にオレ一人だけを標的としているということ。


「憶測でしかないけれど、確信もないけれど、1つだけあるであろう可能性をオレは知っている」

「なんだ?」


 窓から外をみた。

 真っ暗な空間のその先。

 この世界の外から向けられている視線だ。


「この世界の外だよ」


 馬鹿げていると思われるかもしれないが、そう思う理由がひとつある。オレ自身の存在だ。


 この世界で長く生きているが、オレは元々は違う世界の人間で、ウロさんという能力チートの移動属性魔術師、つまり召喚者によって世界を分ける膜すらも突破して、無理やり違う世界から人間をこの世界に連れてきた。

 とするなら、だ。


 この世界以外にもそういうことをできる者がいる可能性があるってことだ。


 オレのその言葉で、ラビは察してくれたらしい。

 いつになく真剣な顔で聞いてきた。


「それは、またお前が何処かに召喚される恐れがあるってことか?」

『え!?やだよそんなの!!』

「いやいや。安心しろ、それはない」


 オレは否定する。


「オレの存在は、管理人としてこの世界に固定されているから100%あり得ない。

 あり得るとするなら、オレの存在を杭として使って向こう側がやってくる事くらいかな」


 以前のウロさんが双子を杭として使って魔界を召喚したように。

 オレの体にそういった魔法陣があるかの確認をしたけれど、それらしいものは全く無かった。

 だけど、もしかしたら魔法陣が無くてもできる技術があるのかもしれない。


「何のためにだよ」


 ラビが険しい顔をしている。

 無理もない。

 そうなれば、きっとまた世界が大変なことになってしまう。

 そんなのは嫌だ。オレは平和が好きなんだ。


「さぁ、なにか目的があるんだろうさ」


 それが何なのかは分からないけど、こんなに長い間視線を向けているからには、何かあるのだろう。


「とはいえこっちだって静観しているつもりはないよ」

「神に報告は?」

「したよ」


 管理人の仕事だ。

 世界に何か異変があったときに即座に連絡し、対処、場合によっては排除する役目を負っている。

 今回も仕事の一貫だとすぐに連絡したけれど、返事は芳しくなかった。


「…だけど、管轄外からの干渉だと対処が遅れるとか言っていた。はじめて知ったよ、神に管轄があるなんて思ってもみなかった」

「……なんつーか、神も神で大変なんだな」

「そうだな。けど、やれることはやるよ。その前にラクーだけどな」


「んん…」と小さく声を漏らしてラクーが寝返りをうった。


「だな。まずは何処で降りるんだ?近くだったらノーブルだけど」

『ノーブルって最近すごいもの作ってるよね。ネコそれ見たい!』

「…女の子が喜ぶかな?」


 作っているのは飛行機だ。

 といったってプロペラ機だからオレにとっては古い飛行機なのだが、ネコが目を輝かせて懇願してくる。


「一応見せてみようぜ。もしかしたら喜ぶかも分からん」

「そうだな。じゃあ明日はノーブル観光だ」



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