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古主の帰還 6


 お昼も近くなり、食堂車へと向かうことになった。

 別に個室で食べても良いんだけど、折角あるのだからという感じだ。


「ここにしよう」


 12時前だからか席が結構空いている。


「窓際に座りたい」

「いいぞ」


 ラクーがそう言うので窓際の席に座らせてあげた。本当にラクーは窓際が好きみたいだ。


「おい」とラビが声を掛けてきた。


「ん?」

「ネコがテレンシオになってるが良いのか?」


 そう言ってラビのとなりに座った人型のネコを示した。

 使い魔の印を取り、キチンと違和感のない服装になっている。

 鋼色の髪に金色の瞳の青年だ。長い髪を尻尾のように1つ結びをしているが、違和感はまるで無い。


「いーの、いーの、ネコのままだと食べれるものに制限が掛かるし」

『ちゃんとネコ…、んんっ!ボクの分の切符は買ってるんだよ?ほら』


挿絵(By みてみん)


 ネコがポケットから『テレンシオ・ログ・ハルフ』と名前の書かれた切符を取り出す


「一応オレのもこんなになっている。テレンシオはオレの“弟”だから」


 そう言ってライハも『ライハ・ログ・ハルフ』と記載された切符を見せた。


「ハルフ(半分)ねぇ…。……。もしかしてラクーもか?」

「まぁ、“妹”だし?」

「……ふーん」

「あれ?」


 何だその顔。拗ねてるの??






 お腹一杯に食べ、ラクーの為のリンゴはお持ち帰りをした。


 部屋に戻るなりネコは人型を解いた。

 途端に広くなる部屋。ネコの人型は今のオレと背丈が同じくらいだから圧迫感があるのだ。

 ラクーはネコを抱えると欠伸をした。


「ふぁああ…」

「眠いのか?」

「うん…」


 今朝は早起きだったから仕方ない。


「少し寝るか?」

「ううん。もう少しお外みてたい」

「分かった。でも眠かったら我慢しないで良いからな」

「うん…」


 そう言ってラクーは窓際の席へと戻っていく。


 オレも席に戻れば、機嫌を直したラビが、今後の予定を教えろと言ってきた。


 今のところの予定では、ルキオからメークストレイスまで来たので、折角だからリオンスシャーレ経由で山脈を回り込んでウォルタリカへ行き、そこからローデアへと向かうことにしている、と説明した。

 幸いにもこの汽車はリューセ山脈を回るように線路が敷かれている。実に楽な旅だ。


「まさかずっと乗りっぱなしってことはないよな?降りたりするんだろ?」

「もちろん。良さげなところに降りてちゃんと観光するさ。でも最近遊べてないから、そこのところお願いできる?」


 実はその為にラビを誘ったというのもある。

 ラビは今でも世界中を旅しているからオレよりも色々知ってるだろう。


「仕方ないな。言うこと聞けよ」

「オーケー」


 フワリと汽車が浮き上がっていく。

 正確には線路ごと浮き上がる構造をしているので、その上を汽車が通過するから空飛ぶ汽車のようになってた。

 何故そのような構造をしているのか。

 それは今汽車が通過している場所が原因だった。


 今通過しているのはトーワミ平野だ。


 窓から平野を見下ろすと、見事な花畑が広がっていた。

 咲き誇っている青い小さな花達が風で揺れると、まるで水の湖のようにも見える。

 そんな平野を、オレとネコ、そして、ラビが無言で見下ろしていた。


 ここトーワミ平野は別名鎮魂の地と呼ばれる。


 何処までも美しいこの地だが、オレにとっては後悔の地だった。


 この地を見れば、今でも鮮明に思い出す記憶がある。

 脳裏に浮かぶ光景が今の景色に重なった。


 白い光に飲まれて消えた戦友達。

 赤い炎越しに飛び散った仲間達。

 そして──


 ラビを横目で見る。


 こいつが死んだ地。


「ライハ」

「んー?」

「お前変なこと考えてんだろ。俺は今ここにいるんだから余計なこと考えるな。殴るぞ」

「ごめんごめん」


 そう言う訳じゃなかったんだけど。

 謝りつつも、つい思ってしまう。

 みんなをちゃんと帰したかったという後悔はいつ迄経っても消えない。


「あ!」とラクーが小さく声をあげて手を窓の外に振った。


「ん?ナニか居たか?」


 ラクーが頷く。


「あのね、たくさんの人がこっち見て手を振ってくれてるの。ほら、ツノの生えた人もいるよ」

「!」


 思わず乗り出すようにして窓から下を見た。たけど、見えたのは美しい花畑のみ。


「みてみて!あそことか、黒いヨロイの人達がいる!みんな手をふってくれてるよ!」

「……、そうか。それは良かったよ」



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