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古主の帰還 5

 ラビに盛大にため息をつかれる。

 だがオレは知ってる。これはオレの無茶振りを仕方なくも飲んでくれる動作だ。

 組んでいた足を解き、ラビは完全にリラックスモードになった。

 オレは個人的にこれをラビの“もうなるようになれモード”と呼んでいる。


「まぁいいか。お前のそう言うところに突っ込むのも疲れたし」

「ご理解いただけて何より」

「んじゃま、遅くなったけどご挨拶をさせてもらいますか」


 ラビが座り直し、ラクーに微笑み掛ける。


「改めて、こんにちは、はじめまして。俺はラヴィーノと申します。ラビと呼んで下さい」


 ラクーはラビの変わりように目をぱちくりさせていたが、ラクーはオレを伺うように見上げたので、頷いてやると、それを見てから座り直した。

 すると少女らしさが消える。


「ラクー・ズーショアともうします。その、短いあいだではございますが、よろしくおねがいいたします」


 深く頭を下げるラクーにラビは驚いていた。

 そんなラビの姿に思わず笑ってしまった。


「想像と違った、そんな感じか?」

「ああ…、なんつーか、変な気分だ」


 頭をあげるラクー。見た目的には大人しげな、しかし子供らしいイメージだったんだろう。それなのに姿勢を正した後のラクーから感じるものは、子供らしくない圧だ。 それは今までいた環境が影響していたせいだった。

 甦ってからずっと王宮で暮らしていたんだ。

 控え目になるのは仕方ないとしても、この圧は確実にルキオ王の影響が大きい。初めの頃なんかもっと凄かったのだ。といっても、この5日でだいぶ子供らしさが出せるようになってきたけど。


「この子はラクーではあるけれど、同時に見た目と同じ年齢の少女でもあるんだ。確か、今年で7つだったか?」

「うん!」


 ラクーが元気に返事をする。


「ラビの話し方はどうだ?」

「んー、ふつうが良い」


 ラクーの言う普通とは、固くない話し方だ。

 初めはラクーも固い話し方だったけど、周りの言葉を聞いて自分の話し方と違うと気が付いたらしい。


「だそうだ。ルキオ王からは、母ではあるが娘でもある。怪しまれないよう自然な感じで振る舞ってくれと許可をいただいたから敬語は無しでも良い」

「そうなのか。じゃあラクー、よろしくな」

「よろしくおねがいします!」


 そっちは丁寧語のままかよとラビは笑う。


「んで、こっからどうするんだ?そもそも俺は世界の果てなんて何処にあるか知らないんだけど。ラクーは知ってるのか?」


 ラクーは頷いた。


「しってる!北のはてが世界のはて!」

「そうなのか?」


 ラビがこちらに確認をとる。


「当たってはいる。本当はいくつかあるんだけどな、今回はそこを指名された」

「ということは、最終目的地ってまさかローデアか?」

「ご名答」


 ローデア。

 この世界における純粋な巨人族の国。

 遥かな昔から北にあり、今なお北に君臨している種族だ。

 普段は国を閉じているのだけれど、今回はルキオ王たっての頼みということで特別に開けてくれるのだという。


「巨人族とは面識はあるのか?」

「ある」

『あるよ!』


 あのね!あのね!とネコが意気揚々とラビに説明を始めた。

 巨人族とは赤竜族を通じて面識がある。

 聖戦での恩もあるし、なんなら貿易相手でもある。

 あちらが氷雹石と魔宝石、こちらが魔獣の肉と陶芸品、そしてルキオとアトスラルから輸出されてきた海鮮物での取引をしている。

 5年ほど前にとある相談で出向いた事もあった。

 文化がだいぶ違うが、良い方々だ。


『てな感じで、ネコの持ってきた獲物を全部食べてくれたんだ!』

「この国で超大型草食爬竜種ネグストロンガを大量に育てている意味が分かったわ。食べてるのお前達だけじゃなかったんだな」

「美味いよ?」

「人には固すぎるんだよ、肉が」


 長い年月を経ても、何故かこういう食文化だけが相容れないのは仕方ないのだろうか。

 顎筋の問題か。

 まぁ、別にローデア以外にも輸出している所はあるし。


「お肉固かったっけ?」

「固いみたいだね」


 幸いにもラクーにはちょうど良かったみたいで安心した。

 そもそも人ではないからか。

 本来のラクー。ラ・クーは巨人だ。ローデアの巨人に匹敵する程の体躯を持つ。

 白銀の獣毛に、人のような器用な手を持つ、耳は大きめで、体に比べて大きな尻尾を持った姿をしている。

 知っているのはここまで。

 そんなラクーが何故人の子供の姿になったのかは分からない。


 だけど、ルキオ王は1つの仮説を立てた。


 ラクーは、周囲のものに溶け込むために姿を真似る性質がある。


 だから、甦ったラクーは、まず初めに一番自分と近い存在であるルキオ王。ティンカン・クーシュアの姿を真似た。

 初めてラクーを見た時は驚いた。

 あまりにもルキオ王と瓜二つだったから。


 背丈も、髪色も、瞳の色も全く同じ。

 双子だと言われても信じてしまうほど。


 だけど…。


 オレは再び窓の外の景色を眺めるラクーを見やる。


 オリジナルと交代して、ルキオからメークストレイスへとやってくるこの5日で目の色はオレに似た色へと変化した。

 だから恐らくルキオ王の仮説は当たっているのかもしれない。

 ここに色彩が全く異なるラビと行動を共にすることでどうなるのかは分からないが、恐らくまた変化するだろう。

 望むならば良い方向へと変化して貰いたいところだけど、こればかりは願ったってどうすることもできない。


 恐らくローデアを最終目的地にしたのもその性質を利用するためだろう。


 ルキオ王は無理に記憶を呼び戻す必要はないと言っていた。

 きっと、その時が来れば自ずと戻るはずだと。


 結局オレにできるのはラクーの最後の旅を楽しい思い出にすることだけだ。


「……精々、頑張るとしますか」



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