古主の帰還 2
「さて、良く来てくれた。メークストレイス王」
「お招き頂き感謝致します。ルキオ王」
赤黒金を基調とした城内部、応接室にて二人の王が向かい合って座っていた。
一人はオレ、メークストレイス王こと、ライハだ。
そうしてもう一人はルキオ王。
オレの目の前に座る1人の少女だ。
真っ黒な少女だった。
艶のある長い黒髪を纏めあげ、黒真珠の瞳を持っている。見た目は10の歳にも届いてないが、その年齢はほぼ世界と同じだ。
名前はティンカン・クーシュア。
ルキオの唯一無二の王。
彼女こそ、世界の始まりに現れた母なる巨人。ラ・クーの13番目の黒い子供だ。
だけどもそれを知っているのはごくわずか。オレと、この国の上層部と、アウソ含めたアケーシャの一部のみだ。
机にはクルザァター(黒い砂糖)をふんだんに使った蒸し菓子と香り高いお茶が用意されている。そのクルザァターの蒸菓子を一つ手に取って食べた。
優しい甘さだ。心からホッとする味。
ルキオ王も近くの皿から菓子を取って食べた。食べている姿だけなら、誰もこの少女を王だと思わないだろう。
お茶で口を清め、気分を入れ換えた。
ルキオ王からの直々の依頼だ。まさか一緒にお茶会をするためではないだろう。
「それで、依頼と言うのは…?」
うむ、とクーシュアが花茶を置いて姿勢を正す。
雰囲気が王のそれになる。
張り詰める空気が、これから依頼される内容がいかに大変なのかを物語っているようだった。
「そちも知っているように、我が国、ルキオは長年とある計画を遂行してきた」
小さな唇が言葉を紡ぐ。
「長い、長い計画。何度も潰えそうになったが、それでも達成できたのは我が国民達のお陰だ。感謝しかない」
クーシュアが遠い目をする。
その計画はオレがこの世界に来た1000年よりも、もっとずっと、それこそ初代勇者の時代より以前から遂行されてきたものだった。
「つい先日、その計画が実った。ようやくだ。我が夢だった」
クーシュアの顔が綻ぶ。
恐らくソレこそが依頼だろう。
「して、その計画とは」
促すと、クーシュアは外見に合った子供らしい笑顔を見せた。
「我が母、ラ・クーが遂に甦った」
空から墜ちた我等が始祖にして母、ラ・クー。
創世記に出てくるこの世界の原初の神、管理人になってからは実際に存在したという記録は知っていたが、まさか復活するなんて思わなかった。
「といってもだ、記憶はなく、器もだいぶ縮んだ。端から見れば別物に見えるだろうが、魂は母のもの。つまり本物である」
なるほど。納得した。
ルキオで修行している時、上空へと上っていった魔力が国の中心点で落下している謎の流れがあった。
そのときはてっきり結界維持のために循環させているのかと思っていたけれど、違ったようだ。
この世界には全てのものに魔力が宿る。
そして、魔法を操るものも多い。
だが、ルキオは極端に数が少なかった。どの時代に置いても常に片手で足りる程度、その他は魔法を使えるほどの量すらもない。
理由は明白。
ルキオの人達の魔力の大半をラ・クーへと注いでいたからだ。
思えばアウソも魔力がなくて魔法が使えるのを羨ましがってはいたが、決して悲観はしていなかった。それは他のルキオ人もそうで、むしろ誇らしげにしていた。
きっと、知らされていなくとも、どこかで感じ取っていたんだろう。
「それで、オレが必要な理由とは。そのラ・クー様関連なのですよね?」
「話が早くて助かる。ああ、そうだ」
まっすぐにクーシュアがライハを見つめた。
「我が母、ラ・クーを空へと返してほしい」