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魔王城事件簿④

「へぇー!世界中旅してたなんて凄いな!じゃあ即戦力で採用なんだな!スッゲーなお前!」


 バシバシとアレックスの毛皮でモコモコの背中を容赦なく叩くデマーシェ。今は次の層へと向かう為に近道をしている。

 もともと人懐っこくフレンドリーなアレックスは短時間で魔人のデマーシェと仲良くなっていた。

 背中を叩かれているアレックスだが、耳は垂れ、尻尾も元気は無い。褒められているのだが、アレックスは今落ち込んでいた。

 理由は明白である。


「でも最近ミスしちゃってさぁ、この事知られたくない人がいるからコソコソとしてるんだよ」

「ミスなぁ、まー最初は仕方ないだろ。そのうち慣れるって!な?」

「慣れたくはないなぁー」


 互いに話がずれているとこに気が付かずに話続けている二人だが、突っ込み役が不在なので会話は続く。

 何度目かの隠し通路を通って、ようやく次の層への目印が見えた。


「うし、そろそろ砂漠層だ。でも多分お前さんは草原層だろうからそのつぎだな」


 従業員用階層移動魔方陣の上に立ち、デマーシェが魔方陣を起動させると、あっという間に景色が変わった。


「扉?」


 アレックスの目の前には木造の扉。

 大きさは三メートルほどだけど、飾り気は一つもない。


「さっきの扉とは違うんだな」

「さっきのは勇者用の扉だ。監視用の魔方陣や結界魔方陣やらを混ぜ込んで一見じゃバレないようにしてるんだよ。研修で習わなかったか?」

「いんや」

「……あとで研修担当の洗い出して絞り直さないといけないか…?」

「???」


 デマーシェが扉を開くと、熱せられた風が吹き付けてきた。

 一歩踏み出せば灼熱が肌を焦がす。

 一面に広がる砂漠だ。


「あっつぅ…、サーザみたいなんだぞ」

「毛皮族にはキツいだろうが、頑張ろうぜ」


 事前にデマーシェが連絡を入れていたのかさっきみたいな事はない。

 勇者の扉付近に待機する者の姿は確認できたが、こちらを見るものは誰もいない。

 アレックスとデマーシェはさっさと次の層へと向かう為に急いでいると、背後から爆発音が聞こえてきた。


「!!?」

「来た!!侵入者だ!急げ新入り!!」


 凄まじい砂の爆発がいくつも上がっている。


「ああくそ!砂漠用のカンジキを持ってくるんだった!!」


 走りにくいながらも急いで走る

 デマーシェが悪態を吐きながらアレックスを引っ張っているが、当のアレックスはというと後ろを見ながら侵入者の観察をしていた。


 毛のせいで暑くて暑くて死にそうだけど、文句はいっていられない。


「うおっと」


 デマーシェが焦った声を出す。

 なんだと見ると、前方に昆虫のような誰かがこっちはダメだと頭の上でバツを作っていた。

 そのすぐ後に違う方向から声が掛けられる。


「こっちだ!こっちこい!その先には蟻地獄あるぞ!!」


 蜥蜴のような魔人が手招きしている。

 それを見て方向転換したのだが、足が砂に取られてモダモダとしているうちに破壊音が近付いてきた。


 思った以上に移動速度が早い。

 もしかして“ソエル・ラブリング”という雪や砂を普通の地面みたいに歩ける様にする魔法が使える魔術師がいるのかもしれない。


 ドンドンドカンと爆発が発生し、魔人が空を飛んでは途中で消える。

 ん?なんで消えてるんだ?


「ちぃっ!奴ら神具持ちか!!」


 忌々しそうに吐き捨てるデマーシェの言葉を聞いてアレックスは、神具ならば俺の出番と前に出ようとすると、デマーシェに後ろに引っ張り戻された。


「新入りはまだ負傷した時に退避が発動する装備貰ってないだろ!ここは俺達がやるから新入りはどっかに隠れておけ!」


 いや俺も戦えるんだけど、とアレックスが言おうとした瞬間、あちらこちらからワラワラと砂漠層配属の人達も出てきた。


 みんな棒の先に刺の付いた半球の不思議な武器を持っている。


 そのうちのリーダーらしきデカイ蜥蜴(恐らくサンドドラゴンの古種)が武器を掲げた。


「密林層から報告来た。神具は爆発属性のハンマーだ!しかも反射してくるから厄介だということだ!注意してかかれ!」

「「「おう!!!」」」


 一斉に駆け出していく砂漠の魔人達。

 数秒後、凄まじい速度で迫ってきていた侵入者と衝突した。


「うおっ!?」


 ドカンと一層大きい爆発が発生した。

 と、同時に結界が割れる音なんかも聞こえてきて、そのおおよその戦闘音でどれくらいの威力の神具なのかを推測した。

 コボルト化したアレックスはいつもよりもはるかに高い精度で音を拾い分け、嗅覚からは侵入者の性別や装填された魔力の量まで掻き分けた。


(男が二人に女が一人。魔術師と壁役と神具使いか)


 神具からは火薬の匂いはしない。

 ならこれはきっと空気圧縮型のものだ。


 空気圧縮型は遠距離で来られるのが一番厄介なやつだ。中のプロペラで振り回している間の空気の量に応じて威力があがる。

 こういう武器にはノルベルトやシェルムのような接近戦タイプか、ビギンのような武器を使う暇が無いほどの素早さで対処するのが一番。


(だけど、ここの人達は押さえ付けるのメインで、しかも俺がみる限り不利だ)


 アレックスの予想通り、魔人達は侵入者に押されていた。

 魔術師が支援しているせいもあるし、何よりあの乗り物のせいで振り回されている。


 侵入者は謎の空飛ぶ板に乗って魔人達を翻弄していた。

 機動力が桁違い過ぎる。


「おい新人身を起こすなって!」


 アレックスはジャスティスを取り出した。


「ジャスティス、このままだと俺の友人に危害を加えられる。それをスルーするのは正義じゃないよな…」


 立ち上がり、アレックスは久しぶりに戦闘体制に入った。

 未だに愛用している韋駄天を起動し、狙いを定める。


「大丈夫だ。ジャスティス、俺は人を狙いはしない!ちょっと丸腰になってもらうだけだぞ!」


 韋駄天発動。

 一瞬でアレックスの姿が掻き消えた。


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