魔王城事件簿③
一方その頃。
アレックスが彷徨いていた地下道を三人の人間がコソコソと歩いていた。
一人はお高そうな装備で身を固め、一人はハンター風の装備、最後の一人は何処かの教会に勤めていそうな杖を持ったウィザードのような装備である。
お高そうな装備の人が壁を触りながら言った。
「くっそう、なんて堅牢な城なんだ…、魔王城の癖に…」
それにウィザードらしき女が頷き肯定する。
「ですわよねぇ。みんな浮かれているハロウィンくらい城を開放しても良いと思いますのに」
そこへハンター風の男が割って入る。
「だがよう、だからといって地下から入るって発想は無かったぞ。さーすが神具に選ばれた勇者だ!」
「はっははは!そうだろう、そうだろう!俺様は魔王に堕ちた勇者と違い、正当な方法で教会で祝福を受けて、この──」
勇者(笑)と呼ばれた男が手に持つ神具を見詰めた。
長いハンマーに見えるが、その先端は変わった形をしていた。
「聖なる鉄槌の適合者だからな!」
「あはーん!流石はわたくしのイアン!惚れ治しちゃいますぅー!!」
「デキる男はやっぱり違うぜぇ!!ガハハハハ!!」
「へへへ!褒めたって何にもでねぇーぞー!」
イアンという名の勇者(笑)が気をよくしたのか、景気よく武器を掲げて見せた。そう、この三人は真・勇者信教者の所属の(自称)勇者御一行である。教義は『打倒!!偽物勇者を語る魔王をブッ殺せ!!』という、なかなかアレな団体であった。
さてその三人が意気揚々と地下道を進んでいると、突然崩れた壁に行き着いた。
「おや?おやおやおや??」
「どうした?イザベラ」
ウィザードの女、イザベラが欠片を手に取り「まぁ!」と嬉しそうな顔をした。
「誰かが魔王城の悪しき結界を破壊してくれたようですわ!」
「なんだと!?」
イアンが穴を覗き込むと、穴の先には僅かに光が見えた。
「ふっ…。待ってろよ魔王め、この俺様が討伐してくれるっ!」
という感じで、勇者(笑)御一行ががアレックスの開けた穴を見つけて侵入していたその頃──
「うーん、なんか前来たときと違う気がするんだぞ…」
アレックスは迷子になっていた。
とはいえ、前回来たのは正門からなので、地下から上がってきたから違和感があるのかと思いつつ、しばらく廊下を以前招待された時の記憶だよりに進んでいると明らかに見たことのない通路がちらほら。
まっすぐ行けたはずの廊下は途中で壁になっていて、右側に見知らぬ廊下が続いている。
「……こんなんだったっけ?」
頭を傾げながらも、そういえば記憶がおぼろげだった事を思いだし、もしかしたら曲がったかもしれないとアレックスは素直に曲がった。
その後ろ、この魔王城で働く魔族の一人が壁から上半身を出して心配そうにアレックスを見ている。
「あいつ、なんで曲がった?」
「もしかして捕獲班の新入りじゃない?道に迷ったのかも」
「かといって俺らここから動けないしな」
「いそげー…!新入りー…っ!」
コボルト姿のアレックスは新入りと間違えられていた。
第一層
密林。
「よし、総員用意…」
密林層の各戦闘員の配置が完了し、あとは侵入者が入ってき次第捕獲するのみと、武器を構え待っていると、遂に扉が開いた。
「総員掛か──」
一斉に飛び掛かろうとしたその瞬間。
「あれ…?やっぱり道間違えた…?」
コボルト(アレックス)登場。
「──まてまてまてィ!!」
「停止停止!!」
まさかの同族に慌てて攻撃を中断した。
錯乱目的の魔法の気配はない、とするのなら間違えなくアレは同族。
「え、誰?」
「うちの所属じゃないよな」
「道間違えたとか言ってなかったか?」
「迷子?」
「俺ちょっと行ってくる」
魔族の一人が隠れていた繁みから顔を出すと、アレックスが嬉しそうな顔をした。しかも尻尾が全力振りをしていた。魔族は知ってる。尻尾は嘘つかない。
ああ、これは間違えなく迷子だと確信した。
時々あるのだ。新入りの迷子が。
仕方ないなと、武器を下げ、嬉しそうなアレックスに話し掛けた。
「どうした?迷子?」
「そうなんだよー、もうここが何処なのかも分からなくて…」
言いながらだんだんと耳が横に倒れ、尻尾も元気がなくなっていった。尻尾は嘘つかない。
なるほど本気で困っているようだった。
見たことの無い顔。他所属の新入りだろう。 しかも勇者用の通路の研修もまだなほどの。
しょうがないなぁー、と頭を掻いた魔族は遠くから様子見をしていた班長を見る。
「まだ時間大丈夫だろうし…、俺ちょっとこいつ送ってきます!」
こくりと頷き、再び繁みに戻っていく班長。
アレックスは目の前の魔族を見ながら思った。
この人と友達になりたい!※この人優しい
「ありがとう!!いつか絶対恩を返すよ!!」
「よしよし、とりあえず配属先に行こうか」
こっちだと手招きする魔族の後をアレックスは、配属先ってなんなのかわからないけど、案内してくれる事になってとてもラッキー、と思いながら着いていくのだった。
その頃のライハ。
「……なんで勇者用通路にアレックスいるんだ?」
城のなかにアレックスがいるのにライハは感付いていた。しかも何故か一般用通路ではなく、勇者用通路を移動しているのにライハは思わず首をかしげた。
「何か連絡貰ってたっけ?」
ネコの問いに首を横に振る。
連絡どころか事前に手紙ももらってない。もし迷子になっているのなら迎えに行かないとと、ライハは立ち上がる。そして扉に手を掛けた瞬間、ハッとした。
「は?なんで部屋ごと封印されてるの???」
「え!??」
押しても引いてもスライドしてもびくともしない。
慌ててネコが窓の確認をしに行く。
「ライハ!!窓もやられてる!!!」
「ええー……」
これ、リゼの結界じゃん。なんで??今回なにもしてないじゃん。
「リーゼー??オレお友達迎えに行きたいんだけどぉー??」
恐らく扉の前にいるであろうリゼっぽい気配に向かって呼び掛けた。
するとリゼが音波魔法(リゼ得意の魔法)で返答。
「『今回はお任せください!この城に入ったからには全力でおもてなし致します(※訳、後悔させてやります)』」
とのこと。
アレックスをおもてなししてくれるらしいけど、多分アレックスの目的はオレなはず。それになんでか含みがあった気もするし。
どうしよう、一応この結界破こうと思ったら破けなくはないけど…。
とりあえず一旦開けて、と言おうとしたところで通信が入った。
両開きの鏡が光り、すぐさまとある人物が写し出される。
ニックだった。
しかもなんでかニヤニヤしている。
「ようライハ!ちょーっといいか?」