ようこそ人魚の国へ!③
前方を凄い速度でアウソが泳いでいく。
オレも身体能力向上やら水魔法の水中での抵抗を減らすセイムスキンを発動しているけど、久しぶりに息切れを起こすくらいにはしんどい。
そんな中アウソは焦っているのか、後ろのオレを気にすること無くガンガン泳いでいく。
珊瑚の森を抜け、巨大なテーブル珊瑚の群生からなる崖から下降すると一面の白い砂漠が現れた。
「!」
前方に嫌な気配を感じる。
殺意とかはないけど、危険信号的な気配が地平線の先からこちらへ向けて放たれていた。
突然白い砂漠が途絶え、続いて現れたのは黒い岩場。
その岩場にはどれも細かい溝がびっしりとあり、その溝が防音効果を持っているようで海の中なのにその岩場に入った瞬間に無音になった。
これ、離れると会話とかも聞こえにくくなるんじゃないか?
「この辺か…」
アウソが速度を落としたのでこちらも速度を落とす。
すると後方から槍を持った女性人魚達がやってきた。男が俺達しかいなくてなんだか変な感じ。
ウウンと水の唸る音と共に巨大な影が差す。
見上げると鯨並みの大きさはある人魚か一人水面近くで停止した。
カチチチチチチと不思議な音が鳴り響く。
次いで巨大な人魚が前方を指差して「 来た 」と言う。
目を向けると巨大なフナムシや鎧みたいな甲羅の付いた魚の群れがこちらに向かって突進してきていた。
あれが凱獣、人魔大戦時に魔界から連れてこられた海の魔物が野生化したものだ。
最後の命令の名残が残っているのか、人に近い形の人魚を襲いにこうして定期的に現れる。
「俺とライハか足止めしている間に探し出すんさ!!」
凱獣の元へと泳ぎ出すアウソを追う。
そうはいったところでどうすればいいだろう。
斎主は置いてきてしまっているし、魔法を使うにもここで雷を使えば大変なことになるのは想像がつく。
到達するまでウンウン唸りながら考えを巡らせ、ならばこれしかないと魔力を練り上げた。
「さあッ!!!」
アウソがガエアイフェの形状に変化させた三叉槍を振るうと、海が激しく泡立ち、次の瞬間周りにいくつもの海流が生まれていた。その海流の中に光の反射で辛うじて見える水の蛇が形成されると、一斉に凱獣へと突進していった。
ズズンと凱獣達の所から盛大な砂ぼこりが舞う。
「すっげ」
だいぶ吹っ飛ばしたんじゃない?
「ちっ、やっぱりクリッキングが使えないと大した効果はないか」
「あれ、ほんとだ。結構ピンピンしてる」
衝撃で混乱している個体はいるけれど、水中だからかダメージ受け流しの方が多く大型のは全然効いてなかった。
「んじゃ、次はオレの番!!」
練り上げていた魔力を使って前方に氷柱を生成。
「おらああああああ!!!!!」
拳に跳ね返しの盾と腕全体に纏衣を発動すると全力でその氷柱を殴り付けた。
氷柱は魚雷の様に水中をものすごい早さで駆け抜け、前方にいた凱獣の胴体を貫いた。そして、氷柱は凱獣を一瞬で凍らせ、その周囲の凱獣も巻き込んで氷の壁に閉じ込めた。
「っしゃあ!!上手くいったぜ!」
「なるほど、そう来たか。ていうか、だんだん戦い方がカリアさんに似てきたさ」
「え、マジ?それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
あの豪快な戦闘スタイルは憧れてたからちょっと嬉しい。
「じゃあ遠距離攻撃任せていいか?俺は直接クッキング叩き込んでくるから」
そう言いながら三叉槍を霧散させ、掌を拳でバシバシ殴ってる。
君も結構戦い方が変わってきたよね。
「いいけど、避けてよ?」
油断すると氷漬けになっちゃう。
アウソはフフンと鼻で笑った。
「忘れたば?俺は今人魚の王様だぞ?」
そう言うやアウソの周りに気泡が発生したかと思うと、あっという間に姿を消した。
瞬間移動かと見違う程の速度でアウソは凱獣の元へと泳いだ。これが聞いていた速水という能力か。
あまりにも早すぎてアウソの通った痕には真空の気泡が弾けながら消えた。
その先で、アウソの拳が叩き込まれた凱獣が気絶して水面へと上っていっていた。
あの打ち方、カリアさんに教えてもらった鎧通しの打ち方。
しかもアウソはそれだけではなく、尾ヒレでの殴打も加えている。
人魚のヒレでの殴打って、甲羅砕くんだな。こわっ!
「って言っている場合じゃなかった!」
ジリジリと前方で壊滅した凱獣を押し退けて無事な凱獣が突進してくる。それを氷柱で突き刺し閉じ込め、アウソは人魚の能力を駆使して次々に凱獣を屠っていく。
凱獣達も全滅寸前で勢いを失い始めた頃、ふと、凱獣の群れの近くに小さな気配を見つけた。
もしかして!
「あっ!」
その気配に凱獣が感付いたのか口を大きく開いて突進していく。ヤバイ!!
尾ビレが千切れるんじゃないかと思うほど全力で泳ぐ。粒子の目で確認すればやはり探している対象らしき子供の人魚が。
「ーーーーーーーっっ!!!!」
ガリガリと体を岩にぶつけるのもお構いなしにその子のいる岩の隙間にすんででたどり着き、動けなくなっている子供を抱き抱えて確保。そして眼前に迫った凱獣の牙に降れると、一気に凍結させた。
「ふぅーーーーっ、間に合ったぁぁ…」
よいしょよいしょと隙間から何とか這い出すと、凱獣の群れが引き返していっていた。
さすがにこれ以上は無理だと判断したのだろう、助かった。
「お、お兄ちゃん血が出てる」
「ん?」
子供の人魚が指差した所を見ると、肩と尾びれが軽く裂けて血が出ていた。ああここか、ぶつけたのは。
「大丈夫だよ、こんなのすぐに治るから。ほら」
既に血が止まった肩を指差して体の震えがある腕の中に笑い掛けてやると、その子はハッとしたように肩を見て驚いていた。
「それより怪我はない?」
『……………………………だいじょうぶです…』
そして何故か頬が赤くなっていた。
ん?あれ?熱でも出始めた??
人魚でも発熱するのか分からないから早くアウソに知らせないと、と顔をあげると目の前にアウソ。
「この天然人魚タラシめ」
「え」




