アウソとキリコ⑫
「え…、それで助かったのか…?」
「いや助かってなかったら俺いまここにいないだろ」
「ああそうか」
あんまりにも凄い話だったからつい。
「あの後、俺の指笛でこっちに気づいてくれた捜索隊と、あとは近海警備に当たってくれていた人魚さんに救い出されたんさ。といってもかなり傷が深くて、大慌てで近くの町、そして王都の病院に運び込まれたんだけどな」
いやぁー、全然意識が戻らなくてどうしようかと心配されたよと言いながら笑ってた。笑い事ではないと思うんだけど。
もちろん密両者はカリアさんとアウソの村の大人達にボコボコにされて連行された。
「特に意外だったのがキリコさんでさ。俺の意識が戻るまでずっと近くにいたらしいんさ。なんでも俺がこうなったのは自分の責任だーとか言ってて」
「へぇー。でも確かにキリコさんって、わりと誰かが重傷になると顔変わるよね」
気のせいじゃなかったんだ。
「たぶん俺のせいかも。でもそれはお互い様ってやつだばーて、なんたって俺も散々トラウマ植え付けられたからな。まずはあのオバケ事件だろー。謝ってくれたのはいいけど未だにあのときの恐怖で体が過剰反応するし…つかあの手どうやったんさ…、あと笑いながら攻撃しかけてくる時のだろー。ああ、あの後性別男だと思ってたのに女だったときは心底ビックリした」
「そうなんだ。オレが会ったときは完全に…」
女性的な感じだったけどな。
挙動や言動や戦闘能力は無視してね。
「そっからなんやかんやあって、今みたいにカリアさんに弟子入りして世界回っているってわけさ」
「思ってた以上に壮絶なお話をありがとうございました。で、もしかして腕の跡とかも残ってるの?」
「そりゃもちろん。うり」
いつも腕につけている黒い布をずらすとうっすらそれらしき傷が。
最初見たとき犬かなんかに噛まれた傷かと思ってた。
「といっても俺の過去なんさこんなもんで、特におもしろみなかったろ?ただの俺の不注意で負っただけだし」
「いやいやそれ言ったらオレのなんてもっとクソじゃん」
「そーか?お前のがよっぽどワケわかんないけど面白い話したくさんあるじゃん。好きだぞ日本の話し。俺もいつかヒコーキとかジンコウエーセーとか乗ってみたいさ」
流石にオレも人工衛星は乗れない。
「面白い話ならたぶんカリアさんとかキリコさんの方がたくさん知っているんじゃね?」
「あの二人は…エグそうな話が多そうだからいいよ」
「確かに」
面白い話しもどんなレベルの面白い話なのかもわからないからちょっと怖いし。こういう場合は言わぬが仏ならぬ、聞かぬが仏だ。
『ねぇねぇ、ネコはキリコに手の細工聞きたい』
「あれ?起きてたの?」
『途中からね』
フードのなかでスヤスヤしていたネコが起きて大きく伸びをした。
「完成度高かったんだろ?おいでおいでしてたってことは動いてた?」
「そーそー。しかも退院した後も定期的に暗がりに設置しているもんだから、しに怖くて。今でも暗がり見ると幻影が見えるほど目に焼き付いてるんさ」
「結構なトラウマじゃないか」
それならアウソのオバケ嫌いは仕方ない。
オレだってそんなことやられたら同じように怯えるしトラウマになるだろう。
「もういっそのことキリコさんに仕組み聞いちゃえば少しは怖さ軽減されるんじゃない?」
「なるほど!仕組みが分かれば少しは冷静になれるもんな!」
そうと決まれば実行あるのみと、キリコさん達が帰って来るなり質問してみた。
「え?手?なにそれ」
しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
「あ、あれ?もしかしてキリコさんが仕込んだ悪戯じゃ…ない……??」
「そんなの知らないわよ?」
アウソの顔色がみるみる白くなっていく。
「おおおお!?気をしっかり!!」
「もうだめだ。更に悪化した…」
「アウソーー!!気絶するなぁーーー!!!」
結局アウソのオバケ嫌いは治らず、むしろ悪化したのだった。まる。