アウソとキリコ⑪
ブチブチと音を立てて、赤髪を拘束した縄が千切れて弾け飛んだ。
あまりにも驚きすぎて痛みが飛んだ。
え?なにそれ縄ってそんなに簡単に千切れるものだっけ?
「てめーら!!薬射ち忘うぼっっ!!?」
「押さえろ押さえろ!!」
「だめだ!?早すぐぎゅっ!?」
一瞬の内にボス含め三人が蹴り飛ばされた。
なんだあの動き、俺とやるときよりも更に早い。
地面に転がってたナイフを拾い上げ、赤髪が俺を拘束してる縄を切断した。
「よし!逃げるぞ!」
赤髪の背後でさっき姿が見えなかった男が剣を振り上げていた。
「!!!? 危ない!!!!」
咄嗟に赤髪を横に突飛ばした。
「ぐっ!!?」
背中に走る痛みと熱。
「このやろうっ!!」
「がっ!!」
赤髪の蹴りが炸顎に裂し、男が地面にひっくり返った。
一回転したぞ…。
「ばか!!なんで庇ったんだ!!」
「いつつ…いいから逃げるぞ!」
立て続けに激痛が襲っているからか、あまり痛くない。
船にまでいけば何とか操縦できる。
「逃がすか!!」
ドォン!!と爆発音がしたかと思ったら、進行方向にの地面に何かがぶつかって火花を散らせた。
当たった地面が抉れてる。
「!?」
「銃だ!!こっち!!」
「うおっ」
腕を捕まれ方向転換。ダンダンと連続で音が鳴り、煙の匂いが充満する。
「何なんさあれは!?」
「銃って奴だ!当たるなよ!当たりどころによっては即死するぞ!!」
洞窟置くにある穴の中に入っていく。チュインと音を立ててすぐそばの壁が抉れた。
「はぁっ!はぁっ!うう……っ」
やばい。体の力が抜けてきた。心なしか目の前が霞む。
ゴツゴツとした石をもつれる足で必死に上へと登っていく。
「がんばれ!まだ寝るな!」
珍しい声音で赤髪が声をかけてくる。
「上にいったぞ!!」
「くそっ、こっからじゃ無理だ。外から回るぞ!!」
下から声が聞こえる。
外へはもうすぐ出られるけど、俺の予想では出られても…。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
「……ちっ。ここで立ち回るしかないか…」
出たのは岩の上だ。ただの岩の上ではない。四方を海に囲まれた孤島だ。
村は遠い。ここは俺が到達できる海域の端の方なのだと見当がついた。あの日、違和感のあった岩場だ。
「はぁ、はぁ…。……」
下を見やる。
深い。そして、鳥が飛んでる。
こういう岩場で鳥がいるということは必ず海の中には鮫の巣がある。
飛び込むのは自殺行為。
「はぁー。……すうぅー」
親指と中指で輪を作った右手を口に入れ、思い切り息を吐いた。
ヒューーーーーン!!!と、伸びやかな指笛が響く。
「今そんなことやっている場合か!!」
「ぜぇ……、なぁ、お前俺を信じるか?」
「はぁ?」
「ここから飛べっていって、飛び込めるか?」
赤髪の顔色が変わる。
「っ、むりだ。自分は泳げない…っ」
ほぉ?意外な弱点発見。
「見付けたぞ!!」
「もう逃げられねぇ。覚悟するんだな…!」
顔面血だらけの男達が上がってきた。手には銃と呼ばれたものや剣。
身構えた赤髪の胴体を抱える。
「は!?お前一体なにを!?」
「ふぅー、……残念だったな。ここは俺達の領域。いくら武器をちらつかせたところで無駄さ!」
「なに煽ってんだ」
「んだとお!?殺してやる!!どうせお前なんかいなくたってそこのアシュレイがいれば問題ねーんだよ!!」
口角が上がる。
奴らは忘れてる。ここはルキオで、俺は誇り高きアケーシャだ。
突然男達の背後から突風が吹き荒れ、思わず体勢を崩した。
その隙に赤髪を抱えあげて崖に走った。
「なにすんだやめろ!!」
赤髪と背後から止める声が上がるが、一切合切を無視して空中に身を踊らせた。
「!」
途中、空中で青い色とすれ違ったが、何なのかを認識する前に体が水に叩きつけられ深く沈んだ。
もがく赤髪。俺は冷静に、ここだと指を弾いて合図を送った。
水面に浮かぶいくつもの影。良かった、ちゃんと届いてた。
あれ…?そう言えば体が動かないな。
ごぼりと口から気泡が漏れた時、目の前に大きな尾びれが現れ、影をおとした。