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メークストレイスバレンタインデー取材

バレンタインデーというモノをご存じだろうか?

ここ、メークストレイス発祥のお世話になっている人や親愛の方に感謝と共に甘いものやお花を贈る素晴らしい行事である。


数年前にこの国の王、魔王がドルイプチェの王と共同して開催した大規模な祭りであるが、今回はこの行事を取材していこうと思う。


ああ、申し遅れました。

私、第三次人魔大戦時にいち早く情報を届け回っていた三つ鉤爪新聞社(鳥を使っての新聞を届けることに由来)に勤めておりますショナルと申します。


あえてこう性別が分かりにくい格好をしておりますのはこの方が舐められなくて済むからなんですね。

なんせ女性だと情報を出し渋る方が多くおりますので、わが社はそのような方針なのです。


おっと話が逸れました。


それでですね、実はこのバレンタインデーという取材をするのは初なんです。

なんせだいぶ敵対心が薄れてきたとはいえ、メークストレイスは混ざりものの国ですから、警戒心が芽生えてしまうのです。

しかしこの国の王はなかなか面白い考え方の持ち主でありまして、とにかく国をあげてお祭りをするのです。


そうですね、ざっと数えて8個位ありますでしょうか。


そのどれもが不思議で面白い祭りの仕方をするのです。

これは魔界の風習なのでしょうか?


このような謎がありますと好奇心がくすぐられますよね。


それでもこのバレンタインデーの取材が初なのはとあるアクシデントによって報道陣が危険と判断して逃げてしまったからなのです。


私も噂だけしか聞かなかったのですが、どっかの魔法生物研究者が魔王さまをドッキリに仕掛けようと魔法陣を組み上げてとんでもなく巨大なチョコレートの魔法生物を生み出してしまったからかららしいのです。


高価なチョコレートを勿体ないとは思いますけれども。

まぁ、それもカカオの大量生産が可能になったから解消されましたけれど。


なんでも大事な用事と言って呼び出した魔王の目の前で発動させたところ、本来ドラゴン型になるはずのチョコレート魔法生物がスライム型になっていて、町に凄い勢いで溢れだし、人々はチョコレートの洪水によって押し流され、しかも目の前にいた魔王があっという間に飲み込まれて卵形に固まってしまったんだとか。

(奇跡的に研究者二人のいたところは影響なし)


外から叩いても割れないし、側近のネコさんという方を連れてくるにもチョコレートだらけで伝えに行くにも時間が掛かるし、もう一人の研究者が興味深いと観察を始めてしまって協力してくれず困り果てていたところ、一時間たった頃に自力で中から破壊して出てきたとか。


どうやら中で何かあったらしく服はズタズタのボロボロで全身チョコレート液まみれだったらしいですが。

(その後魔王にこんな危険なもの作るなと怒られたとか)


その後チョコレートでの魔法生物創成禁止令が出ていたのですが、今回そのチョコレート魔法生物が復活すると聞いていてもたってもいられなかったというわけです。


みんなには危ないからと止められましたが。


なんせチョコレートは女の子の憧れ。

例えまた失敗して町にチョコレートが溢れたとしても、その溢れたチョコレートは少しくらい失敬してもバレないと思うのです。


正直中でどんなことがあったのか魔王にインタビューしたいところですが、アポイントメント取れなかったので諦めてチョコレートを待ちつつ住民の方にインタビューしようと思います。


「よし!がんばるぞ!」


と言うことで王都へと突撃。


「うわあー!甘い臭い!」


王都全てがチョコレートとバラの臭い。


「オンディラさん!!これ!受け取ってください!!」

「はい友チョコ」

「向こうにエッグチョコレート売ってたよ、買いにいかない?」

「はい!バラ26本おまちどおさま!」

「クッキーはいりませんかー?ネコさんの肉球型だよー!」


街中は活気に満ちていて、みんな手には入れ物をぶら下げていた。


「クッキーもあるんだ。あ!キャンディも!実際に見てみると恐いものないじゃない!」


雨細工といわれるものを目の前で披露され、あまりの感動にカメラ撮影だけではなく実物がほしくて三つも購入してしまった。


あちらこちらでチョコレートを贈ったり贈られたり、実に楽しそうだ。


魔族ってもっと怖くて殺伐としているイメージが強かったけど、こういうのを見ると自分達と大差がないように見えた。


「あ!黒猫だ」


目の前に黒猫を肩に乗せた男性がチョコの詰め合わせを女の子達から受け取っていた。

こういう光景を見るとほのぼのするなぁ。

男性も微笑ましい笑顔を浮かべているし。

格好を見ると良いところの出なんだろうなと伺える。


身長は180近いくらい、体格は良い筋肉が付いている感じ。

髪色は黒。でも鴉を思わせる光によって紺色が混ざった黒。

顔立ちはどことなくイスティジア地方、それも煌和寄り。

でも瞳は魔族特有の赤。

それもルビーを思わせる深紅。


さっきの様子を見る限りきっとモテるのだろう。


よし、決めた。

あの人に取材させてもらおう。


「あの!すみませーん!」


声を掛けた。


「はい?」

「こんにちは!」


おお。なかなか整った顔をしていらっしゃる。

どこかで見たような気がしたけど、何処だったか?

うーん、思い出せない。


「バレンタインデーの取材をさせていただいているショナルと申します!ここの住人の方ですか?」


ペンダントを見せて新聞社の人間の証明をした。

すると男性は一瞬視線を肩の猫ちゃんに向けた。

かわいい。

猫も飼い主さんと同じ動きした。


「ええ、そうですよ」

「インタビューさせてもらっても良いですか?」

「大丈夫ですよ」


よっしゃ!許可降りた。

早速メモを取り出した。


「名前をお伺いしても?」

「えーと、アマツと言います」

「では、アマツさん。バレンタインデーの印象はどうですか?」


訊ねるとアマツさんは嬉しそうに笑顔を見せた。


「ええ、みんな楽しそうですし、オレも楽しいです」

「トモチョコとかギリチョコとかなんだか色んなチョコがありますが、何か違いなどはあるのでしょうか?」

「うーん、特には無いのですが。わりとそういう名前つけなんかは女の子達がやってますね。基本的には日頃の感謝を込めてのお菓子の贈り物やお花の贈り物です。バラが多いですね?」

「アマツさんも結構貰ってますね。やっぱりモテるのでしょうね」

「ははは。だと良いんですけど」

「?」

「たぶんこれは感謝のチョコですね」

「お仕事関係ですか?」

「そうです」


なるほどなるほどとメモを取る。


「初めのバレンタインデーは大変だったと聞きましたが、それについては?」

「あー……」


アマツさんの目が遠くを見る感じになった。


「あれは、そうですね、大変でしたね。身も心も掃除も大変でしたね…。そのあとも暴走したので、消し飛ばしましたけど」

「?、アマツさんがですか?」


魔族は魔法を使える個体が多いと聞くから訊ねた。


「…魔王がですね。何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも再生してくるので、もう、あまりにもムカついたから全部凍らせて鏡のなかに放り込みました」

「…魔王がですよね?」

「魔王がですね」


もしかしてこの人魔王さんの近くで働いている人なのかしら?

お?ならもしかして魔王に直接取材をお願いできるチャンスでは?


「まぁ、今回は大丈夫らしいんですけど」

「あの!もしかして貴方は魔王さんの側き──「ライハアアア!!!」──!!?」


人混みから角の生えた男性がやって来た。

しかもその人はまっすぐこっちに来る。


ん?ライハ?

あれ?その名前聞いたことある。

たしか魔王の本名。


というかなんでこっちに向かってきてるの??


「あれ!!?」


ふと隣を向くとアマツさんの姿が消えていた。


「え?え?どこに??」


あたふたしていると角の男性が目の前で止まった。


「ちっ、逃げられたか」

「あ、あの、」

「そこの君!隣にいた男を知らないか!?」

「アマツさんですか?」

「そう!ライハ!あのやろう、前向きに検討するとか言っておきながら僕の案を破棄しやがって!!」

「あの!ライハって、あの」

「そうだよ!魔王のだよ」

「………」


突如として魔王の写真が思い出されて先程までいた男の顔と合致した。


「ええええええええ!!!!!」


嘘!嘘!私知らない間に魔王に独占インタビューしてた!!?

うえええええ!!!?

それ知ってたらもっと良い質問してたのに!!!


頭を抱え込んでいると角の男性がビックリした表情でこっちを見ていた。


「どうした?頭いたいか?」

「大丈夫です…。ちょっと、勿体ないことしてしまって…」

「…よくわかんないけどこれでも食べとけ。元気出るぞ」


男性から肉球のキャンディを貰った。

なにこの人優しい。


感動しながらキャンディを口にいれた。

甘い美味い。


「あの、貴方のお名前は?」

「シンゴだ。まだ足りなかったらこれもあるぞ」


両手一杯の飴。

魔族の男って優しいのね。


メークストレイスの男性株が急上昇した。


「よ、よろしければ取材をしてもよろしいですか?私ショナルと言います」


取材?と首を傾けつつシンゴは。


「どーせもう捕まらないだろうしいいぞ。てか、ここの人間じゃないだろ?わかんないことあったら教えるよ」


と、あっさり了承。

なんという棚ぼた。

まさか魔王関係者(なんだか親しそうだったし)と会えるなんて。


「じゃあ!さっそく!」

「あ、まってまって。そろそろ時間だから」

「時間?」


シンゴが空を見る。

いや、周りのみんなも空を見上げ始めた。


なんだろうと釣られて空をみると、たくさんの小鳥が飛んでいた。


その鳥がみんなの伸ばした手に留まっていく。


同じように手を伸ばすと赤いリボンを付けた小鳥が留まった。


「かわいい」

「それ、チョコの魔法生物」

「これがですか!!?」


なんとかわいい。


ピイと鳴くと小鳥は可愛らしいハート型のチョコに変わった。


「もー、僕の提案したドラゴンの方がかっこよかったのに」


そうぼやくシンゴに対して心のなかで。

小鳥で良かったと思ってしまった。


シンゴはハートのチョコを口のなかに放り込んでモグモグ食べる。

同じように食べると頬が緩むくらい美味しかった。


これをぜひともみんなに教えてあげたい。

こんなに可愛い魔法生物が食べられるってことを!!


「シンゴさん!この街詳しいんですよね!?」

「え、うん。詳しいね」

「素晴らしい記事を書きたいので案内してもらえませんか!?」

「いいけど」

「ありがとうございます!!」


シンゴさんに案内して貰い、たくさん取材をして、更には魔王の非公表の話なんかをたくさん聞けて取材は大成功。

頑張って頼み込んで魔王にも(再び)会うことができて、(何故か謝られた)良い写真も手に入れることができたのだった。


「よーし!良い国だって広めよう!」


そしてまた来年もバレンタインデーに来よう!

そして次はシンゴさんに大きなチョコを渡すんだ!

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