メークストレイスのハロウィン祭誕生秘話④
ゴーウ村。
そんな標識を見ながら首を傾ける。
どこかでこの名を聞いたことがあった気がするけど、はて、何処でしたか?
「はぁ!はぁ!どっ、どうなされたのですか!?」
ワイバーンが来たと騒ぎになった村の方から村長がすっ飛んできた。
だいぶ若い村長だ。
「ここに魔王様が来られませんでしたか?」
「魔王様ですか?ああ、それならこの村を迂回した所にランタンという森があります。この中ですね」
何故森に??
「ありがとうございます」
「ちょっと待ってください。さすがにそのワイバーンを森に入れられると動物達が怖がって皆逃げてしまいます!!」
確かに、それはいけない。
「大丈夫です。森には入れませんから」
そういえば村長がホッと息を吐いた。
が。
(着いてきていますね…)
やはり心配なのか距離をとって着いてきていた。
「笛で呼びます。それまでは空で待機していなさい」
少し早いがワイバーンを空へと放てば、村長は安心して引き返していった。
責任感は強いようだ。
森に着く。
てっきり強い魔物を倒して遊んでいるのかと思いきや、そんな気配もない。
「小屋?」
石作の見事な家が建っていた。
しかし、何処の国のものだろうか?
煉瓦で作った様子はなく、縦長の長方形の建築物。
しかも窓には見事に磨かれぬかれたガラスまで嵌められている。
「…??」
疑問に思いつつも森に踏みいった。
サクサクと草を踏みつつ、木々の間に見えるオレンジの物に気付いて肩が跳ねる。
なんだあれ、穴?にしては不気味な。
「だいぶ安定してきた?」
「してきたー」
「土の方がやりやすいのに」
「僕が出来ないだろ」
「おい、ヒビはいってんだけど。これ、お前だろ」
「え?嘘いつやった!?」
奥の方から話し声が聞こえる。
「!」
「!?」
リゼがその姿を見たのと、ライハがリゼの姿に気付いたのはほぼ同時。
顔つきカボチャに囲まれた魔王ライハとネコ。そしてシンゴという混じりの青年と、同じく混じりの少女コノンが広場でひたすらにカボチャを彫っていた。
「…………」
固まるライハ。
「あの…これは?」
見てはいけないものだったのだろうか。
ライハの頬に冷や汗が流れた。
「あの、リゼさん。これはその。あの、とあるイベントの為の道具を作っているだけなので決して頭がおかしくなったというわけではなく…」
目が躍りに踊っている。
イベント、行事に必要なもの?
それって…。
「もしや、ハロウィンとかいう」
「リゼ知ってるの!?」
ライハの顔が驚きの表情に変わる。
「前に魔王様が呟かれておりしたので」
そう言えば、ライハに周りのもの達の視線が集まる。
秘密だったのか。
足元にあるオレンジの物を拾い上げる。カボチャだった。
それに三角とギザギザが彫ってある。
「ハロウィンはこれを使うのですか?」
「そう。ジャックオーランタンってやつで、中に蝋燭入れて灯籠にできるし、お菓子を入れたり被ったりできるんだ」
「サウィンとは違うのですね」
「サウィン?あー、ドルイプチェの。確かに似てるね。そうそう、そのサウィンのようにモンスターに変装して、家々を巡りって、トリックオアトリートって子供が言うんだ」
悪戯か報酬か。
「で、ここは魔人や混ざり者の国だからそういう変装は意味ないし、だったらこのジャックオーランタンだけでも飾ってみようと。ほら、うちって建国祭しかまだ行事ないし、コノンやノノハラ知らないっていうから、ちょうど31日に楽しいイベント知ってるしこじんまりとでもやろうかなーって」
コノンが頷く。
「ハロウィンを知ってるオレとシンゴで説明しながら内緒でやってたんだけど…、ははは。バレちゃったか」
「ドッキリしっぱーい」
「本当に脇が甘いんだよお前。気を付けろよ」
「シンゴには言われたくないわ。このカボチャ破壊神め」
「なにおう!?」
「喧嘩はダメよ」
コノンに諌められて大人しくなるシンゴ。
「このあとアレックスとニックとスパニーア兄弟も参加予定なんだけど…、リゼも良かったら」
この時リゼの脳内ではノルベルトのいうサウィンとライハのいうハロウィンの共通点を探しだし、どうやったら国を盛り上げられる行事に仕立て上げられるかを高速で考え抜いた。
「わかりました。国総出で参加します」
「なんて?」
「国総出で参加します」
二回言ったところで、ライハが察し、やべっという顔をした。
「待ってリゼ!!そんな大事に──」
「それでは城に戻り次第予算を組み、カボチャを大量に仕入れ、31日に合わせて完成できるようにあちこちに声を掛けます。今のところ変装や盛大な焚き火、そしてカボチャのジャックオーランタンとお菓子しか知りませんが他にも用意するものがあれば明日までに資料を作成の上私に提出してください」
「まって焚き火ってなに!?」
「それでは先に戻って準備しておりますので、皆さま方もよろしければ後でお越しください。ふふふ、まさか魔王様が国を盛り上げる為にそんなことを考えていたんてこのリゼ一生の不覚!!!」
「ネコ!リゼさん止めて!」
「むり」
「それでは失礼します!!」
ライハが後ろで止めようとしているのをリゼは気付かない。
なぜならリゼは既に目的に向けて動き出していたから。
笛でワイバーンを呼び出して魔王城へと急いで戻る。
そして急いで幹部を呼び寄せると計画表を作成し、カボチャを大量受注。
31日を祭日として指定し、命令を下されたメークストレイス国が一気に動き始めた。
元々この国の人達は兵隊である。
命令が掛かれば動きの早いこと早いこと。
そうして来る31日。
国中はジャックオーランタンが飾り付けられ、カボチャ料理やカボチャのお菓子が子供の手に行き届き、国をあげた祭りだと聞き付けた観光客はメークストレイスの住人のように角の被り物や魔物の変装をして、あちこちで子供の「トリックオアトリート」という可愛らしい声が響き渡った。
大成功だった。
トリにはコノンの作り出した巨大なジャックオーランタンがリボンで飾り付けられた大釜を担いで練り歩き、最後はノノハラを筆頭にギリスと煌和の技術力の結晶である花火が空に咲いて歓声が巻き起こった。
「なんか、やろうとしていた事より数倍ハデだけど」
ポツリとライハが言葉を溢す。
「やっぱりこういうのって良いな」
これに味をしめたリゼが他にも祭りがないかとライハを問い詰め、これを期に“メークストレイスでは事あるごとに祭りが開催される国”と周りの国々に言われる様になるのでした。