表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/745

リベルター

 水滴と波紋が混ざった印のこじんまりとした店。


 窓際に飾られた色んな光を放つ飾り石やキレイで滑らかな布がたくさん飾られている。何故かその石の周りに白いキラキラがたくさんいる。

 虫ではないけど、なんか羽根の生えている小さいのがいるな。


 見た目は西洋風。このサグラマでは珍しい造りだ。


「失礼します」


 ドアノブを押して中に入ると、奥の方に頭まで青紫色のシルクのような布を被った美しい女性人が座っていた。水色の混じった銀色の美しい髪を持ち、大きな胸をこれでもかと強調した服を着ている。


 赤紫色をしている瞳がオレ達を捕らえ、あら、と声を上げた。光の加減によって緑や青も混ざる不思議な瞳だ。

 なんだか見たことがあるような雰囲気。


 そうだ、ウロにどことなく似ているのだ。髪の色や服装体格全て違うのになんでだろう。


 机の上に置かれている水晶や木の棒がたくさん入った入れ物、色鮮やかな石。それらを弄っていた手を止めてリベルターが口元に手を持っていき驚いた表情をして見せた。


「あらあら若い二人組と、珍しいお客ね。今日はどんな御用事なの?」


「あの、リベルターさん、で当たってますよね?」


「ええ、そうよ。リベルター。んー、何か私と関係のある情報を持ってそうね。誰から私の事を聞いたの?」


「ニックさん、じゃなかったクアトロからサグラマに行くならって言われて来ました」


 クアトロ、と小さくリベルターが呟くと、途端に妖しい雰囲気が薄れ、ニヤニヤ嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そーかそーか、あのツンデレにもシラギクちゃん以外に友達ができたか。いやーめでたい!実にめでたい!」


 パチパチと拍手をするリベルター。

 その様子をアウソと黙って見ている。


 その間にアウソが小さくポツリとあいつそんなに友達いねーんかと言っていたが、オレも他人事ではないので何も言えない。


 しばらく一人で喜んでいたリベルターだったが、さてと軽く手を擦り合わせこちらを見直す。


「喜ばしい知らせで嬉しいわぁ。よし、じゃあちょっと本気でやりますか。さあ、見せて」


 手招きされるままにリベルターに近付いていくと目の前に白色の光がパチパチと弾けた。

 不快ではないが、少し気になる。


「ふーん、占いよりも魔法関係かな。ーーーなるほど、黒髪のが凄いのツいてるね。反転の呪いとその他複数…」


「その他複数!?」


 反転の呪いは知っているがその他って何だ。

 もしやウロさんと行った解呪で何かの魔法が残ったままなんだろうか。


「それは解いて貰えることは出来るんですか?」


「うん、出来はするんだけどねー」


「?」


 出来ない何かがあるのか。


「うーん、なんていうかね…。反転の呪いは根が複雑すぎて、今解くと今体の中にあるすべての呪いが発動して、下手したら死んじゃうのよ」


「それは困りますね」


「でしょ?だからそれは一旦保留にしておいて。とりあえずヤバそうなヤツだけ解いてあげるわね」


 そういうとリベルターが俺に向かって指をさすと、静かに、ゆっくりと歌うように言葉を紡ぎ始めた。


「ねぇ、君は其処で何をしているの?

 縛られているの?それとも、望んだものなの?

 どちらにせよ、今している事は本当の君の役割なのかしら?

 ソレは君の事を望んでいないわ。

 望んでいないことをしていても、報われはしないし対価もなく疲れるだけでしょ。

 もう自由にならない?

 行き先がないのなら私のモノになればいいわ。

 悪くはしないから。

 ほら、息を吸って、共に唱えましょう」


 バチバチと周りにある光が力強く弾ける。リベルターの喋る声に聞いたこともない言葉が被さり共に唱えようと言われた瞬間、何故かオレの口がリベルターに合わせて動く。


「背にある羽を思い出せ、君はいつでも飛び立てる、さぁ羽に力を入れて、風に乗って行こう。《シューリカル》」


 全身に電流が走ったカのような痺れと共にキラキラとした光の粒が大量に体から噴き出した。体が火に包まれたように発熱し、いきなりの事でうまく息が吸えず咳が出る。体を丸めて熱に耐えていると、ガシャンと金属の何かが地面へと落ちる音がした。


「!」


 地面にホールデンで首元の刺青になってしまった首飾りがバラバラになった状態で落ちていた。


 徐々に引いていく熱、軽くなっていく体。

 全ての熱が引いた時には、全ての疲れがとれていた。


「…………うぉぉぉ」


 首元を擦る。

 特に何も変わらない手触りが怖い。

 何この首飾り、どっから出てきたの。


「なんか、記憶が変になっていた所があったから、それも少しずつ思い出してくると思うわよ。あとは、そうね、その子は大事にしてあげてね、きっと良いことがあるから」


 リベルターが指差す先には猫。

 良いことってなんだろう、癒してくれるのかな。


「お代は鞄の中の石3つで良いわ。なんだったら残りの預けてもらえれば身に付けられる魔具にすることも可能だけど?」


「うーん」


 確かに石剥き出しの状態で持ち歩くよりも、装飾品にした方が何かと楽かな?


「じゃあ、お願いします」


「お代は削り出した時に出たカスを貰っても良いかしら?」


「え、そんなんで良いんですか?」


「良いのよ、私が提案したんだし。それにクアトロの友人だもの、サービスしちゃう」


「あ、じゃあお願いします」


 鞄から石の入った袋を手渡す。


 それを机に置いてから、今度はアウソの方を向いた。実はずっと占って欲しそうにソワソワしていた。


(そういえば占い好きだって言ってたな)


「あんたも占ってほしそうだね、じゃあもう少し近くにおいで」


 さかさかと急いで横に来ると気を付けの姿勢で待っている。リベルターが三色の石をコロコロ掌で転がしながらアウソを見ると、ん?と声をあげた。


「ああ、あんたはもしやルキオのあれかい?」


「あれ?」


「あれです」


「?」


 二人で完結する会話。

 あれとはなんだ。


「じゃあ、そうだね。ーーー、女難が出てるね」


(カリアさん達かな?)


 アウソも小さく「えー」と言う。もしかしてアウソもオレと同じことを考えたのだろうか。

 いや、でも待てよ、ここ数日は特に何かされたという記憶はない。四日ほど前に道で見つけた前足の生えたまだら模様の腕ほどの太さがあるヘビを笑いながら投げ付けられたことくらいか。


 アウソはヘビに慣れてるから少し驚いたくらいだったが、オレは驚きすぎて馬で全力で逃げ出してしまった。今思い出すと恥ずかしい。


 ちなみに二人はサグラマに来る途中で見付けた変なものを不意打ちの訓練とか言いながら投げて来る、きっとここで油断してるって何かしてくる可能性は十分にあった。


 だが、そこでリベルターが焦った声をあげた。


「あ、ちょっとやばいねこれ。うんヤバイ。あんたらすぐに走って元の場所に帰った方がいいよ。超めんどくさいことになるから」


 やばいやばいと言うリベルター、詳しいことは教えてくれなかったがめんどくさいのはとても嫌なのでお代40カース支払うとアウソと共に礼を言って店を出ようとしたところでリベルターに声をかけられる。


「何事もなければ三日後にまたおいで、それくらいに魔装具を造り上げておいとくよ!」


「わかりました、ありがとうございます!」


 帰り道、リベルターに言われた通りに走る。

 日はまだ高く、雨季だというのに珍しく空に雲がない。風が生ぬるく南から吹いてるので夜に豪雨でも降りそうだ。


「なんなんだろうな、めんどくさいことになるって」


「二人が喧嘩とか?もしくは酔っ払い関係とかかな?」


「またルツァが出るとか?」


「それは嫌だなー」


 いく先々でルツァ遭遇とか正直勘弁してもらいたい。


「ん?」


 途中、子供の泣き声が聞こえた。

 壁の向こうから聞こえるような気がするが。


「なんか子供の泣き声聞こえるんだけど、どうしよう」


 アウソも声に気付き速度が落ちていく。

 やばいアウソは子供好きなんだ。


「えぇ、でもリベルターさんにすぐ戻れって」


「…うん……」


「………」


 子供の声が大きくなる。


「……………ちょっと覗いてみるさ?」


「………そうしよう」


 すぐ近くの小道から聞こえる。

 そっと見てみると五才ほどの子供が地面に(うずくま)って薄汚れた様子で泣いていた。身なりは中流の子なのだが、スッ転んだようにあちらこちらに泥がついている。

 髪は短め、肩ほどで綺麗に切られていて男の子なのかも女の子なのかも分からない、声もどちらにも聞こえるのだ。


「親っぽいのは居ないな…」


「だな…」


 近くを探しても親らしい人はいない。そもそもなんでこんな怪しい裏路地に一人。


「放っておくのも、なんだかなぁ」


「どうしたのか聞いてみて、表通りに居るだろう自警団の人に預けよう」


「そうしよう」


 驚かさないように恐る恐る近付き、子供好きのアウソが話し掛けてみる。


「なぁ、どうしたんさ。迷子か?迷子なら大通りにいる自警団の所まで連れていってやるけど」


 ピタリと泣き声が止む。

 ゆっくりと子供が顔を上げ、こちらを見た。

 女の子の顔は涙に濡れておらず、それどころかこちらに可愛らしい笑顔を向けて口を開いた。


「あはは、バカな獲物が二匹釣れた!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ