メークストレイスのハロウィン祭誕生秘話①
事の顛末は。
「……ハロウィンやりたい」
ポツリとライハが溢したその言葉を、リゼが通りすがりに耳にしたことから始まった。
週末魔王城部下による打ち上げにて。
(魔王は所用に付き欠席)
「ハロウィンとは何でしょう。この国での行事でしょうか?」
城下町にあるとある貸し切り酒場にて。
麦酒片手に現在魔王直属秘書のリゼが幹部達に質問した。
現幹部は、タゴスやリゼ、そしてネコを含めて13人。
今はネコもライハに付き添い欠席しているので12人だが、12人ともなんだそれ知らんと首を横に振った。
半数は庶民の混ざり者だが、それでも実力を認めてもらいこの席に着いている者達。とすると、庶民の行事ではない。
「すみません。私達も存じ上げません」
と、半数の貴族出身である純粋魔人達が答えた。
「とすると、魔界の行事ではない。と」
タゴスが挙手する。
「あいつは何かとあちこちの国を旅していたから、何処かの国の行事なんだと思う。多国籍の仲間が多いし、連絡を取れる奴から聞いていけば何か分かるんじゃないか?」
「なるほど。では、さっそく」
ポケットからパルジューナ産音声転送機、ライハが言う電話機を取り出すと、魔力を流し込んで起動させてから記憶させておいた相手へと発信した。
『リゼ?どうした?こんな時間に』
出たのはノアである。
貴重なこの試作電話機を持っているものは少ない。今のところ世界に五台しかない内の一つを持つノアは、寝起きのようにあくびをしながらリゼの言葉を待った。
「ノアさん。ハロウィンというのはご存じですか?」
『…は…?はろ?ん?はろういん?』
この様子では知らないかもしれない。
『ハロウィーン、ハロウィン?? サウィンとは違うのかい?』
「サウィン?」
新しい単語が出てきた。
『この時期にそういう祭りがあるのは知ってるけど、何処だったか覚えてないなぁ』
「そうですか」
でももしかしたらその祭り関係なら、なにか情報が得られるかもしれない。
ありがとうございますと電話の魔力を切ろうとしたとき、待って待ってと慌てたようにノアが話を続ける。
『でもそれに関連ある人は知ってるよ。ライハの仲間だし、もしかしたら知っているんじゃないかな?』
「ほんとですか?それは誰なのでしょうか?」
『カリア・トルゴ。ライハの師匠だった人間…人間?だよ。確かその人の中にいる存在の一つがそれ関連だったはず』
カリア・トルゴ。
元魔王軍に所属していた時でも、要注意人物として上がっていた名だ。
通話を切った。
「タゴスさん。申し訳ありませんが、明日の仕事…」
「いいですよ。どうせリゼさんそんなに急ぎの仕事とか残ってないでしょうし、行ってきてくださいよ。たまにはうちの上司にご褒美あげないと」
ずっとバタバタしてて、大変そうだからな。
と、タゴスはぼやいた。
「ありがとうございます」
「ところでリゼさん。カリアさんの居場所知っているんですか?」
「ルキオですよね?」
更地にされたのにも関わらず、恐ろしい勢いで復旧を遂げる国。
そこで呪いを解くために養生していると聞いた。
「あそこは俺達にとってはなかなかにキツイ土地だ。くれぐれも土地の主を怒らせるような事はするなよ」
「?」
翌日。
遠距離転移ゲートとギリスの短距離転移所を乗り継いでルキオの国境までやって来た。
時間が大幅に短縮できるとはいえ、お金が物凄い勢いで飛ぶ。
何とかして経費で落とせないだろうか。
と、考えながらマテラからルキオへと続く海上大橋を二角駿馬で進む。
しかし、暑い。
もうメークストレイスはだいぶ涼しくなってきているというのに、なんだこの国。
いつまで蝉が鳴いているんだ?
なのに周りのルキオ人達は汗一つかかずに今日は涼しいなーと雑談している。
体感温度はどうなっている??
「はぁ…」
カリア・トルゴはロッソ・ウォルタリカ人と聞いた。
北国でも凍り付いた国。そんな国の人間がこんなところで養生できるんだろうか?
むしろ熱さで溶けているんじゃないか?
タゴスが言っていたキツイ土地とはこの暑さの事か?
だが、魔法具を使えばそこまでではないけど。
途中で橋の手すりの形状が変わった瞬間。
すべての空気が様変わりした。
一瞬、脳裏に何者かの視線を感じた後、とても涼しい風が吹き付けてきたのだ。
(今のは、土地の主か…)
ルキオ王は、噂だと人ではないと聞いた。
なるほど、これは、怒らせると不味い。
できるだけ魔力を抑制し、涼しい風に感謝しながらカリアがいるであろう場所を目指した。
山の中にちょこんと家が建っていた。
周りはどうしたのかと訊ねたいほどに地形がとんでもない傾斜だったり抉られたような感じになっていたが、幸いなことに此処にも橋が掛けられていて問題なく渡れた。
下に比べるとだいぶ涼しい。
なるほどここなら問題なく養生できる。
「すみません」
家に到着し、扉をノックすると足音が近付いてきた。
「おや?こんなところに珍しい。何か用かな?」
出てきたのは筋骨粒々の男だった。
ぞわりと鳥肌が立った。
なんだこの気配。そう思ったところで、カリアと共に大魔術師のザラキがいるということを思い出した。
「お初にお目にかかります。私はメークストレイス国の者で、リゼと申します。ライハ様の秘書をしております」
「ライハの?へぇー?」
まじまじとザラキに眺められる。
「良い魔力をしている。しかも美人さんときた。まったくすみにおけん奴だな」
どこか嬉しそうにしているザラキ。
大丈夫だろうか?なにか勘違いしてないだろうか?
「ここにカリア・トルゴさんはいらっしゃいますか?」
カリア?
と、ザラキが言い。「あー…」と、すまなさそうな顔をした。
「すまん。今あいつは此処にはいない。王都で師範をやっているんだ。良ければ送るが」
いないと言われて気落ちしかけたが、ザラキに送ると言われて持ち直した。
「良いのですか?お願いします」
「そうか。じゃあ、準備してくる。少しだけ待っててくれ」




