魔王ライハは勉強中である.11
その後は実に充実していた。
夜食で連れていかれた煌和料亭はまさに日本食そっくりで、懐かしさからかついおかわりをしてしまった。
女将さんが驚きつつ喜んでいたのが印象的だった。
なんでも、あんまり煌和の食事は他国の人間の舌には合わないらしい。
こんなに美味しいのにな。
「ああ、でもギリスの方には大人気ですね。野菜が多いといつも喜んでいただけてます」
さすがはアレックスがウサギの国と揶揄するだけある。
確かにあのベジタリアン大国には天国の食事だろう。
「輸入するか?」
「したいな」
定期的に食べたい味だ。
「そうなると生物の輸送にかかる手間を」
「氷雹石の伝はある」
リューセ山脈とか。
実はたまにあの方達と文通しているのだ。
お世話になっているしね。
「そうだ、ライハ君。例の件はどうした?」
ああ、そうだ。
箸を置いてノアの隣に座るリゼに向き直る。
リゼが察して同じように箸をおいた。
「リゼさん。アサギリ王からの提案である、うちの国で秘書見習いとして来るというお話ですが」
キュッ、とリゼの口が結ばれる。
「受け入れることに致しました」
一気に顔が嬉しいさなのか明るくなった。
「ここにいるタゴスの部下になる形ですので、詳しくはタゴスとの相談で期日などを決めて貰う形になります」
「ありがとうございます」
頭を下げるリゼ。
釣られてタゴスと頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
しばらくはバタバタするだろうが、これでオレの負担が減るのは喜ばしいことだ。
そうして煌和訪問は終わった。
バッフォキラー共々国に戻って来て、その翌日には煌和の建設会社からバッフォキラー貸し出しの要請が大量に飛んできた。
その為、大慌てでバッフォキラー専用の魔法陣をニックに依頼し、思い切りどやされながらも無事に手に入れ、配布。
バッフォキラー業界の経済が凄い勢いで回り出した。
留学の話も簡単に許可が降り、大量の国民が職人に弟子入り。
その知識を利用してうちの国のインフラが一気に整い始めた。
この時点で色んな国に修行に行っていた国民が戻りだし、なんと国民の三分の一が大工や職人という状態に。
そしてバッフォキラーの噂は煌和から世界に広がって、一年経てば、バッフォキラーの生産国として名を轟かせるようになってしまった。
まぁ、それもこれも、リゼの活躍があったというのが大きい。
タゴスは本当に助かったようで、今ではリゼと仕事を半分に分け、新しい分野を開拓するために忙しなく動き回っている。
お陰で。
「………やることがない」
忙しいはずなのに、暇という変な状況が出来上がってしまった。
「ネコよりも?」
窓辺で休憩中のネコが言う。
ネコのお陰で軍事力は常に高水準だ。
「うーん、うん」
やることはやってるが、日常的なことしか出来てない。
これはそろそろ次に手を出してみる頃かもしれないな。
でも新しい事か。
そうだ。
「…………よし!」
「どうしたの?」
立て掛けてある斎主を手に取り、隠し持っていたフードを取り出す。
「ネコよ。ちょっと出てくるから、リゼとタゴスへの誤魔化しよろしく」
「ええ!?ちょっと!!」
「とう!!」
窓から飛び出し、透明化の魔法を発動。
城下町へと走った。
国民が今本当に必要な物と思っているものは、その人達と直に触れあわないとわからない筈だ。
なら、息抜きがてら調べてこよう。
この行動が、後々大変な事件の切っ掛けになるのだが…。
それはまだまだ先のお話。
一旦これにて終わりといたします
そのうちまた外伝を書くかもしれませんので、その時はまたよろしくお願いいたします