魔王ライハは勉強中である.5
さて、それでは視察といこうか!
右手にキャリーバック(作らせた)、左手に書類の束。
うーん。どうあっても書類から逃げれない。
ついでにタゴスからも。
思わず苦笑い。
「当たり前だ」
「知ってた」
こんなことでお休みが取れるとか思ってなかった。
けどね、やっぱりオレは思うわけですよ。
この労働環境。いくら頑丈な体でも精神的に良くない。夢にまで出てくるのは本当に嫌。
「ほら行くぞ」
「へいへい」
タゴスをお供にゲートへと向かう。
今回ネコはお留守番。結構ごねられたけど、二人で一人みたいなオレ達はこういうときに分かれた方が効率が良いのだ。
なんせ魔力融合してるから、ゲートなんかよりも早く意思疏通ができる。
ぶっちゃけずっと通話状態って感じ。
ある意味分身じゃない?
ゲートの建物の前でオレ達を待っている人物を発見。
バッフォキラーは犬の散歩ですか?ってくらい剥き出しで、綱しか付けてないけど良いのかな、あれ。
「ではよろしくお願いいたします」
二人にそう言えば慌てて頭を下げてくる。
「お!お願いいたします!!!魔王様!!!」
「お願いいたします!!!」
「うん。じゃあ行きますか」
レンタルしたお世話係二名とバッフォキラー2頭連れていざ出発。
先に連絡入れていたから、専用通路を作ってくれていた。これならバッフォキラーが暴れても安心。いや、暴れてももちろん阻止するけどね。
鳥居のようなゲートの真ん中に水の膜みたいなのが張られている。
そこにタゴスが先に入り、続いてお世話係とバッフォキラー。そして最後にオレが入る。
グニョンと一瞬だけ視界が歪み、三歩程で風景が様変わりしていた。
「はぁー、木造建築だ」
和風チックな木造建築だった。
思った以上に格好いい。
空港みたいな建物の中にゲートが設置されているのだ。
(これ、良いな。基本ゲートって外にあるから雨の日とか困ってるから屋根付けたけど、空港みたいな感じにしたら綺麗だし、金も動くし、店も清潔感増して良いかも)
「おーい!ライハくんこっちこっち!」
「!」
この声。
「一週間振りです」
ノアだ。
「いやまさか君が来るとは思わなかった。すまん、出迎えが質素で」
「いえいえ、言わなかったオレが悪いんで」
強制休暇に持ち込もうとしたけど失敗しただけだから。
「こちら、補佐のタゴス」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
タゴスとノアが握手。
「で、そちらのが?」
ノアの隣にいる女性。恐ろしく整った顔で、品のある装いの方だった。でもなんでだろう。なんか、覚えがあるような気がする。
顔は見たことない。なのに、魔力の感じが。
「こちらは理世。案内役に立候補してくれた方です」
「紅間の理世です。気軽にリゼと呼んでください」
んん??あれ?声もなんか聞いたことあるぞ??
どこでだっけ??あれ??
「理世さん。笑顔笑顔」
ぎこちなく笑顔。
慣れてないらしい。
「案内、よろしくお願いします」
手を出すと、戸惑いながらも握手を交わした。
瞬間、思い出した。
剣を握り、固くなった彼女の掌。
ピリッと几帳面そうな魔力の感じ。
そして──
「……君は、リオンスシャーレ北部で会った事ありますね」
脳裏に甦る角のある兜を着け、特殊な声を操り苦戦を強いられた敵。
決着がつくというときに、転移で逃げられてしまった敵だ。
ビクッと、彼女の肩が跳ねた。
「…は、い。そうです。私が、あの時の…」
そう言えば、良い家柄の娘が拉致された後洗脳に遭い、戦わされていたという話を聞いていたが、この人だったのか。
「えと、彼女はもう…」
ノアが何とかフォローをいれようとしている。
「大丈夫です。もう終わりましたし、自ら立候補なんて相当な覚悟がなくちゃできないことです」
何せ、彼女にとってオレは敵だった人物だ。
目の前にいることすら怖いだろう。
しかし、こうして対面したんだ。
「これからよろしくお願いしますね、リゼさん」
「はい、よろしくお願いいたします」