魔王ライハは勉強中である.3
ゴトゴトゴトゴト。
揺れるなぁ。
同じ揺れでも馬車の揺れはお尻が痛くなるから割りと嫌い。馬は好き。
車輪が木製だから仕方無いんだけど、なんとかならないもんか。
これは早く道路の舗装を急がせるべきか。
いや、結局舗装っていっても砂利敷き詰めて終わりだもんな。雑草生えるし。もういっそのことタイヤ改良するか。
隣のノーブルに誰か派遣して調べてもらおう。
銃の知識と交代すればいけなくないか?
「君の国、本当に魔物が普通の家畜のように闊歩してるんだね。あれはバッフォキラーじゃないかい?」
窓の外にはノアの言う通りバッフォキラーが群れをなして歩いている。牛の癖に角がドリルのように巻いているのが特徴。
「そうです。あれが今問題のバッフォキラーです。見るからに美味しそうじゃないですか。見た目牛ですし」
「そうだね」
パッと見、丸々としてて美味しそうなこいつ。
「ところがどっこい。筋っぽいわ硬いわ顎イカれそうになりました。あれ全部筋肉だったんです。最終的に出刃包丁二丁で一時間叩きました。それでやっと普通の肉。労力と割りに合わない」
「え?君がやったの?」
「解体ショーやるって聞いたので試食しに。魔族の方は特に問題なく食べられていたんですが、半人やオレみたいな人間からの成り上がりの方々には結構疲れます」
「ネコは好きだよ!あれ!」
「石みたいに硬いアルロドンの肉も余裕で食い千切るもんな、お前」
団子虫とアルマジロ混ぜたみたいな魔物の肉は、凍らせたバナナ並みに硬く、普通に釘が打てるほどだった。それをネコは美味しい美味しいと平らげていたのだ。
きっとこいつの顎の力はグレイダン達と同じだ。
グレイダン達もアルロドンを殻のついたままボリボリ食べてた。
「あのままじゃ輸出もできなければ育てても持て余す」
「なるほど」
とノアが納得したように頷いた。
「つきますよー」
馭者が言う。
窓の外には目的地の建物が見えていた。
馬車から降りると、ここの管理をしている半人達が慌ててやって来て平伏してきた。
「魔王様、遠路はるばるお疲れさまでございます。小汚ない農場ではございますが、精神誠意案内をさせていただきます」
「うん。ありがとうございます。あと、服が汚れちゃいますので平伏しなくて大丈夫ですよ。案内をよろしくお願いいたします」
促すと、困惑しながらも半人達が立ち上がった。
良かったこの人達は温和派の人達だ。
「あの、何か飲み物などは…?」
「後でいただきますね。それよりもまずプアソンさん、貴方達の飼育をしている魔物を見せて頂けますか?」
「は!はい!こちらでございます!」
バタバタと他の半人達に指示を出し、こちらですと誘導してくれている。この人がここのトップのプアソンだろう。書類だと淡々とした報告だけだから、今度顔写真を添付出来ないか打診してみよう。
そんなライハの様子をノアは驚いた風に眺めていた。
王様である彼の異様に姿勢の低いこと。庶民に敬語。そして何よりも半人達に向かって柔らかく笑顔で接している。
え、これ大丈夫?ナメられてない?
魔界では、あんな態度だと弱いと思われて襲われるのがオチだが…。
「魔王様、噂通りに物腰が柔らかいな」
「本当に強いか疑問だが、俺達に理不尽な要求をしなさそうだ」
「もしかしたら上部だけかも。様子をみよう」
「だな」
ひそひそと、聞こえるか聞こえないか位の声で半人の従業員達が囁きあっている。
物腰が柔らかいという噂が流れているのか。
それで魔王になっても暗殺が絶えないのだな。
王とあるもの、もう少し威厳を持つようにと言うのは簡単だが。
「………」
管理人の後を付いていくライハ。
服装は高い服ではあるが、動きやすいものだ。
肩にネコが乗り、周りを興味深げに見渡している。
そして当のライハも、いつでも戦えるように魔力は常に巡らせている。
(いつ襲われても大丈夫なように警戒はしているっぽいけど…)
………。
ま、俺も様子見だな。
檻の中にはたくさんのバッフォキラーが並べられている。
ガンガンと柱に頭突きをしたり、壁を削ったり、こっちを見て唸ったりしている。
姿は牛だが、やっぱり立派な魔物だ。
「ここはバッフォキラーの寝床です。基本は外の草原に離して適当に草を食べさせてます」
あのバッフォキラー達か。
「柵がなかったようですけど」
「ああ、魔王様はご存知ないですか。牛の耳を見てください」
「ん?」
耳を見る。そこにはタグではなく、ある魔法陣が書かれた札がぶら下がっていた。
「隷属の魔法陣ですか」
「そうです。指定範囲をこの小屋を中心に定めているので、一定期間から出ようとすれば耳に痛みが走って方向転換して戻ります」
それはよく考えられている。
「問題点なんかは?」
「バッフォキラーの生死など関係ないという輩が盗みに来たりします。今のところバッフォキラーの方が強いので被害は少ないですが、道を歩いている人にまで襲い掛かったりします」
「なるほど」
違う意味で柵が必要っと。
「では次に放牧地へ案内します」