エピローグ
兄さんが居なくなってからもう大分経つ。
あのカフェで姿を消した兄さんを探し回ったが何処にも居なかった。
それどころか、居ないのが当たり前、ライハは遠い所に行ったじゃないと言い聞かされた。
おかしい。
何かがおかしい。
遠い所ってどこだよ、外国か?と質問攻めしても何処だったかしら?とにかく遠い所に行くって言ってたじゃないと。
兄さんのバイト先も学校も友達も、彼女さんも全くの同じ対応で頭がおかしくなりそうだった。
狐に摘ままれている、そんな気分だ。
俺がおかしいのか?
つい、そういう思考になりかけるが、いいやそんなことはないと探し続けた。
あのクリスマス以降ずっと様子がおかしいのに気付いていた。
ずっと何かを探して焦っている感じだった。
なんとなく身体能力が上がっている気がしたが、気のせいだと無視してた。
流石に毎朝日の明ける前からブンブン煩いんで注意しようと部屋を除いたら一心不乱に何処で買ったのか木刀振り回していたのには引いたが。
何を悩んでいるのかもっとしっかり尋ねていれば良かった。
今となってはもう遅いが。
「ただいま」
「お帰り。遅かったわね」
「いつものジョギング」
ジョギングという名の捜索活動だが。
うっすらみんなの中から兄さんの記憶が薄くなっている兆しがある。
怖い。
早く見付けないと手遅れになりそうだ。
「くそ、何処にいるんだよ…。ん?」
何かの違和感を感じて立ち止まる。
なんだろう。兄さんの部屋か?
人の気配とかではない。
でもなんかおかしい。
そろりと扉を開ける。
部屋はあのときのままだ。
「え」
何も変わってない筈だった。
なのに、机の上には見覚えのないものが置かれている。
「……なんだ、これ」
手紙と本、あと四角いプレートにガラスの嵌め込まれた何か。
シールの変わりに硬いチョコレートみたいな何かで接合され、王冠をした羽根つきネコの判子が押されている。
結合しているのを割って封筒をあけると、中にはたくさんの手紙が入れられていた。見覚えのある文字の癖。兄さんからの手紙だった。
ブンと、四角いプレートに光が点る。
そこにはたくさんの人に囲まれて笑う兄さんの姿が写っていた。
スライドする度に写り出される見知らぬ世界の風景。
ああ、と納得した。
「兄さんは本当に遠くに行ってしまったんだな…でも元気そうで良かった」
手紙と本とプレートを抱えた。
早くこれを見せないと。
「母さん!兄さんからプレゼントと手紙が来たよ!」
そう言って、兄さんの部屋を後にした。