最終決戦.3
黒い雨の段幕が襲い来る。
明らかに攻撃速度が上がっていた。
黒い雨は質量を持ち、壁に当たれば焦げたような後が残った。
それらを全ていなす。受ければ魔力を持っていかれてしまう。
『(また来るよ!!)』
黒い雨が旋回して戻ってくる。
ジャンプやネコの身体能力、エルファラが勝手に発生させる魔法陣にて今んところ無傷だが、それはあちらも同じな訳で、お互い全力攻撃しながらの長期戦に突入していた。
くそっ、ぜんぜん途切れないな!
「!?」
風の塊が飛んでくる。ドリル状のものだ。というか、ゲルダリウスは黒い雨以外のものも発動できるのか!
反転の盾で防ごうかと考えた瞬間、目の前に三つ魔法陣が並び、風の渦を射出。
誰だこれ!?あ!エルファラか!!
瞬く間に風の威力が渦に巻き込まれて減少し、逆にその風を己の発生させた風に取り込むと、空中で一回転しつつ斎主に流し込む。風のが威力が上がっていく。
お返しだ。
風の塊をゲルダリウスに向かって放ち、素早く腕を引き付けると、狙いを定めて突きを放つ。耳をつんざく轟音を上げながら雷の矢が放たれた。
風の渦を貫いてゲルダリウスへと矢が突き刺さる。
あれでやれたとは思ってない。
何せアイツには厄介な能力があるから。
ほら。
すぐさま纏威を発動してその場から逃れる。
すると、すぐ足元の空間に斜めに亀裂が走り、大爆発を起こした。
「何あの爆発」
『(何あのバクハツ)』
爆発の属性でも持ってるのか?
──ハモるなよ。あれはゲルダリウスが高密度な魔力を更に圧縮して放った斬擊だ。ぶつかったら真っ二つのうえバラバラになるぞ。
「あんな事できるのか」
──あれはアイツだから出来ることだ。お前はやるなよ。お前は三回やったら死ぬからな。
「分かった、やらない」
空中に氷の塊を作り出し、脚に反転の盾を展開させると、纏威を発動したまま次々に蹴り飛ばした。氷の塊は白い筋を引いてゲルダリウスへと襲い掛かっていく。だが、そんな攻撃もゲルダリウスが掌を目の前に翳し黒い壁を発生させるとバクンバクンと咀嚼するような音を立てて氷が吸い込まれた。
ゲルダリウスが美味と言わんばかりの顔でこちらを見ている。
オレの攻撃はアイツにとって食事でしかないらしい。
「あの能力が本当に厄介だな」
遠距離での魔法攻撃だとあの黒い盾に食われてしまう。
「どうにか出来ないものか」
『(いっそのこと思い切り近づく?)』
と、ネコが初擊でゲルダリウスのすぐ側に現れて攻撃成功させたイメージを流してきたが、それにオレとエルファラは首を横に振った。
さっきはゲルダリウスの油断で出来たことで、あのまま詰めれば良かったが、今となってはもう使えない手となっていた。
ゲルダリウスに視線を移す。
ゲルダリウスの足元には黒い霧が渦巻いていた。
あれは黒い雨と同質のもので、自在に操って盾や攻撃に回している。
オレの接近防止だろう。
だからあれ以来少しでも近付こうとすれば攻撃が激しくなる。
──だが、このままじり貧はまずい。お前も相当な魔力量だが、ゲルダリウスのが上だ。このままだと競り負けるぞ。
「…だよな」
攻撃は相変わらず続いているが、何とかやりあえているのもネコとエルファラが後方支援してくれているからだ。まぁ、その二人の魔力も回しているからこっちの消費が激しいってのがあるが。
…本当にアイツの能力が羨ましいな。
アイツは消費してもオレの魔法を食えば魔力を補充できるみたいだ。
「………」
確か悪魔の能力が特化した奴だとか言ってたよな。
あれ誰が言ってたんだっけか?
まぁ誰でもいいが。
「……エルファラ」
──なんだ?
「お前もなんか持ってないのか?」
その質問にエルファラが黙った。
だが、黙った時間は一瞬で、すぐに口を開いた。
悪魔らしい笑みを浮かべて。
──お前は、強欲で傲慢だな。あるにはあるが?それを渡すという事の意味は分かっているのか?
頭の中で警鐘が鳴っている。
危険だと。そんな危険な賭けに出るくらいならじり貧でも安全策を取ろうと理性が促している。だが、同時に理解していた。
きっと今のままじゃ、そのうち競り負けると。
そうするとどうなる?
みんなに託された道は閉ざされ、全てが無意味なものになってしまう。
ネコは何も言わない。
黙ってオレの選択を待っていてくれている。
いつまでグズグズしているんだオレ。
ここまで来たのなら、最後まで、地獄の底まで走り抜けてやろうじゃないか!!
「ああ。もう戻れなくなる。だけど、それでもやらなくちゃいけない事はしっかりと分かっているさ!!」
──よーし、それでこそ僕が選んだ宿主だ。全部持っていけ!!そして後悔しろ!!だが安心しろ、それに見合った力だ!!
エルファラから最後の力が流れ込んだ。
隅々にまで満たされ、同時にこの力がどういうものなのかを思い知った。
エルファラが扱いきれなかった力だった。
それがオレの感情と同調して馴染んでいく。
バキンとニックから腕に刻んで貰った何かが弾けとんで腕に絡み付いた。
腕に光る模様が浮き上がる。
『(ライハが更に堕ちるって言うなら、ネコも一緒にいかなくちゃね。こっちも更に本気を出しちゃうよ!!)』
ネコの本気が目に力を送り込まれ、景色が止まる。
飛んでくる全ての攻撃の軌道が光る帯となって浮かび上がる。その全ての攻撃の何処を何をすれば良いのかが即座に理解し、それと同時にネコがどういう勇者だったのかを理解した。
景色が動く。