最終決戦.2
視界一面の黒。これは全てゲルダリウスの能力だ。
触れた所から魔力を喰われ、動けなくさせるものだ。
きっと少し前のオレなら焦っていただろう。
だけど。
「シンゴ、感謝する」
黒い雨がオレの居たところへと着弾。もうもうと攻撃の余波が煙となって漂う。
ゲルダリウスが何のアクションもなく終わったことに落胆とも言える顔をした。まさかこれで終わったのか?という顔だ。しかし、違和感に気付いて一歩踏み出した瞬間、ゲルダリウスの足元にオレが現れてゲルダリウスの首めがけて斎主を斬り上げた。
『な!!??』
すんでで回避したゲルダリウスだが、首に細かい赤い筋が入った。
オレの動きは完全に予想外だったらしい。
その間抜けな顔を見て、オレの中に入っているエルファラとネコが愉しそうに笑っていた。
「……やるじゃないか」
「どーも。もう少し速度あげても大丈夫そうですよ?」
斎主にまとわりつく風と雷がゲルダリウスを狙っている。
黒い雨が迫ってくる瞬間、全ての動きがスローモーションになっていた。
先程は無かったものだ。いや、似たものはあったがここまでではなかった。魔力融合したネコがそのまま体の中へと侵入し、さらに感知範囲、精度が上がる。
──シンゴだな。
エルファラが言う。
──風の性質の1つに“能力の倍増”みたいなのがある。恐らく全ての攻撃、行動に影響があるから吹っ飛ばされないようにしろよ。
「ああ、頑張るさ」
そして。
「シンゴ、感謝する」
視界が切り替わり、黒い雨が目の前で通過していく。
ジャンプの速度も明らかに速度が上がっているのがわかった。確かにこれはオレ一人だったら扱いきれずに訳のわかんないことになっていただろう。
『(そこはネコに任せてよ)』
頼もしい声が頭に響く。
ネコはオレよりも明らかに動体視力も身体能力も上だ。シンゴからの能力もすぐさま馴染んで自分のものにしている。
オレも負けてられない。
天井付近にいるオレはゲルダリウスの事を見下ろしている。
何となくだが、何の抵抗も出来ずにやられたように見えたのだろう。
油断だ。
ちりっと目の前に稲妻が走り、狙いを定めてジャンプした。
一歩踏み出したゲルダリウスの真下へと現れ、油断しているその首へと剣を振り上げた。
切っ先に発生した旋風が、鎌鼬となり影響範囲を広げた。
避けられてしまったが、想定内だ。
ゲルダリウスの首に赤い線が走る。
治る速度を見る。
オレよりは遅い。
ゲルダリウスの瞳に僅かに苛立ちの色が現れた。
『……やるじゃないか』
「どーも。もう少し速度あげても大丈夫そうですよ?」
ニヤリと口角を上げて煽ってやる。すると分かりやすく乗っかってきた。
真上から出刃包丁に似たものが三連で降ってくる。
目の前で次々に地面へと突き刺さって霧となる。だが、これも能力の一つだ。反転の盾で防御する。
だが、この霧は意思があるのか、隙間を縫って入り込んできた。
『(ライハ)』
「おう」
足元から競り上がる魔力が風となり、霧を一気に吹き飛ばした。いつぞやシンゴが使った、円形状の竜巻だ。そうか、あれはこうやって使うのか。
『ふむ。あんだけ殺し合っていたわりには、彼の属性と相性が良かったようですね』
ゲルダリウスが皮肉を言ってくる。
「ああ!もう少し違う形で会いたかったもんだ!!」
そうすれば、きっとネコと同じように良い関係が築けただろうに。
大きく踏み込み、斎主を突き出す。
雷の塊が大砲のように飛んでいく。衝撃波を発生させた雷の塊は、ゲルダリウスに当たる直前に黒い盾にて吸収される。
『ふむ。なかなか美味』
ベロリと舌舐めずりをするゲルダリウスが剣を取り出した。
『前菜はここまでにしましょう。さぁ、最後まで味わい尽くさせてください』