最終決戦.1
「師匠!!」
双子がウロを呼ぶ。
だが、ウロは全く反応せず、何処を見ているのか分からない瞳を虚空に向けていた。
「ウコヨ、サコネ」
「なに?」
「どうしたよ」
「シンゴの体を持ってちょっと安全な所に居た方が良いかもしれない。あいつの攻撃範囲はヤバイから」
甦るあの黒い雨。
見渡す限りの範囲で発動していた。
今ここの広場だって範囲内かも知れないが、それでもオレの近くにいるよりもずっと良いに違いない。
もし双子の呼び掛けにちょっとでもウロが反応を示してくれたらと淡い期待感もあったが、そんな都合の良いことあるわけ無いと現実は冷たく突き放した。
「分かった。ウコヨ」
「うん」
双子がシンゴを引き摺って後ろの方へと下がっていく。双子の魔力はまだ充分にある。結界を張ることに集中していれば何とかなるだろう。しかもさっきのみた感じ、反転の盾も含まれていた。ネコが教えたのか?
『よっ!』
ネコが肩に乗る。
『ん?』
するとスンスンといきなりオレの臭いを嗅ぎ始めた。なんだ?
『あいつの臭いがする。貰ったの?』
臭いだけで分かるのか。
「ああ。全部くれた」
本当に、全てを。
『じゃあ、ネコもパワーアップだ』
早速魔力を繋げば、ネコの方にも魔力が行き渡って巡っていく。その様子を黙ってみていたゲルダリウスが口を開いた。
『おや?いきなり襲い掛かっては来ないのですね?』
予想外と笑うも、そんなのは想定していただろう。魔力を練り上げてはいるものの、まだこちらに攻撃をしてこようという意志は感じられない。
値踏みでもしていつもりなのか。
『いやぁ、てっきり先手必勝とかいって馬鹿みたいに突っ込んでくると思っていたので、ちょっと安心しただけです。馬鹿じゃなくてよかった、と』
「そうか」
そりゃよかったな。
お前の能力で酷い目に遭わされた記憶があるんだ。
警戒するだろう。
『ところで、エルファラ様はお元気ですか?もしかして貴方の中で私に怯えて隠れているのでしょうか?』
──死ね。
「死ね、だと」
『お元気そうで何よりです。
どうです?後ろのアレ。なかなか綺麗に飾り付けられたと思いませんか?ウローダスも大変気に入っていて、アレを設置した瞬間あそこから動かなくなっちゃったんですよ。まだまだ仕事があるのに、困ったものです。それだけ貴方様を大切に思ってらしたんですねぇ』
王座に鎮座しているエルファラは確かに少年王として立派な装いだった。未熟ながらも精一杯背伸びして君臨しようとする様は、確かに良い絵だろう。だが、あの中にはその本人がいない。
本人がいなければ、アレはただの観賞用の人形と同じだ。
「趣味が悪い」
『どういー』
ピクリと、ケルダリウスが僅かに反応した。
『おやおや、エルファラ様が付いていながら、宿主の貴方はなんとも芸術に疎いのですねぇ。残念です』
「あんたと感性が同じたと思われても嬉しくないんで、オレとしては“同じじゃなくて良かった”と思ってるよ」
『そうですか。では、お喋りはこれまでにしましょう』
ジワジワと空間全体に魔力の糸が張り巡らされる。
後ろの双子達は結界を完成させている。反転の盾も含めた強力なものだ。ある程度なら耐えられるはず。
「こんな馬鹿げたこと止める気はないのか?」
『無いですね。呼吸を止めろと言われて止める者はおりますか?そういうことです』
「分かった」
元々話し合う気も無いだろうとは思っていた。
あとは、やり合って決着を着けるのみだ。
(補助、頼んだぞ。二人とも)
『任せてよ』
──全力でぶっ殺す。
ピンと限界まで張り詰めた空気が、殺気を纏って襲い掛かってきた。
視界一面が黒に覆われる。
広場の壁を埋め尽くすほどの黒い雨がオレ目掛けて発射された。
さあ、やるぞ。