因縁の相手.6+β
第二の門にて。
「大丈夫なんか?それ」
レーニォが訊ねる。それに「なにが?」と返した。髪色はオレンジ。ラビことラヴィーノである。
「ノルベルトや」
「ああ。今んところはな」
ラヴィーノの傍らでノルベルトが寝息を立てていた。
止血を施し、出来る限りの治療を完了させた。
危なかった。ラヴィーノの決断が遅ければ助かっていなかっただろう。
蜘蛛の鉄糸は内蔵に深く食い込んで、更に奥へ奥へと進行していた。無理に引き抜けば内蔵に多大な損傷が出る。最悪ラヴィーノでも治療不可能な程のだ。
そこでラヴィーノは一つの案を試してみることにした。
ガルネットには反対された。
レーニォにもだ。
糸を全て燃やし尽くす。
この案は諸刃の剣だった。なんせ糸を燃やせば、貫いた細胞も一緒に焼ける。だが、ラヴィーノは細胞が焼け切る寸前に細胞を回復させるのだという。
理屈はわかるが出来るなんて思ってなかったのだろう。
レーニォはラヴィーノの身を案じていた。
神聖魔法で傷を回復させるのは大量の魔力を消費することを知っていた。
ラヴィーノはただでさえ少ない魔力を許容範囲量を戦闘でほぼ使いきってしまっていた。これ以上使うとなると、ラヴィーノもただではすまない。
だけどラヴィーノはライハと一緒に戦い抜いてきた経験があった。臆病な性格は負けず嫌いへと変貌していた。臆病だからこそ過信せずに、けして間違いか起こらないようにと魔法の精度を高めきっていた。それによってラヴィーノの頭の中にはギリス人も驚くほどの知識を会得していた。
ラヴィーノは考えた。
どうすれば俺の命を落とさずに治療をし続けられるのだろうかと。
現在のラヴィーノの体は臓器は全てあるが、恐ろしく精密な肉で出来た作り物の人形と同じだ。心臓にはライハの腕輪が埋め込まれていた。
素材は魔宝石。その瞬間ラヴィーノはひらめいた。
己の中に魔力が足りないのなら周りから吸収すればいい。
周りは混沌属性の魔力だが、幸いにもラヴィーノの体内には濾過をしてくれる魔宝石が埋まっている。ちょっとした賭けであったが試してみる価値はあった。
地面に設計図を描いた。
恐ろしく複雑な魔法陣だが、見る人が見ればため息が出るほどの美しい魔法陣だった。
そしてきっとライハは気付くだろう。
この魔法陣のベースは前に聞いたチクセの魔法陣だ。
大量にあった魔法陣の情報から必要なものを抽出させて、体に合わせて調整を繰り返す。
慎重に、しかし素早く。
「よし!治療を開始する!」
その魔法陣を己の体に刻み込むと、設計した通りに辺りの魔力を吸収し、濾過をしてくれた。
体に異常がないのを確認し、ラヴィーノはノルベルトの糸を、糸の太さに合わせてゆっくりと燃やしていった。
普通の人が見れば、ラヴィーノの行動は気狂いだが、ノルベルトの顔色はみるみる内に良くなっていくのが分かった。
すべての糸を消し、止血を施す。
残念な事もあったが、命さえあればこの先どうとでもなる。
魔力は大丈夫だった。それどころかこの魔法陣のお陰で増えつつある。代償は大丈夫なのかと不安がよぎりつつも、その時はその時だと覚悟をしていたからかすぐさま頭の片隅へと消えていった。
ガルネットとレーニォにも治療を施し、何とか通れそうな部分を見付けて外へと出た。当たり前だが結界は損傷していた。すぐさま大量にある魔力を使って結界を張った。
今はノルベルトを横たえながら様子を見ているところだ。
ラヴィーノはライハの貸してくれた魔法陣の教本の中から最上位魔法陣の結界の記憶を引きずり出して、きちんと発動するかの確認をしていた。
今この中で、この空間で自由に動き回れるのはラヴィーノしかいない。
「うーん…。発動はしているんだろうが、俺には分からんから何とも…」
どこかおかしてくも分からない。困った。
「実験台になろう。やばかったらすぐに戻れば良いんだろう?」
ガルネットが実験台を引き受けてくれた。
試しにガルネットに魔法陣を施して歩いてもらった。
なんの違和感もない。正常に作動している。
それを見てレーニォは「さすがは俺の弟や」と感激して、ガルネットは「君本当はギリス人じゃないのか?」と言われた。違うわ。
そうしてノルベルトをレーニォが背負いながら廊下を歩いているのだが、果たして間に合うのだろうか?
ガルネットはしきりに後ろを気にしている。話を聞くと、先に一組、門のなかで頑張ってくれている仲間がいるらしい。
「!」
足音?
素早く武器を手に後ろを振り返る。
ガルネットの仲間か分からない。何せ足音が多いように感じる。
「え?」
だが、それを見た瞬間、三人は武器を下ろした。
敵ではなかった。