幻影.6
『ちっ、ちょこまかと…』
チヴァヘナの洗脳の妨害をしようとするグロレとリジョレを疎ましく思い、魔法や盾で吹っ飛ばそうとするが、先程の動きとは打って変わってスルスルと回避する。
それもそうだ。
現在チヴァヘナはユイの魅了洗脳に意識の半分を割いており、かつ、完了するまではその場から動けないのだ。おまけにジョウジョが消え際に何かしたらしく、普通ならすぐにでも手下にできる筈なのに、相当集中しなければ上手くいかないのだ。
半分の意識でユイの記憶を覗き、ユイが従わないといけない存在。傷つけられない存在を見つけ出し、それを自身に反映させる。しかもユイの場合厄介なことに女の姿が見当たらない。家の中には野郎ばかりが占領していて、お手伝いらしき女すら中年。
地獄だ。
女ならばすぐにでも反映できるのに、男だと色々調整しなくてはならない。
好みの女の姿があればいいのだが、残念なことにこのくそ真面目な男は最後までそんな色沙汰が無くはなかったが、ほぼ無関心だったようだ。
あまりにも人生を損している。
『ああ、イライラする』
ユイの髪を掴んで無理やり起こし、直接の魔力の流し込みを試みるも、これも何らかの妨害が邪魔をする。なんなのだこの男は。
でも、もう少しで完了する。
こいつの大切な人間はただ一人だった。特定すればさっさと顔を手に入れて…。
『あ?』
ドゴンと、すぐ足元の地面が破裂し、中から鎖が飛び出してきた。しまったと思う暇もなくチヴァヘナの両脚に巻き付いて地面へと倒す。その際、アーリャに向けて魔法を放っていた。
倒されている最中で頭を狙ったのだが標準がブレ、鎖を操っていると思わしき右腕に着弾。ベキンと右腕が折れたが、アーリャはそんな事どうでも良いと言わんばかりにグロレに向かって叫んだ。
「今!!」
『!?』
グロレの刃がチヴァヘナの髪を一房、切断した。
『何すんのよ!!』
髪を切られた怒りを込めて拳で振り払うが、その腕をリジョレが噛み付いて止めた。その隙にグロレはアーリャのもとへととんで行き、髪を手渡した。
「ありがとう」
アーリャの体から怪我がみるみる内に消えていく。
消えないものもあるが、大きな怪我が無くなって、余裕の笑みをチヴァヘナに向けた。
「さて、サキュバスさん?しっぺ返しって喰らったことあるかしら?」
『何いってるの? そんなの、この私があるわけないじゃない』
「ええ、そうでしょうとも。じゃあ!生まれてはじめてのしっぺ返し!!その身でもって味わいなさい!!」
双子の共鳴の蓋が開き、中の殆ど原型をとどめていない人形の首から自分の髪を取り、代わりにチヴァヘナの髪を入れて蓋を閉めた。上部の出っ張りの位置をパチンと動かした。
何かすると察したチヴァヘナがリジョレを振りほどき、ユイさえも放り投げてこちらへ来ようとするが、もう遅い。
「今まで受けた弟子と私の痛み、全て纏めて返すわね」
輝く笑顔でそう言って、アーリャは双子の共鳴を発動した。
『ゴッ!?』
べこんとチヴァヘナの鳩尾に大穴が開く。口から血が溢れ声も出せずに目を見開いた。次々に体から血が吹き出し、この度にチヴァヘナの体が右に左に揺すぶられ、子供に弄ばれるボロ人形のような有り様へと姿を変えた。
人形に蓄えられたダメージが、全てチヴァヘナへと向かったのだ。