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幻影.7

『ふふ、あはははははは!バカなやつ!人間なんか守って死んだわ!』


「セラ モガン!! ギィキュイ ジザン!!! ラブ ジザン!!!」


『何怒ってんの?死んだのは敵側なのに。でもこれで邪魔者は居なくなったわ!!』


グロレを放置してチヴァヘナが振り替えると、グロレを助けようとして突っ込んで来ていたユイと目が合う。しまった、そんな表情だ。


『さぁ!私のモノになりなさい!!』


瞳の色が変わる。
















ノイズが混ざっている。

砂嵐の向こう側、ザアザアと雨のような音の中から子供の声が聞こえた。


「……のぶ!のぶったら!」


ああ、懐かしい。


「さねちかさま」


「ぼーっとすんじゃねぇよ!いくぞ!」


先を駆けていく懐かしい幼少時の主の姿。

それを追い掛けて、血は繋がれど、主の世話役の一人として生きていた俺は必死で主を追い掛けた。


昔ながらのお屋敷に、はたはたと風に吹かれてはためく旗には雷の印が三つ並んだ家紋があった。















力が抜けたようにユイは地面に倒れ込んだ。

カシャンと刀が地面にぶつかる。


それを見てほくそ笑むチヴァヘナがグロレを見ることなくユイへと近付いていく。


『……あいつの最後の妨害か知らないけど、やりにくい。でも、時間さえかけれはどーって事ないわ。ふふ』


「っ!」


グロレが怒り、チヴァヘナへと向かおうとしたとき、何故かグロレの足が空を蹴った。


『………来いって。いい作戦があるらしい…』


リジョレがグロレを咥えてアーリャの元へ行く。

その目は、諦めなんか知らないという強い光りが宿っていた。















走馬灯の様に日々が巡る。

主はすくすくと成長し、当主が病で亡くなった為、13の歳で家を継いだ。


ユイは心配でならなかった。


何せ、主は充分な商いの教えを得られていなかったからだ。商いの教えだけではない。人との取引のしかたや切り捨てる時の注意点、何よりも“人を疑うこと”、“真の味方を見極める”方法を教えてもらっていなかったのだ。


主は心根が優しい。口調は乱暴だが、心の底から人を信頼しており疑うことを知らなかった。

知らないまま上へ押し上げられてしまった。


周りは信親を利用しようと企む者ばかり。何とかして主を取り込めば望んだ地位を得られる上に、傀儡化して家を乗っ取る事もできる。そんななか、ユイは幼馴染みとして、世話役として、部下として、信親に進言していった。


「どうか、人の言葉を鵜呑みにしてすぐに答えを出そうとせずに、一度飲み込んで冷静になってから答えを出してください」

「どうか、人の温情と家の重みを天秤に乗せて、バランスをとるように行動してください」


という事を言い続けた。

嫌われるやもと思いながら、言い続けた。

何せ、今の主の周りにはそんな事をいう者が誰も居なかったのだ。母親でさえ、取り込もうと必死だ。


だが、主は。


「なぜそんなにも人を疑うのか?気でも病んだか」


と、次第に嫌悪されるようになり、遂に近くに行くことすら儘ならなくなった。


そんな俺を邪魔だと思った周りは、主にこう言った。


「ユイは、この家を潰そうと企んでいる。だから貴方に人を疑えと言うのだ。我々と貴方を引き離すために」


何をバカなと、反論する隙も与えられず、俺は世話役を解任され、決死隊へと異動させられた。

その意味は明白。死んでくれたら都合が良いと言うことだ。


それでも諦めることなく、家の為に武勲を上げるが…。

いつの間にか、身に覚えのない濡れ衣を着せられていた。


主に楯突き、毒殺しようとしたというのだ。


夜中、俺と思わしき人物が台所に侵入し、その翌日主に出された食事のなかに毒があったというのだ。俺の後釜に着いた世話役が毒味で昏倒し、今もなお意識が戻っていないという。


そんな事はしていないというと、これが証拠だと家にあった薬瓶を出された。あれはただの栄養補給の為のものなのだが、毒を調べる液に中の粉を入れると変色した。

中身がすり替えられていた。というよりも、誰かが勝手に鍵を開けて上がり込んだのだ。


主の近くにいる警戒していた人物が、主に見えないように嗤っていた。前々から俺の事を疎ましく思っていた人物だ。


「……明日、切腹を命じる。残念だよ。湯井信明」


そうか。

としか、思わなかった。


もう少し上手く立ち回れたらと思ったが、今さらだ。


「だが、お前とは幼馴染みとしての情けとして、牢にだけは入れないでおく」


「なにを──」


言いかけた者を主が制す。


「こやつが逃げる訳がない。最後の温情だ。明日はお前の愛刀で首を落とすから、よく手入れをしておくように」


「…畏まりました」


深く頭を下げた。ああ、悔しいな。

これで、もう主の行く末を案じる者が居なくなってしまう。

こうなってしまうなら、いっそ、この手で全てを終わらせればよかった。


罪人の印としての刺青だけを入れられ、家に帰された。





せめて、最後の時をゆっくり過ごそうと家の扉を開けた。


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