幻影.2
見覚えのある姿に思わず固まった。色鮮やかな着物が視界一杯に広がって、落ちていく。
「………ジョウジョ…」
何故だ。
こいつは、あの時に確実に殺したはず。
『安心しなよ、私はただの魔力の残りカス。本体はちゃーんとあんたに殺されたよ』
「………」
ジョウジョは本当の事を言っているようだった。
現に、ジョウジョの体は時折揺らめき、体を形作っている魔力が外側から少しずつ解れていっている。
チヴァヘナの攻撃から解放されて、ユイの方も浮いていた体が落ちた。
その顔は何が起きた??と大混乱している顔だ。
双子は頭を打ったらしく悶絶している。
『…いった…。え、なに?なんであんた此処にいるわけ?死んだって聞いたのに…』
先ほどの衝撃によって髪が乱れたチヴァヘナが起き上がる。
(…おい、エルファラ。どういうことだ!?)
さっきの口振りといい、攻撃の妨害といい…。エルファラはジョウジョの存在を知っていたということになる。
というか、オレの中から出てこなかったか!?エルファラみたいに潜伏してたのか!?
『????』
ネコだけは完全に知らなかったみたいだな。というか、記憶すらも無さそうだ。さっきから『誰??』という顔をしている。
──ついさっき目が覚めたんだよ。チヴァヘナの気配を感じてな。本人たっての希望で、手助けをして解放したんだ。
ククク、とエルファラが悪い笑みを浮かべている。
…あの時の泣き虫が、まーーえらいひねくれた感じに成長したもんだ。
いや、これが素なのか?
──ジョウジョが死ぬ間際、お前に魔力の核を植え付けた。万が一、チヴァヘナと接触した時の事を考えてな。良かったな。
何がだ?いや確かに助かったけれども。……ん?
エルファラに妨害されてなかったらどうなってたか分からなかったよなと首を捻っていると、チヴァヘナがジョウジョの様子に気付いた。
『………あは、何?そーゆーこと? あんたのお気に入りな訳?そんな体が無くなっても殿みたいな事をしたかったんだ。ふーん…』
チヴァヘナが乱れた髪を掻き上げる。その顔はオレに向けていたものとは全くの別物になっていて、女としての敵に向けるような恐ろしい顔をしていた。それをジョウジョは真っ向から受けて立つ。
『ええ。あんたの様な“売女にだけ”は触らせたくなくてね』
『言ってくれるじゃない。幹部にもなれなかった遊女風情が』
ピリリと二人の間の空気が張り詰めた。
音を立てずにユイの方を確認すると、口パクと手振りでこちらにコンタクトを取ってきた。どうする?この隙にこっそり行くか?と。
多分そっちの方がこちら側の被害は少なくて済むのだろうが。その前にアーリャの救出をと思ったのだが、そちらに目を向けるとアーリャの姿が忽然と消えていた。
あれ!?
『あっ』
「へ?」
ネコが驚きの声を上げた。
見れば、何もなかった空間からチヴァヘナに向かってアーリャがタックルを仕掛けていたのだ。