赤い薔薇の花束を君に.2
すんでのところでコマが音波壁で防いだことで、ノノハラは吹き飛ばされずに済んだが、ノノハラは確実に悪いことが起こったのだと確信した。
「……これは…」
次々にマグマの海からゴーレムが起き上がっていく。
それらは一斉に陸地へと向かっていき、ライハの仲間らしき人達が水の刃にて応戦していた。
『──あぁああああああーーー!!!、!!』
「!!」
コノンが叫ぶ。
激しく胸元を掻きむしり、その中の一本の指が肌を貫通した。
いや、正しくは肌に偽装した土の鎧を貫通した。
胸から広がるヒビに次々に指が差し込まれ、コノンは力一杯引っ張る。
ベキリと音をさせてヒビが砕け、大きな穴が開いた。
ドロリとした黒いゼリー状のものが流れ落ち、穴の中が露になる。
コノンがいた。
角が生え、目も赤く輝いているが、コノンは少女の姿のまま、穴の中で悶え苦しんでいた。
体には先程の魔方陣が張り付いて赤黒く輝きながら体内に侵入しようとしており、それを本体であるコノンか必死に引き剥がそうとしていた。
土人形である異形の怪物の大きな手が、穴の中のコノンへと伸びる。だが、指先は届かず、穴の中に何か結界でもあるかのように、一定の距離から進まなかった。
穴の壁からはゼリーが染みだし、それがまるで血のようにドロドロと穴から溢れ落ちている。
そこで、ノノハラは気が付いた。
「コノンの心が揺らいでいる…」
神具を使うのなら、今しかない!
「コマ!飛ばして!!」
『グルァウウ!!』
獅子に変化したコマが立ち上がり、前肢を大きく振りかぶる。その肉球にノノハラが乗ると、コマはノノハラを思い切り打ち出した。
コノンはノノハラに気付いていない。
すぐさま神具を首から抜き、穴へと到達した。
不思議なことにゼリー状のものは質量が無かった。濡れるようなこともなく、張り付く様子もない。なのに、ゼリー状のものは服を用意に貫通し、皮膚に触れた。
途端、焼き付くような痛みに襲われる。
呪いだった。
それにコノンの感情も溶け込み、千の針で刺されるような痛みを伝えてくる。
それでも、ノノハラは手でそれを掻き分けて進み、コノンに抱き付き神具を発動させた。
風が吹いている。
体を背中から無茶苦茶に叩き付けられている。
目を開けば曇天が広がる空で、ノノハラは自分が高所から落下しているのだと理解した。
くるりと身を翻して下を見れば、何処までも深い森と山が続いている。
魔力は感じない。
かといってジャラル国でもない。
「!」
糸が張るような感触を感じて、ノノハラは意識を集中させた。
「 あんたなんか生まれてこなければ良かった!!!! 」
そんな言葉と共に意識が覚醒した。
足から伝わるのは固い地面。
前を向けば、女の子が女性から暴力を受けている所だった。
頬に蹴りが当たり、地面に転がる。
無造作に散らばる黄緑色の髪。
「コノン!」
暴力を奮われていた少女は、コノンであった。