炎の魔人.3
炎が二つに割れて消える。済んでで斎主に冷気を乗せたが、いやはや危なかった。
「しっかし、硬いな…っ」
ギリギリと刃が音を鳴らす。
炎を見くらましに、出来上がった長い尻尾で攻撃してきていた。
炎を切った流れですぐさま防御へ移さなかったら、凪ぎ飛ばされていただろう。
冷気を纏わせた斎主は何でも切れるが、タゴスはそう簡単には切らせてやらんとばかりに、冷気に対抗して尻尾が赤くなるほどの熱気を乗せていた。
おまけに力任せにオレを倒そうと、微妙に角度を調整していて、拮抗状態に陥っている。
──ビキキッ
そして、なお、タゴスの強化は続いていた。
穴からは重力に逆らって溶岩がタゴスの体を這い上がり、ますます凶悪な甲殻を作り上げている。
刺々しい鱗と、オレの斎主を受けきれるほど強化された長い尻尾。角は短いままだが、首の魔力が濃くなる毎にタゴスはタゴスではない化け物へと変化していっていた。
いや、元々悪魔ではあるのだが、どちらにしてもこれ以上強くなられても困る。
『ライハー!!』
ネコの声。
「よくも吹っ飛ばしてくれたわね!」
目だけ動かして確認すると、遥か遠くからネコがキリコを尾の先に乗せてやって来ていた。
「吹っ飛ばされていたのか」
どおりで見当たらないと。
「!」
ふっと、突然剣に掛かっていた力が消えて体制が崩れかけた。
尻尾が埒があかないとばかりに大きくしなり、先程よりも勢いを増してオレへと放たれる。
『がルルルぅっ!!』
それを、可愛らしい声を出していたと勘違いした大きな犬が体当たりして狙いを逸らした。
「ゴ、ゴールデン・レトリバー!」
にしてはちょっとでかいけど。
まさかのゴールデン・レトリバーに助けてもらうとは!
『ネコを見る目付きとちがーーう!!!』
「すまん。元々犬派だったもんで」
推しは大型犬。
せっかく作ってくれた隙を無下にするわけにはいかないと、冷気を足に集中させて地面を踏みつけた。
コン、と硬質な音を立てて雪の結晶の模様が広がり、地面が一瞬で凍り付いた。
『ーーーッ!!』
穴も溶岩も冷えて固まり、タゴスが苦し気に仰け反った。
効いてる!
「ぜあああああ!!!」
ネコがキリコを思い切り投げ。
「やぁあーー!!!」
グロレが体制を立て直して再びタゴスへと跳んだ。
二方向からの赤い矢がタゴスへと襲い掛かった。
凄まじい攻撃。だが。
「くっ、届かない」
「なにこれ!邪魔よ!」
タゴスの周りに、攻撃を防ぐための魔法陣が浮かんでいた。
オレの知っている魔法陣ではない。強度もそこそこあるようで、一枚につき、キリコの蹴りを三回も防いでみせた。
魔法陣の魔力の源はタゴスではない。魔力の質が違う。あの首もとにある印からの魔力だ。
「エケネイス!固めなさい!!」
ナリータの命令によってエケネイスの口がこちらを向き、キューンと甲高い音を立てて魔力が集まっていく。
「二人とも離れて!!」
二人が退くと同時にエケネイスから凄まじい冷気の塊が吐き出された。
冷気は動きを制限されたタゴスに直撃した。ように見えた。
爆風と白い煙が晴れる。
タゴスは無事だった。当たる寸前、タゴスが冷気に気付いて視線を向けた瞬間、冷気とタゴスの間に複数の魔法陣が展開されていたのだ。
ビリビリと冷気の塊と魔法陣が激しく振動しながらせめぎ合い、突然魔法陣の方向が変わり、狙いを定めるような気配を感じた。
「まずいっ!!」